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カンフー娘、アリーの攻撃態勢

2008年2月7日

  • 筆者 兵藤ゆき

 アリーの血相が変わった(前回の続き)。

 ん? アリー、どうしたんだ?

 私たちは、しばしアリーを見つめた。

 と、やにわにアリーは、カンフーの攻撃態勢のポーズになった。

 私たちがいたあたりは、両側にチャイニーズ系の食べ物屋さんやお土産屋さんが立ち並ぶ、チャイナタウンの中でも特ににぎやかな路地だった。

 いつもは商業車がたくさん行き交っているのだが、車両は通行止めになり、そこでライオンダンスやドラゴンダンスが披露されていたのだ。

 厄除けのため、というこのダンスは大人気で、銅鑼(ドラ)や太鼓、鐘の音に合わせて踊る、横4メートル、高さ3メートルはあろうかという、黄色の地に金・銀・赤などの派手な飾り物をつけた獅子が舞い踊る周囲は、ご利益にあやかろうという人たちで大賑わい。

 勢い、獅子と同じく威勢よく踊りだしたり、火薬玉をパンパン地面に叩きつけたりと、ご機嫌になっている人たちもいる。

 その中に、アリーより1、2歳上かなという男の子が、アリーのすぐそばで火薬玉をパンパン地面に叩きつけていた。

 アリーは、その男の子に向かって攻撃態勢をとったのだった。

 アリーの目は真剣だ。

 アリーのお母さんのキャサリンが言うには、アリーはカンフーがものすごく好きで、カンフー教室の先生も、彼女はすぐに上達し、素晴らしいカンフー・ウーマンになることだろうと、太鼓判を押しているとのこと。

 カンフーを習いだす前も、運動神経に優れ、心も強いアリーは、幼稚園で男の子とけんかになろうものなら、手、足が即座に出て、男の子をあっという間に泣かせては、先生の指導を受けていたという。

 手や足が出る前に、一応、口も出て、彼女なりに相手と話し合いをしようとしているらしいのだが、いかんせん、その後、間髪入れずに、手足が出てしまうという。

 カンフーを習って、技はあるのだが、まずは話し合い、という精神がちゃんと身に付けばとの思いから、キャサリンはアリーをカンフー教室に通わせ始めたというのだが、ここでやっぱり、手、足が出てしまうのか。

 と、アリーの状態に気づいたカンフーの先輩でもある彼女のお兄ちゃん、デレンが、

 「アリー、どうしたんだ」と彼女に聞いた。

 「彼が私の足元に火薬玉を投げたのよ。次、投げてきたら、一発蹴りを入れてやろうと思って」

 それを聞いたデレンが言った。

 「きっとわざとじゃないよ。危ないと思ったら、攻撃態勢にならずに、アリーがそこから離れればいいんだよ」

 「えー、でも悔しいじゃない」

 「ほら、見てごらん。アリーに火薬玉を投げた男の子、アリーの攻撃態勢を見て、凍りついているじゃないか」

 と、「す、すいません、手がすべって、そっちに火薬玉がいっちゃって」

 さっきの男の子があわてて謝った。

 アリーはそれを聞いて、「OK、なら大丈夫」

 と、きっぱり言うと、攻撃態勢を直した。

 やれやれ、カンフーの先輩、デレンのおかげで、大事にならずにすんだ。

 私は、ホッと胸をなでおろしたのだった。

(次回に続く)

兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。

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