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〈7〉廃家電、アジアむしばむ

2008年1月8日

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写真民家の前庭で、ドリルや金づちを使って廃家電を分解し、基板を集める男性。基板は金属類を採取するため別の場所へと売られていく=ベトナム・フンエン省で

写真廃パソコンから取りだされたCPUをガスバーナーであぶり、金属類を溶かしている=フィリピン・カビテ州で

写真拡大海を越える廃家電 ※写真をクリックすると拡大します

 日本で捨てられたテレビや冷蔵庫が、アジアで中古品としてよみがえり、金属資源にもなっている。一方でずさんな処理が現地の環境と健康を破壊しているという。海を渡る廃家電は、国境を越えた「資源」の有効利用か、先進国から途上国への「廃棄物」の押しつけなのか。

○フィリピン・中国 集積地続々 資源再利用、汚染は拡大

 フィリピン・マニラの南港は、さながら中古家電の青空市場だ。

 8畳ほどの店が押し合いへし合いひしめき合う。日本のテレビや冷蔵庫、エアコン、洗濯機が積まれ、並べられ、通路にはみ出している。

 市場の起源はいくつもの説がある。船乗りが始めたともいわれ、この30年で大きく増えた。月に800台をさばく女性店主(59)は「商売敵が次々現れ、値崩れが起きている」と話す。

 マニラ・ラスピナス市の古山征男さん(69)が、日本の中古テレビの輸入販売を始めて15年になる。南港を通して毎月3千〜4千台を取りよせ、自宅工場でフィリピン人の技術者が修理・改造し、14インチは1800ペソ(5千円)、21インチは8千円で売る。

 商いの先行きは明るいが、古山さんは複雑でもある。「使えるのに捨てちゃうんだからね」。壊れるまで使う。捨てずに直す。かつては同じ光景が日本にもあった。

    ◇  ◇

 廃家電は中古として利用されるだけではない。

 マニラ南のカビテ州。水はけの悪い地区に車1台分の小さな車庫がある。そこは、廃家電の基板から有用な金属類を取りだす工場でもあった。

 パソコンに使われていた約2センチ四方の中央演算処理装置(CPU)をペンチでつまみ上げ、バーナーの火であぶる。溶けた金属がたらいにポトポト落ちていく。

 鉛のにおいが頭を殴りつける。そばでは酸性液にパソコン部品をつけ込み、張り付いた微量の金をそいでいる。手の皮膚はボロボロだ。従業員の一人は「みんな肺をやられる。でも酒を飲んだら治る」と言った。

 男6人が働くこの工場では100キロのCPUから18グラムの金、320グラムの鉛を取り出す。金は1グラム2770円、鉛は1キロ890〜330円で売る。アルミニウムや銀、銅も取れる。薬品を違法に使うため、摘発を恐れて定期的に場所を移す。こうした工場が近郊に550あるという。

 CPUの金属類はさらにマニラ北のブラカン州に運ばれる。掘っ立て小屋のような精製工場で、男2人が金属類を薬品と一緒に高熱ガスで溶かしている。次に酸性液にひたし、まきを燃して熱す。ひしゃくで灯油をかけ、火勢を盛りあげる。

 工場が集まる地域全体で月10キロの精製金を生むとされる。大量に出る廃液を使われていない魚の養殖池に流すところもある。

 純度を高めた金属類は日本、中国、米国、韓国、インド、台湾へ輸出されると聞いた。

    ◇  ◇

 廃家電の集積地としては中国広東省の貴嶼(グイユ)が有名だ。02年に国際NGOが、野焼きや廃液の垂れ流しといった汚染問題の告発ビデオを公表。大気や土壌が重金属で汚され、貧しい農家の子どもたちの被害が疫学調査で浮かび上がった。

 ところが今、アジアのあちこちに「ミニ貴嶼」が生まれている。国内処分に苦労する先進国から流れ込む廃家電が、金属資源の世界的な高騰で富とつながるようになったためだ。フィリピンでは「やめるべきだがやめられない。職を失う人がたくさん出るからだ」と聞いた。各地に健康とお金とを交換する貧しい人々がいる。

