
宇宙は、人類のフロンティア。
月旅行に行き、火星を探検する。そんなことも夢ではなくなってきました。
「星取県」「鳥取砂丘月面化プロジェクト」。日本で最も人口の少ない県が、「宇宙」をキーワードにした地域づくりに取り組んでいます。
DIALOG学生部のメンバー3人が、鳥取へと飛びました。
■参加した学生部メンバー
【DIALOG学生部】仲川由津(大学4年)、猪又玲衣(大学4年)、中村真依子(大学2年)

砂丘は強風 砂まみれ
東京・羽田空港を飛び立った一行が降り立ったのは、鳥取砂丘コナン空港。「名探偵コナン」のキャラクターが描かれたポスターが出迎えてくれます。「コナン」の作者は鳥取県北栄町出身なのです。
空港名にも入っている鳥取砂丘に、まず向かいます。
ビジターセンターに着くと、舗装された地面に砂が舞います。髪や服が、すぐに砂まみれに。強い海風が、砂丘から砂を運んできているようです。
木製の階段を上がって砂丘に足を踏み入れると、大きな起伏の向こうに青い空と海が広がっています。
「海めっちゃきれい」「すごーい」
砂丘初体験の3人から歓声が上がります。

目の前には「馬の背」と呼ばれる砂丘列(丘陵)。その下にオアシスのような水たまりがあり、まばらに草が生えています。
「馬の背」は、鳥取県のホームページによると標高47メートル、最大傾斜が32度。仲川さんが「登山」に挑み、崩れる砂と格闘しながら登り切りました。
砂丘の上では、海風がひときわ強く感じられます。海を向いて立つのがつらいほどです。
雄大な景色と、吹きさらしの過酷な環境。
月面体験をする夜、砂丘はどんな表情を見せるのか、想像が膨らみます。

体力ブラックホール 急勾配の「馬の背」に挑戦。軟らかい砂のせいで登っても登っても「3歩進んで2歩下がる」。顔から砂に突っ込みそうになりましたが、周囲にも前のめりに手をついてしまう人がいました。馬の背は「体力ブラックホール」でした。(仲川由津)
時とともに 一面の砂に距離感がわからなくなった。人が小さく見えて雄大さを感じた。時とともに風や光の当たり方が変わる。斜面を登り切った後に見えた、青く広大な空と海。砂の色との対比。自然のすばらしさを感じ、砂丘の環境にも興味が湧いた。(中村真依子)
風のアート 好きなYouTuberが紹介していたこともあり、楽しみにしていました。訪れてみると、あまりの風の強さに前に進むことができませんでした。朝方が穏やかでオススメみたいですが、風が強いからこそ、1秒ごとに形を変えていく風紋が美しく印象に残りました。(猪又玲衣)
ガラス張り施設でセッション
砂丘を体験した3人は、近くにあるコワーキングスペース「SANDBOX TOTTORI」に移動しました。鳥取県の宇宙関係の取り組みについて、県の担当者と企業の方々とのセッションに臨むためです。
「SANDBOX TOTTORI」は会議室、カフェやシャワールームも備えたガラス張りの施設。コワーキングスペースでは、砂丘を望みながらパソコンを開く人たちがいます。
セッションに集まったのは、DIALOG学生部メンバーのほか、こちらの方々です。
■セッション参加メンバー
【鳥取県】井田広之(産業未来創造課課長補佐)、高橋智一(同)、森田雅典(ふるさと人口政策課関係人口推進室長)、横山千紘(同室課長補佐)
【amulapo】田中克明(代表取締役CEO)、松広航(取締役COO)
セッションの内容は、こちらからご覧ください。

夜、砂丘は月面になった
セッションを終え、いよいよ月面体験です。
日が落ちるのを待ち、「SANDBOX TOTTORI」から砂丘に移動。街灯のない道を、月明かりを頼りに歩きます。
月面体験を提供するのは、宇宙体験コンテンツの制作を手がける株式会社amulapoです。
砂丘の入り口で、学生3人はARグラスを着けます。ARは拡張現実。現実の景色にCGを重ねることで、非日常を体験できる仕組みです。
砂丘へと続く小道を抜けると、夜の砂丘が現れました。昼とは打って変わって穏やかな風。波の音が遠くから響きます。
「めっちゃ星きれい!」。3人は空を見上げ、手の届きそうな星々に驚きます。足元を見ると、風紋の陰影が、月面のモノクロームのイメージに重なります。

