ウミガメ愛、伝われ ゆうったり、ゆうったり…筑波大学附属視覚特別支援学校:朝日新聞DIALOG:声の力
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「声の力」プロジェクト

2022年01月19日公開

ウミガメ愛、伝われ ゆうったり、ゆうったり…
筑波大学附属視覚特別支援学校

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 朝日新聞DIALOGのシリーズ企画「声の力」。視覚に障害のある高校生たちが、声による表現方法を学び、自身の可能性を広げることを目指して始まったプロジェクトです。今回は、数々の人気アニメに登場するレジェンド声優で、青二塾塾長でもある古川登志夫さんによる特別授業です。伝えたい思いが、まっすぐに届くように——。筑波大学附属視覚特別支援学校高等部(東京都文京区)に通う生徒6人が挑みました。(DIALOG学生部・内田早紀)

「声の力」プロジェクト
 文化庁の「令和3年度 障害者による文化芸術活動推進事業」として、視覚障害児が声による伝え方の多様性を学ぶことで、自分の可能性を再発見することを目指すプロジェクト。文化庁と朝日新聞社が主体となり、株式会社青二プロダクション/青二塾と株式会社主婦の友インフォス(「声優グランプリ」編集部)の協力を得て進めている。

人気アニメのキャラ 次々

 2021年11月23日、朝日新聞東京本社(東京都中央区)。集まった生徒たちの前に現れたのは、国民的アニメに多数出演している古川さんです。「こんにちは」の声に、生徒たちの顔がほころびました。

 古川さんは「自己紹介代わりに」と、『ドラゴンボール』のピッコロのセリフを披露します。低く迫力のある声に会場の温度が一気に上がりました。『ONE PIECE』のポートガス・D・エース、『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男と個性的なキャラクターのセリフを次々と披露します。くるくると変化する声に拍手が起きました。続いて生徒たちも自己紹介。「(プロの方に)直接教えていただける機会を楽しみにしていました」と、意気込みを伝えました。

ガラスが割れちゃうくらい

 1時限目の授業は基礎編。呼吸法から始まりました。

 まずは腹式呼吸。古川さんの合図で鼻から一気にたくさん息を吸います。「はい、吐いて」。古川さんが手をたたくと、会場にはすーっと長い息の音が響きました。一瞬で息を吸い、話しながら息を吐いていく、長ゼリフのための訓練です。次は胸式呼吸を練習。こちらは泣くセリフのときに使う呼吸法です。古川さんは嗚咽(おえつ)しながらセリフを発してみせました。生徒たちは劇的な実演に驚きながら、練習に取り組みます。

 続いては発声法の練習です。「こんな大きな声は出したことない!という大きさで『あ』を、ガラスが割れちゃうくらいやってみましょうね」という指示に、生徒たちはドキドキしている様子でしたが、よく声を出して取り組みました。

この本を 貸すか譲るか…

 基礎編の最後は、セリフ術です。「この本をあなたに貸してあげる」を例に、状況によって強調する箇所を変えていきます。

 複数の本から選ぶときは「“この本を”あなたに貸してあげる」。貸す相手を決めるときは「この本を“あなたに”貸してあげる」。貸すか譲るか、という選択肢がある場合は「この本をあなたに“貸してあげる”」。実生活では自然に行っていても、いざ台本に書いてあるものを読み上げると平坦になってしまいがち。気持ちを想像し、強調するポイントや間を考えながら発声していきます。

 声の表現には、感情も大切です。生徒たちが「おはようございます」を怒り・泣き・笑いの感情をのせて発声すると、古川さんは「お小遣い減らされたのかな」「楽しいことありましたね」といったコメントをしていきました。

 最後は「笑い」の練習です。これは感情表現の中で最も難しいそう。ハ行を使って違いを表現していきます。「いーひっひっひっひっ」という笑いには「気持ち悪い魔女のようですね」。「おほほほほ」とほほ笑むと「お姫様みたいですね」。軽快なやりとりが続き、基礎編が終了です。

短い時間で成長 堂々と熱演

 休憩を挟み、実際の台本を使った応用編がスタート。今年度のテーマは「感動を伝える」。挑戦するのは「ウミガメが大好きな人が産卵について感動的に語るシーン」です。生徒たちは1人ずつ、想像を膨らませながらセリフを発表しました。冒頭の「ゆうったり、ゆうったり……」というセリフ一つでも、声の強さや抑揚など表現はみんな違います。

 「ストレートな表現で良かったですね。プロは足し算の演技といってスキルやテクニックを投入してしまうので、やりすぎてしまうんですよね。みなさんから引き算の演技を学びました」と古川さん。

 ここで、実際にこの場面を演じたことのある声優の柿沼紫乃さんがお手本を披露しました。古川さんと同じく「青二プロダクション」に所属しています。「ゆーうったり、ゆーうったり……」。のびやかで思いのこもった声が響きました。

