パネル討論
「仮想現実(VR)と芸術・文化の出会い」パネリスト 
演出家 宮本 亜門
唐招提寺副執事長 石田 太一
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 廣瀬 通孝
コーディネーター 朝日新聞ソーシャルメディアエディター 勝田 敏彦

廣瀬 通孝 さん

廣瀬 通孝 さん

臨場感あふれる体験が特徴のバーチャルリアリティー(仮想現実、VR)。今はゲームへの活用が中心だが、芸術・文化への応用を実践するパネリストがさらなる可能性を語り合った。

東京大大学院教授の廣瀬通孝さんは、VRの面白さが「映像空間にあたかも入り込んだように感じられること。その空間で物体を持ち上げられるなどインタラクティブ(双方向)であること。匂いや味までも感じる技術などチャレンジングな試みが盛んなこと」の3点にあると解説した。

錯覚を巧みに使う。たとえば廣瀬さんの研究室では、実際は平らな床の上を歩いているのに、ゴーグルで映像を見ながら歩くと、階段を上っているように感じる技術を開発している。明治天皇が乗った御料車など、壊したくない貴重な史料にも「試乗」できる。


石田 太一 さん

唐招提寺副執事長の石田太一さんは、2001年から金堂を大修復したときに公開したVR映像や、重要文化財「東征伝絵巻」のデジタル化の事例を紹介。寺を設立した鑑真和上が初めて頭をそるシーンや、日本へ渡航する船が沈没しても泰然と浮草の上に座っている様子などの名場面を、拡大して鑑賞できると説明した。「絵巻物も仏像も、湿気や火災から守りながら、鑑真和上の人生を多くの方に伝えられる」

演出家の宮本亜門さんは「舞台で観客を物語の中に引き込み、没入させることが仕事」。VRとの親和性が高いと考えている。日本のゲームを設定に採り入れたモーツァルトのオペラや、能の舞と3D映像を組み合わせた「幽玄」でのプロジェクションマッピングといった演出例を披露し、来場者を楽しませた。

最後に、ニューヨークの美術館で鑑賞したVR作品に触れた。ゴーグルをつけると、テロリストの扮装をした男が捕虜に見立てた人形を執拗(しつよう)にバットで殴る。宮本さんは思わずゴーグルを外したという。


宮本 亜門 さん

「見たくない現実も、ゴーグルをとれば見なくてすむ。映像世界への没入を感じる一方で、自分は明確に外にいて、起きていることを止めることもできない。こういう表現があり得るのかと考えさせられました」

全員の討論では、悠久の世界を表現する「動かないVR」や、情報をあえて間引いて心を落ち着かせる「引き算型VR」など、発想を転換した技術活用が話題になった。宮本さんは「意識していなかった人間の感性を高めることもできる」と期待を込めた。

コーディネーターから

「ない」を「ある」に、VRの可能性

VRや、似た技術である拡張現実(AR)により、私たちは目の前に「ない」ものをまるで「ある」ように見る。こうした特性は古今の芸術・文化とも共通点が少なくない。

簡素な舞台で演じられる能では、演出で想像力をかき立てられた観客が、自分が作り出した幻を舞台に重ねる。現代でも、観客が参加するインタラクティブなアートが増えている。

時々の最新の技術を吸収して芸術表現は進化してきた。宮本亜門さんが指摘するように、VRが人間の感性を高め、芸術・文化の幅が広がっていく可能性を強く感じる。

(ソーシャルメディアエディター・勝田敏彦)

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