菅政権の要請で中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)が全炉停止し、クエの養殖やマダイなどの放流が危機に追い込まれている。原発からの温排水(おんはいすい)も止まり、稚魚の孵化(ふか)や育成に欠かせない水温調整が出来なくなっているからだ。県は国に対策や費用の負担を求めたいとしている。
温排水は、原発でタービンを回した蒸気の冷却に使った海水。放射能は帯びておらず、水温が海水より約7度高い。毎年11月中旬から翌6月末ごろまで、原発に隣接する「静岡県温水利用研究センター」が毎日各1万5千トンの温排水と海水をもらい、クエの養殖や、マダイやヒラメなどの親魚の飼育、稚魚の孵化・育成に活用していた。
センターは、原発建設に協力して漁業権の一部を放棄した漁業者への補償としてつくられた。中部電が建設し、県に譲渡。県漁業協同組合連合会が運営している。
クエの養殖は、温排水を使って御前崎市が全国で初めて、孵化から育成までの「完全養殖」に成功した。今では市特産の冬の味覚になっている。深海にいる天然ものの漁獲高は少なく、1キロ当たり1万円以上するものもある。
同市の養殖ものは小ぶりだが、温排水が無償提供されるので値段も手頃で、鮮度もいいのが売り。「御前崎クエ料理組合」も結成され、まちおこしの目玉になっている。センターは今年、約4千匹のクエを養殖する計画だ。
しかし、14日に浜岡原発が全炉停止し、センターへの温排水供給も途絶えた。夏に向かう今は海水の温度が上昇してきているので影響は小さいが、水温が下がってくる11月までに対策を講じる必要がある。水温が下がると、えさを食べなくなって親魚の産卵や稚魚の成長が遅れたり、稚魚が死んだりする危険性があるという。