パネル討論 AIと民主主義|2019講演記録|朝日地球会議2019|朝日新聞

パネル討論
AIと民主主義
ジョンズ・ホプキンズ大学准教授 「人々対民主主義」著者 ヤシャ・モンク
ニューヨークタイムズ・ベストセラー入り著者 データサイエンティスト・数学者 キャシー・オニール
国立情報学研究所 社会共有知研究センター長・教授 教育のための科学研究所 代表理事・所長 新井 紀子
コーディネーター 朝日新聞社常務取締役(東京本社代表/コンテンツ統括/デジタル政策統括)  西村 陽一

AIの民主化、いまこそ

ヤシャ・モンクさん

人工知能(AI)は、気候変動などの問題を解決できる技術革新の可能性を秘める一方、失業や教育格差、情報統制など民主主義の土台を揺るがす課題も投げかける。民主主義にとってAIを有意義なものにするには、何が必要なのか。西村陽一・朝日新聞社常務取締役をコーディネーターに日米の著名な研究者が意見を交わした。

政治学者でジョンズ・ホプキンズ大准教授のヤシャ・モンクさんは、米国のトランプ大統領やブラジルのボルソナーロ大統領、インドのモディ首相らを挙げ、「『私』だけが真の国民の代表であり、違う意見や価値観を持っていれば『悪い人』『危険な人物』と考える危険な勢力だ」とポピュリストを定義した。こうした政治の指導者が、司法など権力を制約するための民主主義的な制度、組織を攻撃することで、「個人の自由など、守るべき中核的な価値をおろそかにしている」と指摘した。


キャシー・オニールさん

データサイエンティストで数学者のキャシー・オニールさんは、広く活用されているAIのアルゴリズム(計算方式)について、「一般市民に関する重要な決定を下しているのに過ちがあり、アクセスもできない」と問題点を強調した。

オニールさんによると、米アマゾンは従業員の採用にAIを使おうとしたが、自社のテストで無意識に男性を評価するアルゴリズムになっていることが分かったという。「アルゴリズムは事実に基づくものではなく、数学に組み込まれた主観や意見。アルゴリズムを信じないでほしい」

国立情報学研究所社会共有知研究センター長・教授の新井紀子さんは、「GAFA(ガーファ)」に代表される少数のIT企業が、利益を独占する「デジタライゼーション」のあり方について問題提起した。「持続可能なシステムとは思えない。(貧しさに取り残された側の)怒りがポピュリズムを呼ぶ。法、経済、倫理の観点から考えていく必要がある」と話した。


新井 紀子さん

貧富の差の拡大とポピュリズムの関係も取り上げた。オニールさんは過去に、ネットで高額の買い物をする利用者だけに多様な選択肢を示すようアルゴリズムを設定する仕事をしていたと明かした。ネットの利用頻度が低い人や貧しい人には選択肢が示されないこうしたシステムが「不平等をつくっている」と批判。貧富の差の拡大がポピュリズムに結びつく社会の到来について、「回避できないとは思わない。だが、アルゴリズムは説明責任を果たすべきだ」として、今のシステムを規制する法整備の必要性を提案した。

「エリートは何かしら見返りがあったから、民主主義を受け入れてきた。AIはその図式を覆そうとしているのか、注目しなければいけない」。モンクさんは、AIが労働者に取って代わることで、エリート層が中間層を必要としなくなり、富の再配分や市民の教育すら不要とされる社会が来る可能性を懸念した。


デジタル技術を社会の統制や経済成長に利用する中国の動きについても話が及んだ。オニールさんは「中国の社会信用スコアなどは監視の技術も含まれ、大変な恐怖を覚える」と強調。一方で「AIが、米国でも社会を管理するツールになっている。政治家は自分たちが恩恵を受けるので、政治的に触れられない問題になっている」と指摘した。

新井さんはAIを社会の管理に使うことについて「中国が特異なわけではなく、シリコンバレーがやろうとしていることが、そういうことだった。GAFAが傲慢(ごうまん)にも正しく使えると思っているのが問題だ」と話した。


会場からは「私たち市民には何ができるのか」という問いが寄せられた。新井さんは「数字を見せられたら、『そうかな』と思うことはやめる。この知識基盤社会を生き抜くために、数学におびえないリテラシーが必要だ。私が最も力を入れて取り組んでいるのは、子どもたちにそのリテラシーを身につけさせることだ」と話した。オニールさんは「数学を理解していなくても、体制に異議を申し立てることはできる。体制に疑問を持ち、我々の権利を行使する必要がある」と強調。モンクさんは「権利を主張するだけでなく、税逃れを防ぐ課税法の改正など変化も求めていく。せっかく手にしているこの民主主義をどうしたら守れるのかについても、考える必要がある」と述べた。

コーディネーターを務めた西村常務は「AIは使い方によっては大きなチャンスをもたらすといえる。ただ、アルゴリズムやビッグデータをめぐる課題はあまりにも多い」と総括。「今回、『AIと民主主義』というタイトルをつけたが、私たちが今考えるべきは、AIとデータの民主化なのかもしれない」と語った。


〈ヤシャ・モンク〉 国際政治学者 1982年、独ミュンヘン生まれの気鋭の政治学者。米ジョンズ・ホプキンズ大准教授、ハーバード大講師。ツイッターやポッドキャストでも活発に発信。著書に「民主主義を救え!」など。

〈キャシー・オニール〉 データサイエンティスト・数学者 1972年生まれ。データサイエンティスト・数学者。ヘッジファンドを経て、2016年にアルゴリズム監査会社を創業。著書に「あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠(わな)」など。

〈新井紀子〉 国立情報学研究所社会共有知研究センター長・教授 数学者。東大合格を目指すAI「東ロボくん」の開発に携わる。中高生には計算や暗記よりも、読解力の向上が必要と訴える。著書に「AIに負けない子どもを育てる」など。

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