宇宙開発 過去と未来
3人が最初に体験したのはエリア1「アポロの足跡」。1969年に人類初の月面着陸に成功したアポロ11号の偉業を再現し、「月面」に旗を立てるミッションです。
松広さんは「宇宙開発の歴史をエリア1~5で体験してもらいます。今は過去。アポロ11号のミッションを振り返っています」と説明します。
ARグラスを通して、月着陸船の降下から、アームストロング船長らが月に降り立つ姿が見えています。

「1キロ運ぶのに1億円」
エリア2「電力資源探査」では太陽光パネルを設置して電力を得ます。エリア3「水資源探査」では水を確保。エリア4「建築資源探査」では、月の砂を固めてブロックを作ります。どれも月面開発には欠かせない技術です。
「1キロのもの、例えば500ミリリットルのペットボトル2本を月に持っていくには1億円かかります。ですので、地球から持っていくよりは、月にあるものを使ったほうがいい。地産地消のプロセスを体験してもらっています」と松広さんは言います。
エリア5は「未来探訪」。「2040年の月面都市」を探検します。「犬を散歩している人が宙に浮いている」「五重塔とピラミッドがある」「UFOが飛んでいる」。DIALOG学生部メンバーは、それぞれARグラスで見えているものを説明しながら砂丘を動き回ります。
最後に、全員で記念写真を撮って月面体験を終えました。
手が届きそう アポロ11号の旗の再現から始まって、水資源を探したり、未来の月面都市を想像したり。みんなで努力すれば、こんな未来が現実になるかもしれない。多くの人々が月に魅力を感じ、月を目指したくなる気持ちがよくわかりました。(猪又玲衣)
#月面なう 水資源探査が印象的でした。ものの数分でしたが、探査装置が「水」に反応したときはみんなで跳び上がって喜びました。肌寒さの残る砂丘で、わずかな光と音を頼りに地道に水を探す。気分はまさに月にいる宇宙飛行士でした。(仲川由津)
夢までの距離 目の前で宇宙開発が進んでいく様子をARで見ると、宇宙開発のイメージがより鮮明になりワクワクした。同時に、現在の宇宙開発がどこまで進んでいるのかも知りたくなった。(中村真依子)

社員4人 ISSで使用される部品も
2日目、鳥取市内にある宇宙関係企業を訪問しました。
精密機械部品加工を手がけるMASUYAMA-MFG株式会社。社員は4人。国際宇宙ステーション(ISS)で使用する顕微鏡部品などの製作実績があります。
住宅地にある工場の中では、社員が3次元のデザイン・製造ソフトを使い、高精度の切削機を操作しています。

精巧サンプル マイクロメートル単位
さまざまなサンプル品を見せてもらいました。
例えば、QRコードを彫り込んだ金属製の名刺。「世界に一つしかないため、名刺交換はできない」そうです。
学生部メンバーが驚いたのは「飛び出せ鳥取」。ただの金属製の直方体に見えましたが、上面に筒状の部材を押し込むと、側面から鳥取県の形が飛び出してきました。内部の空気が圧縮されて、滑らかに動きが伝わる仕組みです。部材と部材の隙間は、2~5マイクロメートル(マイクロメートルは1ミリの1000分の1)だそうです。
同社は、極めて高い精度で金属加工できることなどを強みにしています。ですが近年、米中の貿易摩擦やコロナ禍の影響で、受注が伸び悩んでいたといいます。

