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2012年11月14日10時51分
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山崎亮 シアワセをデザインする

(23)行政は「敵」ではない

写真:広島県福山市の若手職員向けのワークショップを開き、ファシリテーションについて教えた。拡大広島県福山市の若手職員向けのワークショップを開き、ファシリテーションについて教えた。

写真:まちをどう活性化させるか、アイディアが飛びかった。拡大まちをどう活性化させるか、アイディアが飛びかった。

写真:議論の展開をだまって見つめる山崎亮さん(中央)。拡大議論の展開をだまって見つめる山崎亮さん(中央)。

写真:ワークショップを通じて町への理解が深まり、変革の意欲も高まった。拡大ワークショップを通じて町への理解が深まり、変革の意欲も高まった。

 日本ではかつて、「道普請」という言葉があった。住民たちがみずから土を運び、土をならし、自分たちが使う道をつくっていた。

 人口が増え、まちが都市へと変わっていくにつれ、公共をつくる仕事はいつしか行政まかせになってきた。いつしか、公園の落葉さえも、掃除をするのは行政の仕事とされている。

 しかし、なんでも行政まかせの時代はもう続かない。施設維持費や人件費が頭打ちとなり、行政そのものが担える仕事が減っている。その分、住民も「お客さん」ではいられなくなっているのだ。ただ、住民たちが新しい取り組みをはじめようとしても、法律や制度の壁にぶつかって前に進めないこともある。行政の仕組みを理解していなければ、やりたいことを実現できないのもまたたしかだ。

そんななか、行政に批判的な言葉を口にする住民は少なくない。「動きが遅い」「言うことを聞いてくれない」など、不満が渦巻いていることもある。たしかに、起案や決裁に時間がかかり、意思決定のスピードに欠ける。しかし、だからと言って非難するばかりでは得策ではない、と山崎は言う。

「行政マンは『貝』のような存在なのです」

 つつけば、すぐに殻を閉じてしまう。いったん閉じると、どれだけ力を入れても開かなくなる貝のようだ、という。

 山崎がかかわるプロジェクトの8割ほどは行政との協同事業になるため、行政職員が気持ちよく仕事ができるような環境をつくることにも心を砕く。認められ、信頼され、感謝されれば、少しずつ殻は開いてくるというのである。

 だからといって、山崎はどちらかに肩入れするわけではない。どんなときでも市民と行政の間に身を置く。言葉を換えれば、いずれからも距離を置いて行司役に徹するのだ。

 ときには、「行政の人は徹夜してこれだけの資料をつくってきたのに、あなたたちは何をしているんですか」と住民に苦言を呈する。またあるときは「市民の人はこんなに熱心なのに、何しているんですか」と行政を責めることもある。それぞれを競わせながら、ポジティブな方向へ導いていく。

 住民側でも行政側でもなく、第三者として「間にいる」がゆえにできることがある、と山崎は言う。

 5月、山崎は広島県福山市の市長から請われて面会した。宮崎県の延岡駅前再開発事業のような取り組みで、まちを活性化することを期待された。

「ビルを建てて、いくら有名なショップを入れても採算がとれなければテナントは逃げていってしまうでしょう。そうしたら、まちは寂しくなるだけ。これからは市民を入れることです。彼らがやりたいことを具体的に聞いて、彼らがやりたいことができるような活動に引き入れるような流れをつくるのがいいのではないでしょうか」

 そんな山崎の提案を市長は即断で採り入れ、記者会見で発表した。そのとき、市長の補佐官が、職員による「まちづくりチーム」をつくってはどうかと提案すると、すぐにGOサインがでた。

「では、そのチームのひとたちに、ワークショップの進行役となるファシリテーターになってもらってはどうでしょう」

 市役所職員にコミュニティデザインを託してみてはどうか、と山崎はもちかけた。かつてない試みだった。ただ、市民の声を拾いながらまとめていくスキルは、市職員にこそ必要なものでもある、と考えた。

 こうして、市職員を対象に、どのようにワークショップを進めていくかというファシリテーションの講座を開くことになった。

 とくに、制度や法律に通じた市職員は、市民からの提案を聞いただけで実現できるかどうかの判断がついてしまうだけに、意見を聞いても「それは難しいですね」「食品衛生法上……」などと言って可能性の芽を摘んでしまいがちだ。それでは、参加者のモチベーションはあがらない。山崎は、なにより「Yes,and」でアイディアをポジティブに評価することが大切なのだ、とたたき込んだ。

 講座を終え、本番となるワークショップが終わる直前、集まった人々に山崎は問いかけた。

「ファシリテーターを務めたこの人たちはちゃんと働いていましたか?」

 会場に拍手が起こった。公務員は批判を受けはすれ、ほめられる経験をしたことがほとんどない。それだけに胸に響いたのか、涙をこぼす職員もいた。

 ほめて育てよ――こどもだけでなく、行政の職員にも当てはまる言葉だ、と山崎はいう。行政をほめておだてて動かすような「賢い市民」にならなければ、思い描いたまちづくりは実現できない。

 行政に反対を唱える時代から、行政とともに動く時代へ。コミュニティデザインをすすめるには、ほかにもキープレーヤーがいるという。山崎が注目するのは学生だ。=敬称略 (諸永裕司)

プロフィール

山崎 亮(やまざき りょう)

 1973年生まれ。studio−L代表、京都造形芸術大学教授。地域が抱える課題を、地域に住む人々が解決するコミュニティデザインの第一人者。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」でグッドデザイン賞を受賞。

 著書に『コミュニティデザインの時代』(中央公論新社)、『ソーシャルデザイン・アトラス 社会が輝くプロジェクトとヒント』(鹿島出版会)、『コミュニティデザイン――人がつながるしくみをつくる』『つくること、つくらないこと』(以上、学芸出版社)、『コミュニティデザインの仕事』(BIOCITY50号記念増刊号)、『まちの幸福論』(NHK出版)、『地域を変えるデザイン』『海士人』(英治出版)など。

ホームページ 「studio−L」

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