声だけで こんなに伝わる つながれる みんなで作ったラジオドラマ古川登志夫さん・柿沼紫乃さん×筑波大附属高校・視覚支援学校:朝日新聞DIALOG:声の力
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「声の力」プロジェクト

2022年03月25日公開

声だけで こんなに伝わる つながれる みんなで作ったラジオドラマ
古川登志夫さん・柿沼紫乃さん×筑波大附属高校・視覚支援学校

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 朝日新聞DIALOGの「声の力」シリーズ企画。視覚に障害のある高校生たちが、声による表現方法を学び、自身の可能性を広げることを目指して始まったプロジェクトです。今回は、数々の人気アニメに出演する「レジェンド声優」で青二塾塾長でもある古川登志夫さん、声優に加えてナレーターとしても活躍する柿沼紫乃さんによる3日間の集中講義。最終日にはラジオドラマを収録しました。感情を声に乗せて——。筑波大学附属視覚特別支援学校高等部と筑波大学附属高等学校(いずれも東京都文京区)の生徒計8人が挑みました。(DIALOG学生部・遠藤文香)

「声の力」プロジェクト
 文化庁の「令和3年度 障害者による文化芸術活動推進事業」として、視覚障害児が声による伝え方の多様性を学ぶことで、自分の可能性を再発見することを目指すプロジェクト。文化庁と朝日新聞社が主体となり、株式会社青二プロダクション/青二塾と株式会社主婦の友インフォス(「声優グランプリ」編集部)の協力を得て進めている。

スタジオ緊張 「楽しくバトル!」

 2月20日午後、8人の生徒がラジオドラマ収録のために集合しました。会場は、青二プロダクション付属の俳優養成所「青二塾」(東京都港区)のスタジオです。本格的な録音スタジオに足を踏み入れ、生徒たちは全員、緊張した面持ち。それでも「間違ってもいい。自分のやりたいように」(古川さん)、「元気にいきましょう! 楽しくバトルしてね」(柿沼さん)という言葉に背中を押されて、録音に臨みます。

 「バトル」って何?と思った方、まずはこのラジオドラマをお聞きください。

あのキャラ深掘り!桃太郎 聞きどころは】最後に3人が掛け合うシーン。バカっぽいキャラクターの犬さんと、理知的だけど感情的になりつつあるキジさん。それをMCが必死に止めるところが聞きどころです。(MC役・川本一輝さん)

ページをめくる音さえも

 外から音が入ってこないスタジオは、とても静か。ちょっとした雑音もマイクが拾ってしまいます。台本をめくる音でさえ、録音されないように注意しなければいけません。

 すると生徒から「点字を指でなぞる音は大丈夫ですか?」と質問も。なぞる音は大丈夫でしたが、ページをめくりながらセリフを読む部分では何度かとり直しがありました。紙の音が入らないようにゆっくりページをめくると、セリフが途切れてしまうからです。そこはセリフを暗記するなどして乗り切りました。

 ハプニングもありました。収録が始まってまもなく、みんなマスクをしたままだったことに気づいたのです。マスク越しだと、声がくぐもってしまいます。最初からとり直すことになりましたが、生徒たちは柔軟に対応していました。

 収録中の生徒たちは、マイクに前のめりになる場面もあるほど、役になりきっていました。コントロールルームでは、「上手!」「役作りしてきてる」「MCが良い」など、称賛の言葉が飛び交いました。

童話のキャラ トークバトル

 今回収録したラジオドラマは「あのキャラ深掘り!」。三つの童話の主人公の性格を、脇役のキャラクター2人がゲストとして、MCとともに深掘りしていくというものです。古川さんが台本を書き下ろしたオリジナルドラマです。

 「桃太郎」のゲストは犬とキジ。私たちが知っている犬とキジは、桃太郎にきび団子をもらって一緒に鬼と戦います。しかし、ドラマに登場する犬とキジは、桃太郎に対する考え方が大きく異なります。桃太郎とはどんな人物なのか、そして犬とキジの関係性が注目されます。生徒たちが意識したのは犬とキジのキャラクターの対比。童話では深く描かれていない部分です。

 「シンデレラ」は、シンデレラの義理のお姉さんと魔法使いの「お姉さん」がゲスト。童話の中では接点のない2人が、シンデレラの性格をめぐってパワー全開の熱いバトルを繰り広げます。3人の声からエネルギーが感じ取れます。

あのキャラ深掘り!シンデレラ 聞きどころは】魔法使いのお姉さんとのバトルトークをアドリブでしているので、どこから拍車がかかって熱くなっていくのか、最後の盛り上がりに注目して聞いてほしい。(義理のお姉さん役・上原花怜さん)

 最後は「赤ずきん」。赤ずきんのおばあさんとオオカミがゲストです。私たちが知っているのは優しいおばあさんと凶暴なオオカミ。しかし彼らの本当の姿は……。おばあさん役の生徒は「桃太郎」のキジ役も務めています。全く異なるキャラクターをどのように演じ分けたのでしょうか?

