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2012年11月28日10時46分
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山崎亮 シアワセをデザインする

(25)埋もれている価値を引き出す

写真:顔を合わせ、言葉を投げ合うコミュニティデザインの現場。その魅力は「てづかみ体験」だと、山崎亮は言う拡大顔を合わせ、言葉を投げ合うコミュニティデザインの現場。その魅力は「てづかみ体験」だと、山崎亮は言う

写真:まちを歩く中で大切なのは情報処理能力ではなく、情報編集能力拡大まちを歩く中で大切なのは情報処理能力ではなく、情報編集能力

写真:意見をまとめあげるにもまた、コミュニケーション力が求められる拡大意見をまとめあげるにもまた、コミュニケーション力が求められる

写真:見知らぬ人に声をかけられるか。一歩を広がれば、見える世界も変わる拡大見知らぬ人に声をかけられるか。一歩を広がれば、見える世界も変わる

 もっとも多いとき、山崎亮はあわせて六つの学校(五大学と専門学校)で教鞭をとっていた。いまも教授として、京都造形芸術大の大学院(空間デザイン演出学科)のゼミなどを受け持っている。

「こんなに忙しいのに、なぜ大学に教えにいくんですか」

 スタッフからそう聞かれたことがある。たしかに、睡眠が3〜4時間という日々のなかで時間をとられ、収益につながるわけでもない。それでもやめないのは、コミュニティデザインに興味をもつ学生たちを増やしたい、と思うからだ。

「コミュニティデザインの仕事をする人が増えれば社会はもっと幸せになるだろう、と単純に思うからです」

 建築を専攻する学生たちは、演習のための演習に飽きている、と山崎は感じている。たとえば、「美術館を建てる」という課題がだされても、この右肩下がりの時代に、そう簡単にハコモノがつくれるとはだれも思っていない。依頼主となる行政側の狙いも見えず、使われないまま老朽化している公共建築物も列挙にいとまがない。

「今の時代、ネットで世界が広がって、たとえばツイッターで有名人とやりとりしたり、NPOやボランティアとして社会のあらゆる事象に接したりすることもできる。それだけに、リアリティをともなわない課題をだされても、学生たちは身が入らないでしょう。大学内の評価にさらされているだけでは、これから必要となるスキルを手に入れることができないと気づいているのでしょう」

 この夏、山崎は、大学1年生に「田舎のカフェを調べる」という課題をだした。日本地図を広げ、目隠しをして投げたダーツの矢が刺さった町で、特にいいと思ったカフェに取材に行く、というものだった。

 学生たちはインターネットなどで調べて候補となるカフェを絞り込み、実際に訪問する前にはどんな質問をしたらいいかを話し合った。

「年収はどのくらいですか?」「つらいことはなんですか?」「逆に、楽しいことは?」

 その後、60人全員が思い思いに田舎のカフェを訪ねた。その狙いを山崎はこう説明する。

「現場に行けば、手づかみの体験ができる。コミュニティデザインでは、現場の人の声をすくいとってプロジェクトにつなげることが仕事になるだけに、相手の顔が見えるかどうかは重要なポイントなのです」

 八百屋も魚屋も市職員など、さまざまな人たちと出会う。そして、だれもが違うことを口にする。それをどうまとめ、どう導くかが問われることになる。だからこそ、山崎は、机の上ではなく、顔と顔をあわせてやりとりする経験を課したのだった。

「現場にでると、自分に何ができて、何ができないのか、いや自分がいかに何もできないかを痛感させられるはず。そうしたときに初めて、学びたいという意欲がわいてくるのではないでしょうか」

 コミュニティデザインを学ぶために、現場以上の場所はない。もっとも求められるコミュニケーションのスキルは現場でしか身につかない。

 山崎は大学に限らず、みずから経営する「studio−L」でも教育者としての顔ももつ。三重県伊賀市につくった事務所に5人から10人ほどの学生たちを受け入れ、実際にスタッフとともにプロジェクトに取り組む機会を与えている。そこは事務所というより、学校と言ったほうが近いかもしれない。

教育という言葉の語源をたどれば、「引き出す」という意味がある。

「教育が、学生のもっている可能性を引き出すものだとすれば、コミュニティデザインも住民たちの中に眠っている力を引き出す仕事ということができる。それぞれがもっている価値を引き出す、という点では似ているかもしれませんね」

 その言葉を実現したのが、震災をめぐるプロジェクトだった。=敬称略 (諸永裕司)

プロフィール

山崎 亮(やまざき りょう)

 1973年生まれ。studio−L代表、京都造形芸術大学教授。地域が抱える課題を、地域に住む人々が解決するコミュニティデザインの第一人者。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」でグッドデザイン賞を受賞。

 著書に『コミュニティデザインの時代』(中央公論新社)、『ソーシャルデザイン・アトラス 社会が輝くプロジェクトとヒント』(鹿島出版会)、『コミュニティデザイン――人がつながるしくみをつくる』『つくること、つくらないこと』(以上、学芸出版社)、『コミュニティデザインの仕事』(BIOCITY50号記念増刊号)、『まちの幸福論』(NHK出版)、『地域を変えるデザイン』『海士人』(英治出版)など。

ホームページ 「studio−L」

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