

ビジネスを通して、保護猫と社会の接点を増やす。
飼い主がいない、家がないといった状況から、一時的に助けられて生活している保護猫。
ボランティアのイメージが強い保護猫活動をビジネスとして後押しし、新しい風を吹かせている株式会社neconoteの代表取締役・黛純太さん(28)。複数の事業を展開しながら、社会と保護猫をつなぐ存在になろうと試みています。
■イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。対話を通じて、活動への思いや生き方、めざす世界を共有します。
“架け橋” フリーペーパーも
——株式会社neconoteの事業を教えてください。
保護猫業界と社会をつなぐ“架け橋”になるような事業を展開しています。力を入れているのは、保護猫の推し活サービス「neco-note(ネコノート)」です。
■noco-note ネコノートは、保護猫団体が登録した保護猫の中から、ユーザーが任意の猫を選び、月額会員(バディ)となることで、選んだ猫のライブチャットなど、限定コンテンツを楽しむことができるWebサービスです。月会費や追加課金で発生した売り上げのうち、一部サービス運営費などを除いた金額が、その猫が所属する保護猫団体に支払われます。アイドルのライブ配信を「推し活」するように保護猫1匹1匹を支援できます。(株式会社neconoteのプレスリリースから)
他にも保護猫との暮らしを届けるフリーペーパー「さとねこたより」、保護猫をモデルにしたイラスト販売サービス「ニャがおえドネーション」、地域を盛り上げ保護猫文化を根付かせるための「NECO STAND」などもやっています。

悲しい問題 SNSで知った
——株式会社neconoteを立ち上げたきっかけを教えてください。
生まれてからずっと自宅に猫がいて、いわゆる猫好きとして育ちました。大学生のときにSNSで猫の殺処分問題を知り、いつか問題解決に関わろうと思っていました。ただ、仕事としてはコピーライターをしたくて、「将来はコピーライターになって、お金持ちになって、そのお金で保護猫を助けたい」という漠然としたイメージは持っていました。
就活でエントリーシートを企業の方に見ていただいたとき「なんでコピーライターになりたいのかはわかった。でも“何のために”なりたいのかわからない」と言われました。
賞を取ったり、かっこいい作品をつくったりしたいと思っていたけど、それって本質的ではない。帰りの電車で、改めて“何のために”を考えて、「猫を助けたい」と思ったのが会社設立のきっかけですね。
新卒 まずは広告業界へ
——大学卒業後すぐに起業したのですか。
まずは広告業界に入りました。でも、ただの「コピーライターになりたい」から「保護猫活動を見据えてコピーライターになりたい」に変化したんです。
広告は、いろんな問題を世の中にポップに発信できます。これまでも人種差別、戦争などの問題意識を社会に広めてきました。保護猫の問題も、広告を通して世の中に知ってもらえると思いました。
並行して、保護猫団体との関係づくりもしました。関係が深くなるにつれて、保護猫業界にはマーケターのように商品のプロモーションや情報発信をする人が必要だと感じたので、その役割を担うことを決意しました。

収益化に注力 社会とつなぐ
——保護猫団体との違いは何ですか。
保護猫活動とビジネスを結びつけ、収益を上げることを目的の一つにしていることです。多くの団体はボランティアや寄付によって活動していますが、この方法は持続可能性があまりないと思っています。
収益化と聞くと「保護猫でもうけよう」と悪く聞こえてしまうみたいなんですが、潤沢な資金と人手のもとで運営されているほうが猫にとってもいいと考えています。
あとは、積極的に保護猫業界以外とつながろうとしているのも、他とは違うところだと思います。もっと社会とつながっていけば、保護猫のことを知ってもらえるし、収益化にもつながりやすくなって、持続可能な団体運営がしやすくなる。そのために自分が保護猫業界と社会の架け橋になろうと思っています。

「活動が前に進んだ」
——架け橋になれたと実感したことはありますか。
neco-noteを利用した保護猫団体から「資金が集まり、保護猫活動が前に進んだ」と言っていただけたことがあります。
保護猫団体が社会とつながることは、保護猫団体だけにメリットがあるわけではなく、社会にとっても価値があると考えています。
——複数の事業を展開するために、意識していることはありますか。
新しい事業を始めるときには時間もお金もかかるので、ロジカルシンキングは意識してやっていますね。猫に最大限、時間とお金を還元するためにどうしたらいいかを徹底的に考えています。
とはいえ昔からこのロジカルな思考をしてきたので、無理してやっているわけではないです。例えば遊戯王カードで遊んでいるとき、強いカードを持っている人のほうが勝ちやすいんですよ。でもそのカードを得るためには高いお金がいる。だったら今あるカードで勝てるようにしようと、論理的に考えて工夫していました(笑)。

“稼げる猫” 増やすために
——今後の目標を教えてください。
2023年の目標は、neco-noteに登録されている猫1匹の年収を30万円にすることです。保護猫団体と話す中で、“稼げる猫”が2、3匹保護猫団体にいることで、団体の活動が安定して猫にも還元されると感じたので、それを実現させたいですね。
中長期的な目標で言うと、5年後、10年後も、保護猫団体がneco-noteを利用して活動を続けている状態をつくりたいです。
——保護猫業界に興味がある人、社会問題を解決したいと思っている人に一言お願いします。
保護猫業界に興味がある人は、保護猫施設に直接行って話を聞いてみてください。(パソコンやスマホの)画面からは伝わってこない、現場の雰囲気がわかると思います。複数の保護猫団体を見て、いい面も悪い面も知ってもらいたいですね。
社会問題を解決したい人は、気になる単語をインターネットで検索して一番最初に出てきた人に会いに行くのがいいと思います。その人は多分、世間から見た「活躍している人」だと思うので、業界全体のことがわかるんじゃないかな。
抽象的に捉えている「社会課題」の中身を深く知って、細かいところに着目できるようにするのが大事だと思います。
納得するまで興味を突き詰める
隈部萌栞(DIALOG学生部)

黛さんのお話をうかがって、物事をいろんな角度から見る力の大切さを感じました。
私は考えることは好きだけど、視野が狭くなりがちなのでちょっと反省しました。これから始まる就活に向けて、漠然とした興味を見つめ直し、自分が納得するまでいろんな角度から見ていきたいと思います。
黛純太(まゆずみ・じゅんた)
1994年、埼玉県出身。株式会社neconote代表取締役。2017年2月にneconoteの前身となるchátを立ち上げ、50以上の保護猫団体のインタビューなどを行う。保護猫業界の“自続可能性”を高めることをミッションとし、保護猫の推し活サービスneco-noteを運営。ほかに、保護猫団体と協業して企業のCSR(企業の社会的責任)、CSV(共通価値の創造)支援や譲渡会の企画運営、保護猫分野における新規事業支援、保護猫共同住宅の企画運営などを手がける。
(本文の写真は黛さん提供)