現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. 子育て
  5. ゆき姐の子育て応援エッセー
  6. 記事

犬と少年(15)―さようなら、モニカ……

2008年9月25日

  • 筆者 兵藤ゆき

 実は、今回の競技会(前回参照)に出場するにあたって、訓練所の所長さんとお父さん、お母さんは、モニカについてある約束をしていた。

 アマチュアの部で競技会に出場する犬は、一緒に出る競技者の家が所有している犬でなくてはならないという規定がある。

 モニカは訓練所からお兄ちゃんと弟くんの家に、お兄ちゃんの犬のかいが訓練所に行っている間だけということでホームステイにやって来た犬。(「少年と犬(9)」参照

 すなわち、所有者は所長さんだ。

 でも、弟くんがとても可愛がっている姿を見て、所長さんが競技会への出場を勧めた。 ということは、モニカはそのまま弟くんの家の犬になることを、所長さんは願ったことになる。

 でも、モニカの毛並み(ラブラドールレトリバーのチョコレート色)は日本では少なく、この血統を維持するために、所長さんは繁殖犬として訓練所に置いておくことも考えていた。

 もし、弟くんの家の犬になったとしたら、訓練所で繁殖させることはできなくなるので、ぜひ彼らの家でやってもらいたいと思ったが、これはなかなか難しい問題だった。

 でも、弟くんと競技会に出てもらいたい。

 所長さんは困っていた。

 お父さんとお母さんも困っていた。

 弟くんはまだ小学校3年生。

 モニカをとても可愛がっていたが、散歩や食事、排泄物のことなど、まだ十分世話ができているとはいえなかった。

 もし、モニカを譲り受けたとしても、他にくうとかいもいる。

 お父さんもお母さんも仕事を持っているし、息子2人と犬3頭の面倒を見切れるだろうか……、

 そして、繁殖のこと……、

 でも、お父さん、お母さんも所長さん同様、弟くんを競技会に出してあげたいと思っていた。

 所長さんとお父さん、お母さんは、よーく話し合った。

 そして、こう決めた。

 モニカの所有者は、所長さんからお父さんに移す。

 ただし、競技会が終わったら一旦モニカは訓練所に返す。

 そして、モニカという犬が持っている繁殖犬としての使命を果させながら、一生、面倒を見ることができるかどうかを、家族で時間をかけてじっくり話し合う。

 一時の感情でモニカを引き取っても、最後まできちんと面倒を見られないのなら、何よりもモニカが可哀そうだ。

 もし、話し合いの結果、やっぱりモニカを引き取ることはできないというのなら、それはそれでまた所有者を所長さんに戻すのは一向に構わないと所長さんは言った。

 このことは、競技会が終わるまで、所長さん、お父さん、お母さんの3人の胸の内だけに閉まっておくことにした。

 競技会が終わって、モニカを訓練所に返してから、子どもたちとよーく話し合うことにしたのだった。

 それは、実はこの競技会後のつもりだったのだが、見事に兄弟揃って優勝したので、12月中旬に行われるラブラドールだけの競技会後に話し合いは持ち越されることになったのだ。

 お父さんとお母さんは、まずは弟くんの気持ちが一番だなあと思っていた。

 こちらから話を持ち出すより、モニカがいなくなって弟くんがどんな気持ちになり、どんなふうにしたいのか自分から言い出すのを待ったほうがいいかなあと思っていた。

 そして、12月中旬、ラブラドールだけの競技会が終わった。

 お兄ちゃんは逃したものの、弟くんは今回も見事優勝。

 表彰台の一番高い所にモニカと登った。

 弟くんは優勝カップを持ち、モニカは優勝ガウンを着せてもらい、写真を撮った。

 モニカを一旦家に連れて帰ると、別れがつらくなるかもしれない。

 このまま訓練所に返したほうがいい。

 家族でそう話し合い、写真を撮った後、モニカは訓練所の車に乗せられることになった。

 さようなら、モニカ、

 そして、ありがとう、モニカ、

 弟くんはそう言いながら、モニカを強く抱きしめた。

(次回に続く)

    ◇

〈編集部から〉兵藤ゆきさんが公式ブログ「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」を開始しました。読者の方からのお便りも書き込めますので、どうぞご参加ください。もちろん、このエッセーに関するお便りもどうぞ。

兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

[PR]注目情報

ここから広告です

広告終わり

ジャンル別の最新情報はこちら
  • 大学
  • 中学・高校
  • 専門学校