【動画】福崎伍郎さんから受験生へメッセージ=戸田拓撮影

写真・図版「センター試験の問題は、高校の教育現場へのメッセージでもある」と語る福崎伍郎さん=東京・渋谷

写真・図版2012年度センター試験の英語第4問より。コンサートのチラシから、当日に80ドルで購入できるのはどの席かなどを読み取る。「問われているのはスキャニング力。TOEICとよく似た出題傾向」と福崎さん

写真・図版2009年度センター試験の英語第3問より。「sporadic」という未知語の意味を、文脈から手がかりを探して推論する能力が問われている

写真・図版文章構成を広い視野で読み取らせる出題意図が明確だった2013年度の英語第6問

写真・図版問題中のフレーズと酷似した文章が試験前にネット掲示板に書き込まれて物議を醸した、2005年度センター試験の英語第6問

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 英語をどのように教えるかは、日本の教育の大きな課題です。25年目になるセンター試験の英語問題の変遷には、この間の教育行政の試行錯誤が反映されています。時代の要請をどう問題に具現化し高校教育に還元するか、という意識はとても強いと思います。

 センター試験は選択肢問題だから実力は測れない、という人は表面しか見ていません。各問に様々なメッセージが詰まっていて、教える側はそれをちゃんと受け取り、出題者が求める読み解き方をきちんと伝える必要がある。国の教育再生実行会議は大学入試センター試験を廃止し「基礎」「発展」2レベルの達成度テストを導入する方針を提言しましたが、完成度の高い現在のセンター英語がすっかり無くなってしまうのは非常にもったいないので、どのような形であれ生かせたらと思います。

■求められる段落全体の把握

 1990年度と2013年度で比べてみましょう。六つの大問中、90年度は第1問が「発音・アクセント」、第2問が「文法・語彙(ごい)・対話文」、第3問が「整序英作文」。ここまでが知識系の問題です。第4問が「図表問題」、第5問が「読解問題(論説文)」第6問が「読解問題(小説・物語文)」と読解系。知識系と読解系で半分半分、配点もほぼ五分五分でバランスが取れていました。対して2013年度、第1問「発音・アクセント」は同じですが、第2問で90年度の2と3がぐっと押し込まれてしまいました。知識系が6分の2になったのです。

 読解問題も、かつては内容一致問題が中心で、本文の特定の箇所が見つかればそれを根拠に答えられました。ところが現時点では内容一致問題はごく一部で、高校生が知らない単語や語句を出し前後の文脈から意味を推測させたり、ディスカッションの場面を切り取って要約させたりする問題が出ています。長文中の空所に文を入れるのも、単純に前後の文とのつながりという狭い視野でなく、段落の内容を広くとらえているか、パラグラフリーディング能力を問うものになっている。設問の意図がバラエティーに富んでいるんですね。

 配点は3~6で145点。72.5%が読解問題です。ワード数も90年度が3000ワードぐらいだったのが今は4000ワード前後。単に速く読むだけでなく、流れを察するマクロな視野を併せ持った実践的読解力が必要になっています。

■読めるだけでは解けない

 問題文のテーマも変わりました。初期はグローバル化を主題に、交通ルールの違いなど異文化理解をテーマとした出題が目につきますが、情報化、知識基盤社会への対応が叫ばれる中で情報処理力にシフト。広告などの図表から必要なデータを読み取る能力や、会話の流れから話者の意図を読み取る推論力が試されるようになりました。英語を使った応用力を見る意図が鮮明です。

 2013年度の長文読解は比較文化論のような話でした。問題文にパラグラフ番号がついているのは「パラグラフ単位で問いますよ」ということです。B問題では文章全体の論理展開を答えさせ、「内容が文章のどこかに書いてあるからマル」という世界は完全に消えています。訳読中心では対応できず、パラグラフリーディングを訓練していないと読めても解けない。大学で必要な読解力の土台ができているかを見極めようとしているんです。

 長文読解で小説が出なくなったのは惜しいですね。以前は既存の短編小説をリライトしたような文章が出題され、優れた表現が使われていて設問もよかった。ところがある年、高校の教科書と内容が重なってしまう事件が起き、以来自作問題になってダイナミズムが薄れました。追い打ちをかけたのは05年度に起きた「マイ・ネイム・イズ・ケヴィン」事件。センター試験前に、長文問題にある「my name is Kevin」という文章がインターネットの掲示板に書き込まれたことが世間を騒がせました。そのようなこともあってか、08年度からは論説文の読解問題に取って代わられました。潮時だったのでしょうね。

■水面下を養う教育を

 私は学力を氷山のモデルで考えています。同じように教えても伸びる子と伸びない子がいるのですが、英語では語彙や文法が水面上の部分とすると、水面下の国語力、背景の常識や教養、さらにその下の学習意欲や好奇心など見えない基底の違いが影響しているのではないか。しっかり根を張った植物はぐんと養分を吸って育ちます。水面下を養えるかどうかで成長の度合いは変わると思います。

 最近の傾向として「何でも見てやろう」という好奇心が減り、必要でないことはやらずに済ませたい、自分の勉強や知的活動の範囲を限定したいという効率化が行き過ぎていることが気になります。少し前に世界史を教えていない高校が問題になりましたが、世界史の知識がないと英語の長文を読んでわからないことはいっぱいある。大人たちが「無駄なことをしてはいけない」と最も効率のいいやり方を示すことで、結果的に子供が知的関心を広げる力を奪ってしまうのでは本末転倒です。無駄をそぎ落としたシステムを与えられると、色々なことが頭の中で結びついてひとつの体系となる快感がないんですね。我々は、そうしたことに心を注いでいかなければと思っています。

 時代を経て実践的能力に重点を移しつつあるセンター試験の英語は、真の学力とは何かを不断に問いかけています。単なる試験対策でなく、広い視野で学ぶきっかけとして活用していただきたいと願っています。(聞き手・戸田拓)

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 ふくざき・ごろう 香川県出身。京都大学法学部を卒業後、大手予備校の講師を経て、東進ハイスクール・東進衛星予備校講師。大学受験英語指導の第一人者として活躍。