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犬と少年(8)―お兄ちゃんの試練

2008年8月7日

  • 筆者 兵藤ゆき

 お兄ちゃん(前回参照)が3回目に参加した「訓練チャンピオン決定競技会 4部G1、アマチュアの部」は、愛知県の新舞子で行われた。

 かいと一緒に参加するようになって、4カ月ほどがたった秋のことだった。

 かいは、臭いをかぎ分ける力があるようなので、警察犬の基本的な訓練、県警の嘱託犬になるための試験が受けられるようになるまでの訓練を受けたらどうかと、訓練士さんから提案があり、「臭気選別(複数の臭いの中から、ある特定の臭いをかぎ分けること)」の訓練も受けていた。

 この日、かいは訓練士さんと一緒に初めて臭気選別の競技にも出ることになっていた。 訓練士さんは、お兄ちゃんより先に、かいと競技に出ることにした。

 競技に出る前には、競技中に犬が排泄しないように、きちんとさせておく必要がある。 訓練士さんは、いつものようにタイミングを見て、かいに排泄をさせた。

 臭気選別の競技も無事に終わり、1時間ほどして、今度はお兄ちゃんがかいと出る番になった。

 お兄ちゃんは、かいに排泄させたほうがいいかどうか訓練士さんに聞いてみた。

 訓練士さんは、臭気選別の前にしているのでさせなくてもいいのではないかと言った。

 お兄ちゃんはその言葉に従い、そのまま競技に出ることにした。

 競技はいつにも増して順調に進んでいった。

 お兄ちゃんの言いつけを聞いてやっているというより、一緒に楽しく遊んでいるという感じだ。

 お兄ちゃんや弟くんが、ただものではないと思っている訓練所の所長さんとやるように、かいは楽しそうに、元気よくお兄ちゃんと一緒に競技を進めていった。

 このままいけば1位も夢じゃない、

 競技を見守っていたお父さんやお母さん、弟くんも思った。

 と、競技が中盤に差し掛かった頃、かいの様子がなんだか変になってきた。

 お兄ちゃんはとっさに思った。

 わっ、かいが排泄しそうだ、

 と思う間もなく、かい、まさかの排泄……。

 お兄ちゃんはショックだった。

 でも、ここでくじけてはいけない。

 お兄ちゃんは気を取り直し、また元気にかいと競技を続けた。

 そのかいあって、お兄ちゃんとかいの順位は3位。

 得点はなんと97点で、前回よりまた0.5点上がった。

 もし、かいの排泄がなかったら、もっといい点数になっていただろう。

 お兄ちゃんは思った。

 大事な排泄を、人任せにしていたのがいけなかったのだ、これからは人に頼らず、自分でかいの様子を見て、自分でかいの排泄のタイミングを決めよう、と。

 「新舞子での排泄事件があってから、お兄ちゃんはまた一段としっかりしてきましたよ。あれがあって、結果的にはとても良かったんじゃないかと思います」

 とお母さんは言う。

 それからお兄ちゃんは、もっともっとかいを可愛がり、もっともっと練習を積み、競技前は訓練士さんに排泄のタイミングを聞くのではなく、全部自分でやるようになった。

 そして、とうとうその年の12月、岡崎での競技会で98.2点をマークし、お兄ちゃんは堂々の初優勝を果たしたのだった。

(次回に続く)

    ◇

〈編集部から〉兵藤ゆきさんが公式ブログ「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」を開始しました。読者の方からのお便りも書き込めますので、どうぞご参加ください。もちろん、このエッセーに関するお便りもどうぞ。

兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」

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