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2012年1月10日
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2012年度大学入試センター試験
試験日:2012年1月14日・15日

18〜 旅の始まり

優秀な君たちに考えてほしいこと 評論家・山形浩生さん

文章の続きをビデオでどうぞ

写真:山形浩生さん:山形浩生さん山形浩生さん

 いまどき新聞(系のサイト)を読む18歳などというのは、そこそこ頭はよいんだろう。ぼくもそうだったし、そして当時の自分が年寄りの聞いた風なお説教なんか、聞く耳持たなかったことも覚えている。どうせ、つらくてもがんばれ、とか夢を追え、とか言うだけでしょ?

 なまじ頭がいいと、こういう世間をなめた嫌みな発想に陥りがちになるのはご愛敬。特に18歳くらいだと、青臭い社会思想にかぶれて、世界の答えがすべてわかったつもりでいるからなおさらだ。

 が、もちろんその後、世の中がそんなお題目通りにはいかないのもわかってきて、自分が思ったほど頭がいいわけではないこともだんだん思い知らされる。そしてそれ以上にショックなのは、他の優秀な連中の去来だった。

■輝いていた彼らは今

 というのも、当時のぼくのまわりは、ぼくよりはるかに頭のいい連中ばかりだったからだ。高校生ながら異様なプログラムを書き、信じられないような絵や詩を書き、生徒会などで驚異的な組織力を発揮し、先鋭的な思想や知識に精通し……ぼくはずっと、この連中にはかなわないと思ってきた。そしてその後、何をやっても「ああ、これではあいつらに笑われてしまう」と頭の片隅でずっと思い続けて、ずっと彼らの背中を追いかけているつもりでいた。

 そして大学に入っても、ぼくはずっと数多くの異様に優秀な人々に出会う。でも、それと同時にぼくは、そうした頭のいい優秀な人々の挫折もだんだん目にすることになる。

 大学に入って選択肢が広がって、すぐに目先のつまらないタコツボにはまってしまうやつら。頭がよいが故に孤立してしまい、つぶれてしまう人々。優秀すぎるが故に浮き世離れした発想にとらわれて自滅した先輩。ますます多くの仲間たちは、自分の置かれた狭い立場しか見ないようになってきた。日本をよくしたいと思って官僚になったはずの仲間が、いつの間にか自分の役所のせまい省益しか見ない発言をしていた。

 そして高校時代に戦慄させられた同級生や後輩、いまやぼくの遥か先を行っているはずの連中に20年ぶりに会ってみると……その多くは当時と同じレベルで止まっていた。ぼくがずっと追いつこうとしていた背中の多くは、実はそこにはなかった。

■目標への修正、目標自体の修正

 むろん、結局ぼく一人がえらかった、と言いたいわけじゃない。ひょっとすると、ぼくが青臭いままで、あれこれ腰がすわらず自分のポジションを掘り下げようとしないがために、厳しい現実が見えていないだけかもしれない。そしてぼくも大人なので、彼らの立ち位置の合理性はわかる。それでもときに、おまえたちが目指していたのは、そういうことではなかったはずだろう、と言いたくなってしまう。

 でもむずかしい点もそこにある。なぜそうした落差が生じるのかといえば、それはその優秀な連中の多くが本当に優秀で、当初の目標実現のために与えられた部分的な仕事を優秀にこなすうちに、それ以外のもの――そして当初の目標――が見えなくなってくることが多いから、だったりするんだから。あるいは優秀すぎて、実現したいことの中で自分の活躍の場を切り出せないせいだったりするんだから。

 そのあたりのバランスは本当にむずかしいところで、常に最初に目指していたものをふりかえりつつ、自分のやっていることをときどき一歩下がって見直し、修正し続ける作業が必須な一方で、自分のやっていることを元に自分の目標のほうを修正する作業も必要になる。自分がその適切なバランスを達成できたかどうかは、ほんと未だに自信がないし、おそらく死ぬまで続ける綱渡りになるんだろうが――ぼくは18歳あたり、そろそろそのバランスの必要性を、すこーしばかり頭の片隅にでもいれておいてほしいな、と思うのだ。(寄稿)


 山形浩生(やまがた・ひろお)さん 1964年東京都生まれ。麻布中学・高校を経て東京大学理科Ⅰ類入学。東大大学院工学系研究科都市工学専攻、マサチューセッツ工科大学不動産センター修士課程修了。野村総合研究所研究員として地域開発やODA関連調査にかかわる傍ら、文学・経済・コンピューターなど幅広い分野の翻訳と評論を手がける。2002年〜2005年に続いて2011年から朝日新聞書評委員。近刊は訳書「この世で一番おもしろいミクロ経済学」(ヨラム・バウマン/グレディ・クライン著、ダイヤモンド社)。

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