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眼高手低(イェンカウソーティ)

2008年6月5日

  • 筆者 兵藤ゆき

 「あの学校に入れなくてよかったな」

 林さんはしばらくしてそう思ったそうだ。(前回参照

 もし入っていたら、子どもだけでなく親も学校の勉強についていくのに相当な努力を強いられるとわかったからだ。

 台湾も中学受験のために、今は小学生から塾に行ったり家庭教師をつけたりして、子どもも親も大変なのだそうだ。

 NY(ニューヨーク)市も、ブルームバーグ前市長が公立学校の成績の底上げのために教育改革を行い、キンダーガーデンから成績が重視され、たいていの公立学校ではテストも多く、宿題が毎日たくさん出されるようになったという。

 ところが、林さんの長男が通い始めた公立学校は、年間を通してテストも宿題もまったくと言っていいほどないとのこと。

 一般的なNYの公立学校の方針には反しているように見えるが、子どもの想像力を育てる教育は充実しているように思うと林さんは言う。

 林さんの長男は今、エレメンタリースクール1年生(日本で言う小学校1年生)。

 林さんに似て、物を作るのが大好きで、ほとんど毎日学校でも工作をしているそうだ。 空き箱やトイレットペーパーの芯などのリサイクル素材で実にいろいろなものを作り、 キンダーガーテンのときに作った寿司弁当やコンピューターは、長い間教室に展示されていたそうだ。

 今は人間の体の模型を作っているという。

 ただ手足をつけるだけでなく、本を見ながら、内臓や骨、血管まで作っているらしい。 クラスでは、ウサギや虫を飼っていて、子どもたちが交代で世話をし、観察をしているという。

 死んでしまった虫は、アルコールにつけて、もっと細部まで観察する。

 林さんの長男は、家でもいろいろ実験をしていて、先日は夕飯に食べたチキンの骨を酢に漬け、カルシウムが溶けて骨が柔らかくなるのを観察していたそうだ。

 こういうことは、子どもの頃の林さんが台湾の田舎の村で自然から学んだこととよく似ている。

 当時の林さんの家ではおもちゃを買ってもらえなかったので、誰かが持っているおもちゃを真似して手作りしていたそうだ。

 たくさんの動物や虫や鳥も飼い、生命の成り立ちや大切さを、自分で世話をして観察し学んできたともいう。

 林さんの長男の学校では、これと同じような自然や生命に関しての教育や、手作りの面白さの教育が行われているというわけだ。

 もちろん、自然観察や工作の時間ばかりではなく、基礎学力をつける勉強もしっかりしているし、現在必要不可欠なコンピューター操作の勉強も、学年が進むと始まるという。 長男は友だちが持っているコンピューターゲーム(林さんの家ではまだ買っていないらしい)で遊んだり、日本のおじいちゃん(林さんの奥さんは日本人です)に買ってもらったロボットで遊んだりするのも好きだそうだが、ぱっとひらめいたり、思いついたりしたものを、素材を自分で探してきて、自由に作れるもののほうが好きそうだなあと、林さんは見ていて思うそうだ。

 自分で物作りをする手作業が良いというのは、手と一緒に脳も動いているからだし、何より、想像力が膨らむ。ああしてみたり、こうしてみたり、自分で思うようにできる。

 これが子どもにはとても面白く、そして必要なことだと林さんは言う。

 作られたゲームやおもちゃは、作った人が考えた範囲での動きしかできないので、すぐに飽きてつまらなくなってしまうというわけだ。

 中国語で、「眼高手低(イェンカウソーティ)」、という言葉があるそうだ。

 「批判は多いにするけれども、実際の手は動かない」、という意味で、こういう風になってはいけないということだそうだ。

 子育て真っ最中の林さんは、この言葉を忘れないように子どもたちに接しているという。(次回に続く)

   ◇

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兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。

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