2008年7月24日
競技(前回参照)の受付が朝8時から始まるので、お父さんが運転する車で、お母さん、お兄ちゃん、弟くん、そして、かいとくうは朝7時前に家を出発。
競技会場(前回参照)の岐阜の河川敷までは、1時間ほどで着いた。
お天気は上々だ。
競技場はロープで仕切られていたが、横長に続く河川敷には、すでに50頭ほどの犬たちが飼い主と共に集まっていた。
訓練所でお世話になっている訓練士さんや、お兄ちゃんに競技会への出場を勧めてくれた所長さんもいた。
当日は5月の下旬で、日中は日差しも強く、気温も上がる。
かいは、ラブラドールレトリバーのブラックなので、白っぽい犬より太陽熱の吸収が早く、日差しが強くならないうちに競技に出さないとバテてしまうと、訓練士さんがアドバイスをくれた。
それに、競技中に排泄しないように、出場前に頃合いを見計らって、先にさせておく必要もあるとのこと。
試合に出場するタイミングは、犬の調子、気温、ほかの出場犬の様子など、さまざまなことを考慮に入れ、出場者自らが決めてもいいことになっていた。
お兄ちゃんには、まだかいの排泄のコントロールはできないし、ほかの出場犬の様子を観察する余裕もない。
お兄ちゃんができることは、競技が楽しくできるようにかいの気持ちを盛り上げ、そしてなにより、自分が平常心でのぞめるよう、気持ちを落ち着かせることだった。
競技に出るタイミングと、かいの排泄は訓練士さんにまかせることにした。
それまで、お兄ちゃんはかいとボール遊びだ。
いつものように、かいは楽しそうに遊んでいる。
合間をぬって、訓練士さんがかいの排泄をすませてくれた。
さあ、いよいよ競技開始の時がやって来た。
お兄ちゃんは、かいをぎゅっと抱きしめた。
いままでやってきたことを普通にやればいいんだ、かい、頼んだよ。
「訓練チャンピオン決定競技会 4部G1、アマチュアの部」、出場頭数は全部で6頭。このクラスで競技をする人は、お兄ちゃん以外はみんな大人だ。
審査員の人に自分の名前とかいの名前を告げ、お兄ちゃん、いよいよスタート。
まずは、スタートのA地点からまっすぐ歩く。
いい調子だ。
B地点に着いたら、今度は右に直角に曲がる。
ん? ちょっとかいが遅れたかな?
またまっすぐ歩いて、今度は左に直角に曲がる。
そこからまっすぐ歩いてC地点。
Uタ−ンをして、今度は走ってA地点まで戻り、A地点とB地点の間にかいを立たせ、 かいの回りを自分が2度、回る。
よし、ここまではうまくいった。
でも、ここからが問題だ。
次はリードなしで、今やったことと同じことをするわけだ。
競技場の回りにはロープが張ってあるのだが、ロープの外側では飼い主とボール遊びをしている犬たちもいる。
競技の邪魔にならないよう、すぐ近くではやっていないが、ボールが目に入り、競技中にもかかわらずそのボール目がけて走って行ってしまう犬も中にはいる。
どうかこのまま、かいは競技を続けられますように…
お兄ちゃんも、ロープの外で見守っていたお父さん、お母さん、弟くんも思った。
でも、大丈夫。
かいはリードをはずしてからも、ちゃんとお兄ちゃんと一緒に競技を続け、最後までやり遂げた。
「僕はずっと競技をビデオカメラで撮っていたんですが、こっちが緊張して手が震え、あとでビデオを見たら、画面がずっと揺れていました」
お父さんは苦笑いしながらそう言っていた。
もちろん、一番緊張したのはお兄ちゃんだ。
「競技が始まってから終わるまで、何をやったか覚えてないくらい無我夢中でした。でもみんなが、ぜんぜん間違えなかったし、よくできたよ、って言ってくれたんで、あー、できたんだー、ってホッとしました」
と、お兄ちゃんは言っていた。
そして、いよいよ結果発表だ。
果たして、お兄ちゃんとかいの成績はいかに!
(次回に続く)
名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。
主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)、(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「あなたを誇りに思います―I’m proud of you,―」