現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. 子育て
  5. ゆき姐の子育て応援エッセー
  6. 記事

ニューヨークからの御一行様(5)―しゃ、しん、いい、ですか?

2009年2月5日

  • 筆者 兵藤ゆき

 いよいよ注文というとき(前回参照)、アレックスは私の方を振り返って言った。

 「カウンターの上にみそラーメンの写真があるんだけど、ラーメンの上にバターとコーンがのってるんだ、僕、これはいらないんだけど、どう言ったらいい?」

 私はとっさに、バターとコーン抜き! って言えばいいよと叫んだ。

 「OK、ありがとう」

 そう言うとアレックスは、レジのおねえさんに向き直って言った。

 「み、そ、ラーメン、く、だ、さ、い……」

 よーし、いいぞ、

 …ん? 次が出ないぞ、そりゃ、いきなりだもの無理ないよな、

 と、アレックスはまた私の方を振り返った。

 バター、コーン抜き!

 私はもう一度叫んだ。

 「バター、コーン、ヌキ」

 よし、アレックス、うまく言えた。

 と、レジのお姉さんはニッコリ笑って注文を繰り返した。

 「はい、みそラーメンの、みそ抜きですね」

 おい、違うよ、と私が思うが早いか、

 「どんなラーメン?」

 おねえさんの横でラーメンを作っていたおばさんが突っ込みを入れた。

 レジのおねえさんは、

 「キャハハ、失礼いたしました」

 と大笑いしながら、

 「バターとコーン抜きのみそラーメンですね」

 と繰り返した。

 それを聞いてレジに並んでいたお客さんも、他のレジのおねえさんやおにいさんもみんなニッコリ顔になった。

 アレックス、ジーン、ジョージは、なぜみんなが笑っているのかわからない様子だったので説明すると、彼らもキャハハと大笑い。ラーメンの注文カウンターの前は、なんともなごやかな雰囲気に包まれたのだった。

 さて、しばらくすると、無事にバターとコーン抜きのみそラーメンも、しょうゆラーメン、たこ焼きも出来上がり、アレックス一家はテーブルについた。

 私の息子はしょうゆラーメンを持ってアレックスの横に座り、私はハンバーガー、夫はそば持って彼らの隣のテーブルについた。

 アレックスは箸も上手に使える。

 息子とアレックスは二人仲良く並んでラーメンを食べながら、時々何か話してキャッキャと笑っている。なんとも幸せそうな光景だ。

 と、ジョージもラーメンを食べる手を止めて、何かを見ながら目を細めている。

 何を見ているのかな?

 ジョージの視線をたどっていくと、彼の斜前のテーブルでフルーツパフェを食べている3歳くらいの女の子に行きついた。

 女の子は自分の顔より大きなフルーツパフェを美味しそうに食べていた。

 女の子の前に座っていた彼女のお母さんと思しき女性は、生まれてまだ半年くらいの赤ちゃんを抱いていた。

 女性はホットケーキを食べながら何か女の子に話しかけ、それに応えて女の子もニコニコ話をしていた。

 そんな様子を見ながら、ジョージは目を細めていたのだった。

 「なんて可愛いんだろう」

 ジョージは私に言った。

 「女の子の写真を撮りたいんだけれど、だめかなあ」

 聞いてみようか?

 私がそう言うとジョージは嬉しそうにうなずいた。

 「あっ、でもゆき、僕が聞いてみるよ。これから先も日本の中でいっぱい写真を撮りたいから、その時のためにも、どう日本語で言ったらいいか教えて?」

 そりゃそうだ、写真が趣味のジョージだもの、日本の中にはジョージがシャッターを押したい瞬間がこれから先もたくさんあるはずだ。

 「でも簡単な言い方にしてね、長いと、みそ抜きのみそラーメンが来ちゃうといけないから」

 それを聞いてアレックスは、

 「僕が間違えたんじゃないよ、レジのおねえさんが間違えたんだよ」

 と笑いながら答えていた。

 よし、なるべく短い言葉で、写真を撮らせてください、と言うのはね、

 写真、いいですか?

 これでどうだろう、

 「しゃ、しん、い、い、ですか?」

 そう、写真は「Photo」ね、

 いいですか? は、Can I 〜 かな?

 「OK、わかったよ、しゃ、しん、いい、ですか?」

 そうそう、それでいいよ、

 ジョージはカメラを持って女の子のテーブルに近づいて行った。

(次回に続く)

兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

[PR]注目情報

ここから広告です

広告終わり

ジャンル別の最新情報はこちら
  • 大学
  • 中学・高校
  • 専門学校