「声の力」特別授業Vol.1声優・古川登志夫@筑波大学附属視覚特別支援学校オリジナルの表現が大切だから一人ひとり違っていていい:朝日新聞DIALOG:声の力
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「声の力」プロジェクト

2019年09月20日公開

「声の力」特別授業Vol.1
声優・古川登志夫@筑波大学附属視覚特別支援学校
オリジナルの表現が大切だから一人ひとり違っていていい

Written by ジュレットカミラン with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 伊ケ崎忍

朝日新聞DIALOGはこの夏、新しいシリーズ企画「声の力」を始めました。視覚障害のある高校生たちが、声による表現方法を学ぶことで、自身の可能性を広げることを目指すプロジェクトです。その第1弾として、声優の古川登志夫さんが筑波大学附属視覚特別支援学校(東京都文京区)に通う高校生8人に特別授業をしました。古川さんはアニメ『ドラゴンボール』のピッコロや『ONE PIECE』のポートガス・D・エースなどを演じています。ベテラン声優の指導を受け、生徒たちは声による新たな表現に挑みました。

声の仕事は何でもできる

同校は、国立大学法人に附属する日本で唯一の視覚特別支援学校で、「視覚障害教育のナショナルセンター」を目指しています。幼稚部から高等部専攻科まであり、全盲や弱視の児童・生徒が学んでいます。高等部には51人の生徒が在籍。今回の特別授業に参加したのは下記の8人です。
【1年生】大賀おおが姫那ひな、佐藤あかり、髙橋弘毅こうき、田中紫音しおん
【2年生】板倉弦太郎げんたろう、岡田愛美利えみり隅本すみもと真理まり田邊たなべ和馬かずま

授業は1コマ50分の2部構成。先に教室に入っていた生徒たちは、少しばかりそわそわしていました。アニメ好きの生徒たちにとって、古川さんは憧れの存在だからです。古川さんが登場すると、生徒たちの顔が輝きました。

1コマ目の授業は、古川さんが声優になった時代の話から始まりました。「当時は『声優』という言葉自体にまだなじみがなくて、声優は俳優の仕事の一つでした。職業を聞かれて『セイユウです』と答えると、『あのスーパー(西友)の店員さんですね』と勘違いされるような時代でした」。ユーモアを交えた話に生徒たちから笑い声が上がります。

「僕も最初から声優になろうと思っていたわけではなかったんです」と古川さんは打ち明けます。舞台俳優を志して日本大学芸術学部演劇学科に進み、卒業後に劇団櫂に入団しました。声優の仕事もしていた座長の勧めで、アニメ『マグネロボ ガ・キーン』(1976〜77年放映)の声優オーディションを受けたことが転機となりました。

「声優の仕事に励むうちに、どんどん面白くなっていきました。声の仕事は演じられる役の範囲が非常に広いからです。おじいさん、おばあさん、子ども、ロボットから、植物や動物まで何でもできます」と声優の醍醐味を語りました。生徒たちは古川さんの話に興味津々で聴き入ります。

呼吸法と笑い方を練習

授業は声の表現に必要な発声練習に移ります。最初は呼吸法の基本、腹式呼吸と胸式呼吸の練習です。「1で吸って、2で止めて、3、4、5で吐きましょう」と古川さんが呼びかけると、生徒たちは一気に息を吸い、ゆっくりと吐いていきます。「腹式呼吸は長いセリフを言うために必要です。胸式呼吸は泣きの演技などをするときに多く使います。声優はこの二つの呼吸法を使い分けています」

次はセリフの練習です。例えば「笑う」というセリフにも、いろいろな表現があります。笑いのセリフは基本的にハ行音で発声します。「ははは」「ひひひ」「ふふふ」「へへへ」「ほほほ」などです。「みなさん笑ってみましょう」と古川さんが言うと、生徒たちがそれぞれ「笑い」を表現しました。「みなさん上手です。普通だったら恥ずかしがってやりたがらないけど、アニメーションに興味あるからですね」と古川さん。さらに笑いやすくするためのアドバイスをしたうえで、古川さんが「悪役の魔法使いのおばあさん」を実演しました。夜の森に響くかのような不気味な笑い声に、生徒たちから大きな拍手が湧きました。

1コマ目の最後に生徒から質問が出ました。「台本に書き込みをするそうですが、一番強調して書くことは何ですか」。古川さんの答えは、①読めない漢字にルビを振る、②ブレス(息継ぎ)をするところをチェックする、③強調する箇所に印をつける、です。「声優によって印は違います。(録音の現場では)セリフを読むというよりも、その印を読んでいる感じです」

素直な発声が心に染みる

2コマ目は朗読の練習です。まず、古川さんが「朗読は聴く人によって思い浮かべる情景が異なります」と説明。声の表現によって聴く人の感情に呼びかけるのが朗読のポイントだと伝えました。