あのキャラ深掘り!赤ずきん 聞きどころは】おばあちゃん、最初は「すごく優しい人だな」と思わせておいて、最後にすごく毒舌になるので、そこが聞きどころです。(おばあちゃん役・須田夕姫乃さん)

プロの演技 こう学んだ

 プロの声優さん?と思ってしまうようなラジオドラマ。生徒たちは、どのようにして作り上げたのでしょうか。

 ドラマづくりは、出演者が一緒に台本を読む「読み合わせ」から始まります。集中講義の第2日、生徒たちは読み合わせに専念しました。演出は「シンデレラ」が柿沼さん、「赤ずきん」と「桃太郎」は古川さんでした。

 「シンデレラ」の生徒3人は、最初の読み合わせでは緊張気味でした。でも、柿沼さんから「もっと感情を爆発させていい」「セリフの背景を考えるといいよ」といったアドバイスを受けると、次の読み合わせですぐに変化が表れました。

 MCはセリフにメリハリがつき、義理の姉は感情が豊かになりました。魔法使いも涙をそそるように。さらに「読んでいて、気持ちが動かされるままに笑いとか涙とかを追加していい」という柿沼さんの言葉で、より自由に感情を表現できるようになったようです。

 柿沼さんはまた、生徒たちによるディスカッションを提案。生徒3人は話し合ううちに、互いに打ち解けてアドバイスし合うようになりました。

正解はない 相談し合って

 「赤ずきん」のチームは、まず生徒同士で読み合わせ。次に古川さんの試読を聞いた後、古川さんに質問や感想を投げる時間が設けられました。

 オオカミ役の坂下行人さんが、赤ずきんを食べたことを明かすセリフについて「古川先生の読み方のほうが正しいような気がしました」と言うと、古川さんは「そんなことはない。それまでの口調が優しいから、一転して意地悪になるのは面白いと感じたよ」。生徒たちに真摯に向き合い、正解があるわけではない表現の奥深さを伝えていました。

 「桃太郎」のチームで印象的だったのは、生徒たちの仲の良さです。休憩時間にもセリフを確認し合い、難しい箇所について相談し合っていました。また、犬役の山口温翔さんは、セリフを独自に解釈して表現。「犬とキジの性格の対比を表したかったんです。自分の好きなアニメのキャラクターをイメージしました」と話します。

 授業の初めには、どのチームもセリフをかんでしまったり、ドラマの流れが止まったりするシーンが見られました。ところが、授業の終わりにはそれぞれのキャラクターが固まり、スムーズに演じられるようになりました。

ズボンがケーキだらけ…笑うって難しい

 急速な「成長」の土台となったのは、集中講義第1日(1月30日)の基礎練習。わずか2時間でしたが、プロの声優を養成する講座のエッセンスを学んだのです。

 第1時限は基礎編です。呼吸法には、長いセリフに必要な腹式呼吸と、「泣く」ときに使うような短い呼吸を繰り返す胸式呼吸があることを教わりました。発声法では「あいうえお」の口の形を意識して、はっきりと発声する練習をしました。最後は、セリフのどの部分を強調するかを考えて表現する練習です。例えば、「この本をあなたに貸してあげる」というセリフは「この本を“あなたに”貸してあげる」と「この本をあなたに“貸してあげる”」では伝わり方が違うことを、古川さんの実演から学びました。

 第2時限は、柿沼さんから感情表現を学びました。「泣く演技は3カ月、笑う演技には3年かかる」そうです。「お父さんの大切なズボンがケーキだらけになった」「話しちゃいけない図書館で」など、様々なシチュエーションでの笑いの表現を練習しました。

「楽しむことが入り口」「感情の扉が開いた」

 ラジオドラマの収録後、古川さんと柿沼さんは振り返ります。

 古川さんは「声を出すことは楽しい、心が開くんだと感じてもらえたと思います。楽しかったと思えることが入り口になります」と話しました。オリジナルの台本については「初心者には難易度が高いと思っていたのですが、生徒の皆さんは結構、器用に表現されていました」。その姿から逆に学ぶことがあったそうです。「これから学ぶという段階の人たちの素直な表現には、プロが忘れてしまいがちなものがありました」

 柿沼さんは「短時間のレクチャーで生徒たちの感情の扉がものすごく開いたので、私のほうが驚かされました。豊かな表現力を持っていることを実感しました」。生徒たち同士でディスカッションするようにアドバイスしたところ、「あなたはこんなふうにやったらいい。そしたら私はこうやって受けられる」といった対話が始まりました。「聞いていて、私のほうが勉強になりました」

「達成感すごい」「これから生かせる」

 最後に生徒たちの感想です。

 「ディスカッションでの気づきが多かったです。一つのセリフからいろいろなことが考えられました。達成感がすごいです」(町田天音さん)

 「台本にない部分をアドリブで演じて、雰囲気づくりをしました。声優に憧れているので、本当にいい経験になりました」(小林友香さん)

 「今まで声にあまり焦点を当ててきませんでした。発声練習を始めとした講義が新鮮に感じられて楽しかったし、これからも生かせるものばかりでした」(桐野洋樹さん)

ありのままの自分 伝える勇気
遠藤文香(DIALOG学生部)

 声に対して真剣に向き合っている生徒たちの姿がとても印象的でした。

 一つのセリフをとっても、いろんな感情を乗せて発することができる。そして人によって読み方に個性が生まれる。

 古川さんの書き下ろした台本は目で追うだけでも面白いですが、生徒たちの声によってキャラクターに命が吹き込まれたような気がしました。

 「表現に正解はない」という古川さんの言葉に、私はハッとさせられました。今までなんとなく正解を求めていた自分に気がついたのです。自分の思った通りに表現するのは勇気が必要です。「恥ずかしい」「間違っていないかな」という気持ちを乗り越え、自分の殻を破っていく生徒たちの姿を見習いたいと思いました。

 私も、声の力で誰かに何かを伝えてみたいと感じました。人と会うことが少なくなり、声を発する機会も減りましたが、そんな中でも一つひとつの言葉や感情に向き合ってみたいと思います。

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