全盲の東大准教授にインタビュー障害が「困難」にならない社会を目指して:朝日新聞DIALOG:声の力
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「声の力」プロジェクト

2019年08月30日公開

全盲の東大准教授にインタビュー障害が「困難」にならない社会を目指して

Written by ジュレットカミラン with 朝日新聞DIALOG編集部 Photo by 伊ケ崎忍

朝日新聞DIALOGはこの夏、新しいシリーズ企画「声の力」をスタートさせます。視覚障害のある高校生たちが、声による表現方法を学ぶことで、自身の可能性を広げることを目指すプロジェクトです。そのプロローグとして、障害学が専門の星加良司・東京大学准教授(43)にインタビューしました。星加さんは自身も全盲で、障害を社会環境のあり方から捉え直す研究をしています。

障害は身体ではなく社会の問題

—— 障害学とは、どのような学問ですか?

障害学は「Disability studies」の訳語です。学際的な研究の集まりで、そこには社会学、法学、哲学など様々なアプローチの研究があります。私は社会学的な観点から研究をしています。

従来の障害研究の主要なアプローチ方法は、障害を医学的な問題として捉えることでした。障害者は身体に機能的な制約があるので、身体を健常なあり方に近づけていくことができれば、問題を根本的に解決できると考えられたのです。そのため、障害者を医学的に治療したり、障害のない人の身体機能に近づけるような様々な器具が開発されたりしてきました。

一方、障害学では、障害は身体の問題ではなく社会の問題だと捉えています。障害があることと、その人が社会生活を送っていくうえで困難を経験することとの間には、実は直接的な因果関係はありません。いかなる身体状況でも、社会環境のあり方によっては困難を生まないこともあり得ます。現在の社会環境は、障害のないマジョリティーの人たちに合わせてつくられています。マイノリティーの人たちを排除することによって、あるいは、排除することを仕方のないこととしてデザインされた社会環境であるために、マイノリティーである障害者が困難な経験をしている。それが障害学の原点にある考え方で、障害問題を解決するために社会環境に注目します。

—— そもそも「障害」とは、どのような問題なのでしょうか?

端的に言うと、社会環境と人間とがある種のミスマッチを起こしている問題だと思います。社会環境はマジョリティーに合わせて形成されるように力学が働きます。民主主義的な体制の下では多数派の意見が通りやすいし、マーケットでも多くの人が必要とするものは大量に生産されて安く流通する。マジョリティーに合わせた社会環境が形成されればされるほど、マイノリティーと社会環境との間のミスマッチが広がっていく構造があります。

また、障害とは「能力」の有無が主要なテーマになっている問題だとも思います。マジョリティー向けに整備された環境では、マイノリティーの人にはできないことが多くなる。それも障害の問題として捉えることができると思います。

点字受験を認めるかどうかで教育委員会が議論

—— 星加さんは5歳のときに小児がんで視力を失いながら、小学校からずっと普通学校に通ったそうですね。社会環境とのミスマッチは大きかったですか?

私は愛媛県新居浜市の生まれで、小学校に入学したのは1982年です。当時の地方都市では、視覚障害者は盲学校(現在の特別支援学校)に行くのが通常のルートとされていましたが、私は普通学校を選びました。みんなと同じ学校に行きたかったからです。
私が普通高校を受験しようとした時は、点字受験を認めるかどうかが教育委員会の中で問われました。愛媛県では初のケースでしたから。教育委員会や行政機関が、視覚障害者は盲学校に行くのが普通だとしていたので、いろいろ難しい状況はありましたが、自分の希望を伝え続けた結果、最終的に認められ、進学できました。

ただ、高校までは、点字の教材は学校としては準備できないので、必要だったら家庭で責任を持って用意して、と言われました。そのため、母親とボランティアの人たちが教材を点訳する作業をしてくれました。

—— 大学受験でも壁はありましたか?

今でこそ多くの大学が障害学生を受け入れるようになっていますが、私が受験したころは大学によって対応のばらつきがありました。幸い、私が受験した東京大学の場合は、過去に2人、全盲の学生が入学した例があったので、どういう形で受験すればいいのか相談に乗ってくれました。合格後は、学内の学習環境を整えることにも積極的に応じてくれました。

自らのマジョリティー性に気づくことが出発点

—— マイノリティーが過ごしやすい社会環境をつくるには、どのようなアプローチをしていくべきですか?

まずは、それぞれが持っているマジョリティー性に気づくことだと思います。マジョリティーの人たちはあらかじめ、能力を発揮しやすい社会環境をつくってもらっています。一般的に人間は、物事がうまくいったときには、その理由を自分の能力や手腕に求めるものですが、より本質的には、自分がうまくできるような環境がもともと整っていたからかもしれません。自分は有利な条件を与えられて得をしている側だと気づくことが、マジョリティー性に気づくということです。裏返して言えば、不利な状況に置かれている人がいるかもしれないと想像力を働かせること、それが第一歩です。すごく難しいことではありますが……。

—— マジョリティー性に気づく人は増えていますか?

たいして増えていない気がしますね(苦笑)。たしかに、障害者が困っている状況に対して何らかのサポートが必要だと考え、理解を深めよう、助けようという意識は、マジョリティーの間で広がっているとは思います。しかし、自分がなぜマジョリティーの側にいるのか、助けてあげようと思える側にいるのか、と問い直すことが重要なはず。そこに対する意識変革はまだまだ不十分です。

これは障害に限った問題ではなく、例えば LGBT に対する理解促進でも同じことが起きている。「異性愛」という特定のセクシュアリティーをもった人たちに合わせて、結婚制度や家族制度が設けられているし、税金の控除など経済的な面でもプラスになる仕組みがある。それを当たり前のものとして享受してきた人たちが、性的なマジョリティーです。自分たちが、実は有利な条件をあらかじめ与えられていることに気づかないと、マイノリティーに対して「あの人たちはかわいそうだ」という上からの目線でかかわることになり、マイノリティー側はマジョリティー側のおごりを感じてしまう。そうした状況が残り続けるのは大きな問題だと思います。

—— 朝日新聞DIALOGは2030年の未来を考えるコミュニティーです。そのとき、社会はどうなっていてほしいですか?

マイノリティーを受け入れ、多様性のある社会をつくることが望ましいという共通了解が広まり、その中で様々なものが変わってきました。こうした流れがさらに進むことを期待していますが、最近、それが逆に崩れ始めているのではないかと懸念しています。例えば、世界的には、移民などの流入と国民国家の仕組みの維持をめぐるトラブルがあります。ジェンダー問題では、女性が権利を主張することに対し、反動的に「男性に対する逆差別である」と主張する人たちの運動も起きています。障害についても同じような反動が起きていると思います。それが非常に極限的に現れたのが、3年前に相模原市の施設で起こった障害者殺傷事件だと思います。

マイノリティーの権利を保障することは、本来的には、マジョリティーの特権性をならしていくプロセスです。しかし、マジョリティーとして既得権益を得ていた側からすると、不利な条件をのまされるような感覚に陥りがちです。その結果、マイノリティーに権利を与えていくことに対して、反動的にそれを排除しようとする傾向も生まれてきているように思います。そうした状況をどう阻止するかが、今後10年の大きな勝負だと思います。

【プロフィル】
星加良司(ほしか・りょうじ)
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター准教授。専門は社会学、障害学。1975年、愛媛県生まれ。全盲だが、小・中・高校とも普通学校で学ぶ。2005年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。同センター講師を経て、2017年から現職。主著に『障害とは何か』(生活書院)など。

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