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2012年10月31日10時46分
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山崎亮 シアワセをデザインする

(21)実現させなければ意味はない

写真:「海士人宿」は、使われなくなっていた保育園を改修して生まれた拡大「海士人宿」は、使われなくなっていた保育園を改修して生まれた

写真:「できることは自分たちで」。住民たちも家具作りを手伝った拡大「できることは自分たちで」。住民たちも家具作りを手伝った

写真:一日限定イタリア料理店。厨房は大忙し拡大一日限定イタリア料理店。厨房は大忙し

写真:地元の食材を使った一品拡大地元の食材を使った一品

写真:会場には、地域の人たちが集まった拡大会場には、地域の人たちが集まった

写真:「人の力」「地の力」そして「縁の力」。島の魅力がみえてきた拡大「人の力」「地の力」そして「縁の力」。島の魅力がみえてきた

 いわゆるファシリテーションとの違いがあるとすれば、コミュニティデザインは対話の場づくりでは終わらないということだろう。ワークショップを終えた後、参加者した住民たちは実際にプロジェクトを進めていくことになる。

 そのために、専門家ではなく、そこで暮らす人々が発案し、自分たちのできる範囲でプロジェクトを立ち上げることが大切だ、と山崎亮は考えている。同時に、それは、住民たちが奮い立つような内容でなければ長くは続かない。

 それだけ魅力のあるプロジェクトをデザインできるか、が問われるのだ。山崎は言う。

「どこかのまちのコピーをしても、うまくはいかないでしょう。その土地にある『資源』が違うのだから。そこにいる人や、そこにあるモノや自然など最大限に活かすことを意識しています。そうすれば、必然的にどこにもないオリジナルが見えてくる」

 代表例が、島根県の離島、海士町に生まれた「海士人宿(あまじんじゅく)」だろう。

 高齢化による人口減少が日本の全国平均より10年近く進んでいる島根県のなかでも、さらに高齢化が進む海士町。いわば、日本の将来を先取りした“最先端”ということもできる。ここでの取り組みが成功すれば、日本が進むべき道筋をほのかに照らすことにもつながるかもしれないのだ。

 山崎が請け負ったのは、人口2300人ほどの海士町の総合振興計画を住民が参加してつくる、というプロジェクトだった。「ひと」「暮らし」「産業」「環境」という四つのチームに分かれて議論を重ね、24の提案を打ち出したのだ。

「海士人宿」は、「ひと」チームでの雑談から生まれた。

「空き家に上がり込んで、こんなふうに話し込んだりすることなくなったね」

 世代を超えた交流が頻繁にあったのが、いつしか途絶えてしまっている。

「やっぱり、そういう場は必要だよね」

 そういう場ってどういうものですか、と山崎はたずねた。

「海士人宿というんや」

 どこだったらできそうでしょう、と山崎が重ねてたずねた。

「公民館はNGだろうね。カフェがあればいいけど…」

 予算をかけて新しい施設をつくるのではなく、あるものを使って、だれもが楽しくすごせる空間を生みだすことはできないか。住民たちから声があがる。

「そういえば、空いてる保育園があるんじゃないか。そこをカフェにしたらどうだろう」

 住民たちは実際に保育園跡地を見にいき、教育委員会の所有であることがわかった。住民たちの手で改修して、「海士人宿」が生まれた。

 プロジェクトに取り組みはじめてから3年。2010年2月には、一日限定のイタリア・レストランが開かれた。海士町出身で、東京やイタリアでイタリア料理を学び、いずれ島に戻ってイタリア料理店を開きたいと考えている女性料理人が厨房に立った。老若男女が集い、食後はバンドの生演奏も入って盛り上がった。

 自分たちが楽しむだけでなく、他人から「ありがとう」と言われるような仕事だと満足感も生まれ、コミュニティの存在理由も確認できる。海士町では、住民たちが協力し合って島の良さを活かし、島の生活を楽しむという「島の幸福論」がひとつの形になった。

「でも、これがゴールではありません。僕らが身を引いた後にどんなふうに使われていくかが大切なのです」

 山崎は一過性の熱狂に終わらせない。そこが、これまでの「まちづくり」との決定的な違いかもしれない。=敬称略 (諸永裕司)

プロフィール

山崎 亮(やまざき りょう)

 1973年生まれ。studio−L代表、京都造形芸術大学教授。地域が抱える課題を、地域に住む人々が解決するコミュニティデザインの第一人者。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」でグッドデザイン賞を受賞。

 著書に『コミュニティデザインの時代』(中央公論新社)、『ソーシャルデザイン・アトラス 社会が輝くプロジェクトとヒント』(鹿島出版会)、『コミュニティデザイン――人がつながるしくみをつくる』『つくること、つくらないこと』(以上、学芸出版社)、『コミュニティデザインの仕事』(BIOCITY50号記念増刊号)、『まちの幸福論』(NHK出版)、『地域を変えるデザイン』『海士人』(英治出版)など。

ホームページ 「studio−L」

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