 国連環境計画(UNEP)は07年11月に出した報告書で、世界で毎年生み出される2千万〜5千万トンのe‐waste(電気電子廃棄物)のうち9割以上がアジア諸国に集中し、重大な健康・環境問題になっていると警告した。

    ◇  ◇

 中国国境地帯にあるベトナム北部モンカイ。川沿いの市場では毎日、大量の中古テレビやパソコンが船積みされ、下流の中国・東興に向かっていく。両国とも中古家電の輸入を禁じてはいるが、はた目には正規の貿易か密輸かは分からない。ここでも日本からの中古品を見た。

 廃家電は、先進国からアジアに集まるだけでなく、アジアの途上国間でも複雑な流通が広がりつつある。成長著しいアジアの人々も使い終えた家電を捨て始めた。いったいどれだけの廃家電が集まっているのか、各国政府や研究者の手で流通の実態調査が始まったばかりだ。

○日本 リサイクル体制進まず 「中古」名目、大量に輸出

 廃品回収業を営む金子長武さん(44)は、家庭でいらなくなった家電製品を求めて埼玉・群馬両県を小型トラックで走り回っている。マイクで呼びかけるほか、マンション管理人らからの口コミ情報が頼りだ。月にテレビ20台、洗濯機とエアコンは10台ずつ程度、冷蔵庫は2〜3台が集まる。パソコンモニターも20台ほどが手に入る。

 回収品は50〜4千円で輸出業者に売る。金子さんは「粗大ごみとして自治体に出しても埋められるだけ。使ってもらえるならば外国に送った方が環境にはいい」と訴える。

 日本ではテレビ、洗濯機、エアコン、冷蔵庫の4品目は、家電リサイクル法にもとづき、消費者が費用を負担し、小売店に引き取ってもらってメーカーがリサイクルするのが原則だ。しかし05年度に不要になった4品目2300万台のうち、この制度に乗って国内でリサイクルされたのは1200万台にとどまっている。

 残り1100万台はどこへ消えたのか。そのかなりの部分が、金子さんのような業者によって回収され、アジアに送り出されたとみられる。

 こうした輸出は違法なものばかりではない。

 鉛が含まれるテレビのブラウン管など有害な廃棄物については、92年に発効したバーゼル条約が国境を越えての移動を規制している。だが輸入国の同意がある場合や、再利用される中古品としてならば、輸出が認められる。各国の規制もまちまちだ。そうした中で金子さんやフィリピンで日本製中古テレビを売る古山征男さんが商いを続けている。

 今後、海外への廃家電の流れがさらに大きくなることは避けられそうもない。

 頻繁に買い替えられるパソコンや携帯電話。リサイクル制度がないオーディオ製品。国内で生まれる廃家電は増え続けることが確実だ。また、2011年にはテレビ放送がアナログからデジタルへと変わること、プラズマや液晶など薄型テレビへの買い替えが急速に進んでいることなどから、これから6500万台のテレビが捨てられるとされる。今のリサイクル制度では到底まかないきれなくなる。

 将来の家電リサイクルはどうあるべきか。二つの考え方がせめぎ合っている。

 ひとつは、国境を越えたリサイクル制度をきちんと構築しようという考えだ。日本はサミットなどの場で「国際的な循環型社会の形成」を主張している。国内処理を優先することや環境への影響を無視はしないとしたうえで、廃家電についても「全面禁止ではなく国際資源の適切な越境移動」を目指す。大量の廃家電がアジアに吸い寄せられている現状が追い風になっている。

 これに対し、廃家電の越境に規制を強め、とくに先進国は国内での処理を徹底すべきだと主張する声が環境NGOを中心にある。廃家電が途上国に流れるのはリサイクルの費用が安いからだが、この低コストは、環境対策や公害規制の未整備、低い労働条件のうえに成り立っているからだと訴えている。

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