現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. 子育て
  5. ゆき姐の子育て応援エッセー
  6. 記事

犬と少年(9)―モニカがやって来た、弟くんの戸惑い

2008年8月14日

  • 筆者 兵藤ゆき

 「訓練チャンピオン決定競技会 4部G1、アマチュアの部」で堂々の初優勝を果たしたお兄ちゃん(前回参照)は、次の段階の3部にクラスを上げ、かいと練習に励んだ。

 3部はもちろん4部より難しくなる。

 犬に、「伏せ」をさせたり、ダンベルを投げて取ってこさせたり、障害物を飛ばせたりと、より複雑な種目が増える。

 「でも、前より難しいことができるようになると、もっと犬の訓練が面白くなりました」

 お兄ちゃんはうれしそうにそう話してくれた。

 さて、そんな彼らの家に、去年の9月の終わり頃、訓練所からモニカという犬(「かい」や「くう」と同じく犬種はラブラドールレトリバーで、色はチョコレート色)がホームステイにやって来ることになった。

 モニカは訓練所で生まれた犬で、当時3歳半。

 この歳になるまで、モニカは一度も人の家庭の温かさを味わったことがなかったのだそうだ。

 モニカの兄弟たちは、生まれてすぐにほとんどがもらわれていったのだが、モニカの毛並み(ラブラドールレトリバーのチョコレート色)は日本では少なく、この血統を維持しようと訓練所で繁殖させることを考え、モニカは訓練所に残されることになったのだった。

 ほかのもらわれていかなかった犬たちは、所長さんが家に連れて帰ったり、訓練士さんたち自身の練習のためにも自己所有の犬が必要ということで、彼らが家に連れて帰ったり、訓練所に犬を連れてきている家に、パピーウォーカー(将来、盲導犬としての訓練を受ける仔犬を、生後2カ月から約1年間預かり育てるボランティア)のように、訓練が始まる生後7、8カ月頃まで預かってもらい、愛情たっぷりに育ててもらったりしている。

 だが、もともとおとなしい性格で自己主張をしないモニカは、ついつい後回しになってしまい、ここまで一度も家庭を味あわせることなくきてしまったというわけだった。

 丁度その頃、かいがまた、臭気訓練のために訓練所に預かってもらうことになった。

 そこで、お兄ちゃんや弟くんがただものではないと思っている訓練所の所長さんから、こんな申し出があったのだ。

 「かいがいない間、ご迷惑でなければ、モニカをしばらくそちらにホームステイさせてやってくれませんかねえ」

 もちろん、お兄ちゃん、弟くん、お父さん、お母さんは快諾した。

 そして、かいは訓練所に、モニカは彼らの家にやって来たというわけだ。

 かいはお兄ちゃんが世話をしているので、モニカは弟くんが責任を持って世話をすることになった。

 弟くんはうれしかった。

 かいもくうも可愛かったが、自分の犬、という感じではなかった。

 でも、モニカはちょっとの間だけかもしれないが、自分の犬として世話ができる。

 いつも夜寝るとき、かいはお兄ちゃんのそばで寝る。

 くうは好きなところで寝ているが、たいていは、お父さんやお母さんのベッドにもぐり込んでいる。

 弟くんは、モニカの布団を自分のベッドの下に敷いた。

 これからは、モニカは自分のそばで寝るのだ。

 これもとてもうれしかった。

 「モニカ、これからは僕が世話をするから、よろしくな」

 弟くんは家にやって来たモニカを撫ぜながら言った。

 ところが、モニカの様子はなんだか変だった。

 弟くんがモニカの顔を見て名前を呼んでも、目を合わそうともしないし、くうやかいなら名前を呼べばうれしそうに尻尾を振るのに、そんなこともしない。

 「訓練所でいろいろ訓練をされているので、噛みついたり、吠えたり、物を壊したりとか悪いことはしないし、お座り、って言えばちゃんと言うことを聞くんですけど、無表情というか、くうやかいみたいに甘えてきたり、うれしそうな顔をしたりとかぜんぜんしないんですよねえ」

 弟くんは面食らった。

 さあ弟くん、このモニカをどうする……

(次回に続く)

    ◇

〈編集部から〉兵藤ゆきさんが公式ブログ「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」を開始しました。読者の方からのお便りも書き込めますので、どうぞご参加ください。もちろん、このエッセーに関するお便りもどうぞ。

兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

[PR]注目情報

ここから広告です

広告終わり

ジャンル別の最新情報はこちら
  • 大学
  • 中学・高校
  • 専門学校