 自主練習の時間を挟み、生徒たちはもう一度セリフに挑戦します。時おり目を閉じながら聞き入っていた古川さんは「みなさん良くなりましたね。かなり難しい題材を昇華してやってくれて、うれしかったです」と伝えました。短い時間での成長、そして堂々とした発表に拍手が起きました。

悪役にも善良さ 対極を探る

 授業の最後は、生徒たちから古川さんに向けての質問タイムです。

——声優の仕事の魅力は何ですか。

古川 役の幅が広く、何でも演じられることです。宇宙人でも魚類でもできてしまうからね。

——アフレコのときにルーティンはありますか。

古川 時間のある限り「もっといい表現はないのか」と考え続けることが習慣になっています。もう一度読み返すと、簡単に考えていると見過ごすところだった第2、第3の発見があります。

——演じる際に気をつけていることは何ですか。

古川 魅力的なキャラクターにするために「二面性を探る」ことです。悪役の善良な部分、強い人の優しい部分。対極の部分を探るとキャラクターが深まります。例えば『ONE PIECE』のエースのセリフ「できの悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ」では、弟分であるルフィのことになると優しくなる部分と、心配している部分を一つのセリフの中に盛り込みます。

素直さに 心を打たれた

 授業を終えた生徒たちと古川さんの感想です。

 「演劇部に入っているので興味があり参加しました。場面によって強調をすることを、これから生かしていけたらいいなと思います」(高校2年、坂下行人さん)

 「生で声優さんの声をお聞きできていい経験になりました。声は日常で一番使っているものだと思うので、自分の思いを相手に伝えるときに声の表現は大事になると思います」(高校2年、町田天音さん)

 古川さんはこう話しました。

 「『声を出すのは楽しいんだな』って思ってもらいたくて授業を考えました。声優ごっこではなく、その人が持って生まれたものを引き出してあげるお手伝いをする、というスタンスを大切にしています。参加された高校生のみなさんの表現が素直で、想像以上に心を打たれる表現をするので、プロとしては逆に学んだところが多かったです」

朗読劇 水田わさびさんが審査

 特別授業に先立って7月、筑波大学附属視覚特別支援学校で文化祭の代替行事である朗読劇発表会が行われました。特別審査員として人気声優、水田わさびさんがオンラインで参加します。昨年度も同校で講師を務めた水田さんは「みんな、聞こえるー? 去年、みんなからもらったTシャツ着てるよ!」と、画面の向こうからエールを送りました。

 発表会には高等部の生徒たちが学年別の6チームで参加し、それぞれに工夫を凝らした朗読劇を披露しました。童話や昔話をもとにアレンジを加えて、じっくり聞かせたチームもあれば、コメディー系に挑戦し、軽快な掛け合いで会場を楽しませたチームもありました。シリアスなオリジナル劇の上演には、会場が静まりました。

リモートなのに…胸いっぱい

 それぞれの劇は「表現技術(声の大きさや抑揚)」「独創性(内容理解)」「感動を与えたか」の三つの観点で評価されます。審査の結果、生と死についてのメッセージを込めて『グッドバイ・マイ……』を演じた3年生のチームが最優秀賞、時を刻む音で場面を転換する工夫を盛り込んだ『大きな古時計』の2年生チームが優秀賞に選ばれました。

 水田さんが選ぶ「声の力プロジェクト特別賞」には、コメディー劇『Back Room!』で熱演した菅はるかさん(高3)が選ばれました。

 特別賞の発表後、水田さんが語りかけました。

 「とってもレベルが高かった! リモートでこれだけ声の力が伝わったってことは、生で聞いたらもっとすごい。みんなすごかった! 聞いててずっと楽しかったよ。みんな準備大変だったと思うけど、胸がいっぱいだよ。すごくよかったのは、周りの人の声をよく聞いていること。みなさんから学ばせてもらいました。離れてはいるけど、ありがとうー!」

 コロナ禍で練習時間が短かったものの一生懸命にやり遂げた1年生、コメディーなどパターンの違う劇に挑戦した2年生、そして考えさせる劇をつくった3年生。開催に向けて準備に取り組んだ委員も含めて、会場から大きな拍手が送られました。

生まれ持った力 その奇跡
内田早紀(DIALOG学生部)

 声の力——。私はそれを知っているようで軽んじていたかもしれません。

 声を発し、そして気持ちを伝えることができる、奇跡のような手段を当然のように思ってきました。高校生の朗読や、声優の古川さんの声を聞いたとき、本当に「伝える」ためには努力が必要なのだと思いました。呼吸法に、発声法、そしてどう声に気持ちをのせるのか。いざ真正面から声に向き合うと、その難しさに愕然(がくぜん)とします。

 もちろん声優さんだけでなく、声の力は誰もが持っているものなのだと思います。ですが、声が聞ける喜び、思いが伝わる喜び、その素晴らしさをもう一度振り返ったとき、声の力を改めて知るのではないでしょうか。

 声の力プロジェクトに参加したみなさんの声は、真剣に伝えたい思いと向き合っていて、心に届きました。私も一生付き合っていく自分の声を、大切にしようと思います。

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