社員の頭に「?」が並んだ
何を作ったらいいのだろう——。社長の益山明子さんは悩みました。「馬の背の近くまで行って、寝っ転がって夜空を見上げたんです。そうしたら、星がすごくきれいで……。ずっと見ていたら『宇宙に行くものが作りたい』。そう思ったんです」
宇宙産業は国家事業なので、生産拠点が海外に移ることがない、という戦略的な判断もありました。
益山さんによると「宇宙事業に参入しよう」と社員に言ったとき、みんな頭の上に「?」が並び「そんなことはできるわけがない。一体、何を言い出し始めたんだろう」という雰囲気だったそうです。ですが、宇宙事業を進める中で「メンバーが自信と誇りを持って仕事をするようになった」と振り返ります。
「将来的には、鳥取県が宇宙パーツ製作のハブ(連携拠点)になってほしい」。その願いを後押しするように、産学官連携で宇宙産業の創出に向けて取り組む「とっとり宇宙産業ネットワーク」には、地元だけでなく全国から90の企業や団体が参画(2023年5月16日時点)しています。
一人ではなく 人との関係性を大切にする益山さんの姿勢が印象に残った。企業や社員への尊敬と感謝、「力を貸していただく」という思いがあるからこそ、宇宙という新しい分野に挑戦できるのだろうと思った。(中村真依子)
諦めずに挑戦 益山さんは従業員一人ひとりに対して対等に接していることがよくわかりました。挑戦し続ける経営者としての姿勢を知り、私も困難や挫折を経験しても諦めない勇気が湧きました。(猪又玲衣)
小さいけれど 3次元データで職人技を残し、顧客と企業双方の「より良い」に向けて挑戦し続ける。「たった4人の小さい会社ですが、大企業とも対等に話し合える会社であり続けたい」と語る社長・益山さんの気概が心に刺さりました。(仲川由津)

NASA研究員を経て鳥取に
一行が次に向かったのは、鳥取大学。とっとり宇宙産業ネットワークには、鳥取大学工学部附属先進機械電子システム研究センターも名を連ねています。
工学部の会議室で、機械物理系学科教授の酒井武治さんが出迎えてくれました。
酒井さんは、東北大学大学院で宇宙工学の博士課程を修了。NASA(米航空宇宙局)の研究員を務めた後、名古屋大学大学院工学研究科准教授などを経て鳥取に赴任しました。
専門は流体力学。小惑星探査機「はやぶさ」などは宇宙での探査を終え、地球に帰還して大気圏に突入するとき高熱にさらされます。そこで燃え尽きないようにするには、突入時の空気の状態を予測しておかなければいけません。
「縁の下」の人材 育てる
酒井さんは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の実験装置などを使い、どうしたら熱に耐えられるかをシミュレーションしているそうです。「大気圏突入の時間は、宇宙ミッション全体からするとすごく短いのですが、失敗はできない。極限的な環境を、いかに地上で再現するかが難しい」
将来、例えば月面基地をつくるといったとき、地球からの輸送技術を確立しておくことが欠かせません。また、世界中で通信を可能にする「スターリンク」のような衛星通信技術も、安全で効率的な輸送技術があるからこそです。
酒井さんは「輸送技術が宇宙活動を支えている。縁の下の力持ちのように、それを担う人を育てていきたい」と語りました。
新しい世代へ 自分が何かを成し遂げるよりも、新しい世代にどのように研究内容を伝えていくかに尽力している、という話が印象に残っています。鳥取大学が主体となり、官民学一体で宇宙についての知識が学べる場が増えていけばいいと思いました。(猪又玲衣)
一瞬のために 宇宙への長い旅のうち、大気圏突入の一瞬だけで一つの研究分野となり、宇宙研究の幅の広さを知った。基盤となる研究の重要性を改めて感じた。社会の関心が高まって研究したい人が増えれば、地域と学術分野の接続も大切になると気づいた。(中村真依子)
燃える研究者 「航空宇宙は安い・速い・軽い・強いが重要」。自分にはなかった視点でした。やりがいを感じる瞬間を聞かれて「自分しかまだ見てないだろうなというデータを見ると燃える感じ、疲れが吹き飛ぶ感じはありますね」と、うれしそうに答える姿が印象的でした。(仲川由津)