教材は昔話『桃太郎』の冒頭部分で、古川さんが塾長を務める青二プロダクション附属俳優養成所「青二塾」の卒業公演で実際に使われている台本です。生徒たちは視覚に障害がありますが、その様態はそれぞれ異なります。教材の読み方も様々で、台本に顔をぴったり近づけて読む生徒や、拡大読書機を使って読む生徒、点字で読む生徒もいました。点字で読む生徒が、視覚障害のない人と同じくらいのスピードで教材を読む姿に、古川さんは驚いた様子でした。

台本を読み終えると、一人ずつ朗読していきます。古川さんから「読むときは、あまり考えすぎずに、大きな声ではっきり読むように意識してください」というアドバイスがありました。最初に朗読したのはアニメ『ルパン三世』や『頭文字イニシャルD』が好きな2年生の板倉弦太郎さん(16)です。大きな勢いのある声で「むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました……」と朗読していきます。「響きのあるいい声ですね」と古川さん。

同じ教材でも生徒の読み方は一様ではありません。静かな声で穏やかに読む生徒もいれば、抑揚をしっかりつけて読み上げる生徒もいました。それぞれの読み方の違いによって、聞き手の物語の受け取り方も異なってきます。生徒たちの朗読に、古川さんは「プロがテクニックを使って過剰表現するのとは違い、みなさんはとても素直な読み方をしているので、それが心に響いてきます」。アニメ『名探偵コナン』が大好きで全話見ているという1年生の髙橋弘毅さん(15)の朗読について、古川さんは「ソフトな声、優しい語り口で、素直に発声しているので、心にすーっと染み入ってきました」と講評しました。

メリハリのある豊かな表現を

生徒の朗読が一巡すると、古川さんが具体的なアドバイスをしました。「語り手やおばあさん、おじいさんの箇所を、声のトーンを変えて読むように意識しましょう。そうするとメリハリがついて、聞きやすくなります」。そして、古川さん自身が同じ台本を朗読しました。冒頭から早めのテンポで読み上げていきますが、おじいさんとおばあさんのセリフになると、声を大きくしてゆっくり朗読し、文章全体にはっきりと抑揚をつけて読んでいきます。プロの技を感じさせる朗読に、自然と拍手が起こりました。その後、生徒たちが2度目の朗読に挑みました。一人ひとりが古川さんのアドバイスを消化し、メリハリのある表現豊かな朗読に変わっていました。

古川さんは「朗読では、その人のオリジナルな表現が大切。それぞれ違っていていいんです」と生徒たちを励まします。そして、次回の授業に向けた宿題が出ました。読み方のバリエーションを増やして演技プランを考えてくる、というものです。古川さんは「みなさんがどういうふうに成長されるか楽しみです」と語って、授業を終えました。

古川さんの特別授業は8月末に2回目が行われます。その結果も踏まえ、選ばれた生徒が来年1月の合宿に参加し、ラジオドラマ制作を目指します。朝日新聞DIALOGでは、その模様を継続的にお伝えしていきます。

それでは最後に、同校の卒業生で、今春、朝日新聞社に入社し、販売局で働くかたわら、「声の力」プロジェクトに携わる大島康宏の感想を紹介します。

声の表現の豊かさは一人ひとりの力になる(大島康宏)

後輩たちの『桃太郎』の朗読は、擬音語やセリフはもちろん、ナレーションの部分にもこだわりがあり、いつの間にか、一人ひとりが表現する世界観に引き込まれてしまいました。「おおきな桃」「おっきな桃」「おおっきな桃」……ちょっとした言い方の違いで、聞き手がイメージするものが変わってしまうという古川さんの指導を、みんな、しっかりと解釈していました。

私もそうですが、視覚障害のある人は、声で相手の感情を読み取ることが多いので、声による表現を大切にしているつもりでした。でも、自分自身を振り返ると、ともすれば早口になっていたり、単調な話し方になっていたりすることに気づきました。後輩たちの中から、声優を目指す人が出てくればうれしいし、そうでなくても、声の表現方法が豊かになれば、日常のコミュニケーションから面接、プレゼンテーションまで、あらゆる場面で一人ひとりの力が高まると思います。夏休み明けの授業が楽しみです。

【プロフィル】
古川登志夫(ふるかわ・としお)
声優(青二プロダクション)。栃木県生まれ。日本大学芸術学部演劇学科を卒業後、劇団櫂に入団。座長に勧められて声優の道を歩む。代表的な役にアニメ『うる星やつら』の諸星あたる、『ドラゴンボール』のピッコロ、『ONE PIECE』のポートガス・D・エース、『名探偵コナン』の山村ミサオ警部など。2019年から同プロダクション附属俳優養成所「青二塾」東京校の塾長も務める。

「声の力」プロジェクトとは
文化庁の「平成31年度 障害者による文化芸術活動推進事業」として、視覚障害児が声による伝え方の多様性を学ぶことで、自分の可能性を再発見することを目指すプロジェクト。文化庁と朝日新聞社が主体となり、株式会社青二プロダクションと「声優グランプリ」編集部(株式会社主婦の友インフォス)の協力を得て進めている。

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