現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. 子育て
  5. ゆき姐の子育て応援エッセー
  6. 記事

愛にあふれたアーティスト林世宝さん(2)

2008年2月21日

  • 筆者 兵藤ゆき

 林(りん)さん(前回参照)は台湾の田舎で育ったそうだ。

 実家はレストランをやっていたという。

 林さんが小学校5年生の頃、実家は田舎から都会に引っ越すことになった。

 日本で言えば、九州から東京くらいの距離だったそうだ。

 林さんは6人兄弟の末っ子。

 もちろん、両親、兄弟と共に、林さんも一緒に引っ越すものだと誰もが思っていた。

 ところが、11歳の林さんは、生まれ育った田舎を去るのが嫌だと言い出した。

 家族と離れても、自分だけは田舎に残り、知り合いのおばさんの家に下宿して、一人暮らしをすると言い張ったそうだ。

 小学校5年生、11歳といえば、まさに我が家の息子と同じ年だ。

 息子がひとりで下宿すると言ったら、そりゃあ止める。

 が、なんと林さんは決行してしまった。

 中学3年生までの5年間、家族と離れ、自分だけそのまま田舎で下宿暮らしをしたのだそうだ。

 なんとまあ強い子だこと。

 それを認めたお母さんも、なんとまあ強い女性だこと。

 私だったら、心配だし、淋しいしで、きっと一緒に田舎に残ってしまいそうだ。

 さて、下宿で一人暮らしを始めた11歳の林さんを支えてくれたのは、なんと、“タゥフー(豆腐)”だったという。

 雨が降ろうが槍(やり)が降ろうが、毎朝5時になると手作り豆腐を売りにやって来たおじさんから、作りたてでまだ湯気が出ている温かいタゥフーと豆乳を買って毎朝食べるのが、林さんの心の支えでもあり楽しみでもあったのだそうだ。

 その味は今も忘れられないというが、残念なことに、あのおじさんが作るタゥフーより美味しいものには、その後一度も出会ったことがないという。

 高校生になった林さんは、また家族と暮らし始めるが、その頃から画家を志し、高校3年生のときに台湾国内の美術大会で最優秀賞を受賞。そこから世界的なアーティストへとまい進していくことになるのだが、11歳から15歳までの一人暮らしで培(つちか)った心の強さと、豆腐で培った体の強さが、その後の原動力になっているのではないかと、林さんは冗談交じりに言っていた。

 さて、2005年に愛知県で開かれた「愛・地球博」に展示してあった林さんの作品「知恵の門」(世界中から集まった30万本ものペンを使って、平和の大切さを訴える門の形をしたオブジェ)は今、愛知県津島市片岡町のヨシヅヤ津島北テラスに展示してあるそうだ。

 “ペンは剣より強し”、そして、使った人の思い出が詰まっているとの考えから、林さんは世界中からペンを送ってもらい、この作品を作ったのだそうだが、その後もペンは集まり続け、送ってくれた人たちのその思いを「知恵の門」に加えるべく、3月か4月になったら彼は日本にやって来て作業をするのだそうだ。

 現在は、ニューヨークのコロンビア大学主催のグループショーがグランドセントラル駅近くにある台湾文化センターで行われ、4月にはふるさと台湾で個展。

 小学校5年生で一人暮らしを始めた世宝(せいほう)少年は、35年経った今、愛と平和のメッセージを世界中に発信する素敵なアーティストになったのであった。

(次回に続く)

兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

[PR]注目情報

ここから広告です

広告終わり