よみがえれ明治期のメニュー 復刻カレーの不思議な魅力長内あや愛さん:朝日新聞DIALOG
2023/05/01

よみがえれ明治期のメニュー 復刻カレーの不思議な魅力
長内あや愛さん

By 沈意境、仲川由津、岸峰祐(DIALOG学生部)

 明治時代の牛鍋、アイスクリーム、そしてカレーライス。

 「食の会」代表の長内あや愛さん(26)は食文化の探究を続け、東京・日本橋の店舗で「復刻再現メニュー」を提供しています。昔のレシピをひもとき、現代によみがえらせる。そこには、持続可能な「食」への思いが詰まっていました。

 「明日へのLesson」のインタビューに参加したDIALOG学生部メンバーが、印象に残った言葉を振り返ります。

明日へのLesson 社会課題に取り組み、明日を切りひらこうとする若手の起業家、社会活動家、アーティストなどを紹介する紙面との連動企画。DIALOG学生部のメンバーがインタビューに同席し、学びを共有します。

(上)150年前のカレー「コルリ」(左下)復刻再現牛肉(右下)明治時代のアイス=いずれも写真提供、食の会

150年前と今 食卓で楽しむロマン
沈意境(DIALOG学生部)

 「(150年前に)こんなものが食べられていたんだ」と文献を見るだけでもロマンがあって楽しい。(食の会は)それを実際に作り、みなさまにお召し上がりいただく場所です。

長内あや愛さん

 江戸後期と明治前期の食文化を研究しているという長内さんは、このように事業を紹介していた。

 長内さんによると、当時の新聞「時事新報」は、日本に入ったばかりの洋食レシピを掲載しており、150年前の市民生活をいきいきと伝えていた。当時、日本には「タンパク質を十分に取らないと、体力が足りなく、海外には勝てない」という風潮があり、肉が食卓に載るようになったそうだ。

 長内さんの話をうかがった後、歴史は単なる政治や戦争の年表ではなく、市民の日常生活を映すものだと実感した。時事新報は進歩的な新聞という認識があり、日本人の日常生活をそこまで子細に記録していたとは思わなかった。

 「ジャーナリズムは歴史の第一稿である」

 ジャーナリズムを専攻する私は、この一言を思い出した。改めてメディアの「記録する」意義を実感した。

 食文化の研究は、歴史に対する理解を深めるだけではない。「持続可能な食」という課題にもつながっている。長内さんは食料不足の問題を解決するため、新食材の開発にも携わっている。昔の人が肉を食べる文化にどのように向き合ったかは、新食材の普及に役立つヒントにもなりそうだ。

 食卓と開国。明治期と21世紀。一見すれば関わりが薄いことを、長内さんの活動はつないでいた。レストラン巡りと歴史が大好きな私も「食」を切り口にして様々な感動に触れていきたい。

DIALOG学生部メンバーと

カジュアルさと、ひたむきさの二面性
仲川由津(DIALOG学生部)

 (復刻メニューには)完全再現と相対的再現がある。私は、相対的再現を目指している。

長内あや愛さん

 “明治時代に食べられたアイスクリーム” “福澤諭吉が好んだ牛鍋” “日本の洋食の導入・普及に一役買ったカレーライス”(中略)相対的復刻再現に挑戦し、実際にお召し上がりいただいています——。

 食の会のホームページには、こう記されている。

 長内さんは、相対的再現について「昔食べられていたものを、昔のままのレシピで作るのではなく、当時の生活水準などを考えて『今で言うと、こういうもの』みたいに置き換える」と説明してくれた。

 「今で言うとこんな感じ!」というカジュアルさと、食文化の研究で修士課程を修了した長内さんの確かな知識。その二面性を面白いと感じた。

 相対的再現は「昔の食材を今の食材で代用する」というイメージを持っていたが、長内さんの相対的再現は一味違う。

 例えば、明治期の新聞に載っているという「タコの年寄り煮」。そのレシピには「タコを番茶で煮て柔らかくする」工程があるそうだ。番茶は現存するお茶の種類である。しかし当時は非常に安価なお茶だったので、今でいうと「コンビニの粉末緑茶」なのではないか、と長内さんは言う。

 材料一つにしても額面通りには受け取らず、その時代の生活水準、地域性、人々の収入、生活圏内で得られる食材と値段……細部にまで想像を巡らせる。専門知識を生かしてひたむきに熟考を重ねる姿勢に、食文化を追究するプロの姿勢が垣間見えた。

持続可能な食文化 私たちがつくる
岸峰祐(DIALOG学生部)

 「食べるべきもの」と「食べたいもの」を包括した食文化、まさに「持続可能な食文化」をつくっていく。

長内あや愛さん

 昨今、コオロギパウダーなど様々な新食材が誕生しています。食料問題の観点からは新食材が広まることが理想に思えますが、現実に目を向ければ私たちはマックやポテチを食べている。おいしくなければ選択しないし、食文化もつくられない。だからこそ長内さんは「食べるべきもの」かつ「食べたいもの」としての食を創造することで、環境変動や人口増加に耐えうる持続可能な食文化の実現を目指しています。

 先日、ジェラート屋さんで「ユーグレナ」味のジェラートを見つけました。ショーケースには「抹茶のような味」との紹介文。抹茶アイスは大好きなので挑戦し、口当たりもよく、おいしかったと記憶しています。ただ、表示名が「ミドリムシ」(学名はユーグレナ)だったら、理科の教科書に載っていた写真を思い出して躊躇(ちゅうちょ)していたかもしれません。ネーミングにも助けられ、新食材のおいしさに出会えた経験でした。

 過去に目を向けると、食の会で提供されている明治初期のカレー「コルリ」の素材の一つはカエル肉。なじみのない食材ですが、おいしかったからこそ食文化として成立したのでしょう。異国の味を受け入れた150年前の日本人の柔軟さに、驚かされます。

 「食べるべきもの」を「食べたいもの」に。長内さんのような試みを通じて、食の選択肢はさらに増えていくと予想されます。けれど、提供する側の挑戦だけでは、十分ではありません。私たち消費者の、新しい食との出会いを楽しもうとする姿勢が、持続可能な食文化をつくっていくのです。

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