2009年2月12日
フルーツパフェを食べていた女の子(前回参照)の手が止まった。
そして、向かい側に座っている女性に、
「ママ……」
と小さな声で言い(やっぱりお母さんだったんだ)、その目は、どうしたらいいの? と訴えているようだった。
それを見たジョージは、すぐに踵(きびす)を返して私のところに戻ってきた。
そして、
「彼女にいきなり聞くのはやっぱりよくないよね、小さい子だからね。まず、親の承諾を得なけりゃ。ゆき、彼女のお母さんに、女の子がとっても可愛いから写真を撮らせてもらってもいいか聞いてくれないかなあ」
と、申し訳なさそうに言った。
OK、OK、そのほうがいいよね、
私は快諾し、女の子のお母さんに聞いてみた。
彼女は、
「はいはい、いいですよ」
と快くジョージの申し入れを受けてくれ、その旨を女の子に伝えてくれた。
女の子もニッコリと微笑んでコックリとうなずいてくれた。
OK、ですって。
ジョージにそう伝えると、彼は嬉しそうに女の子に近づいて行き、言った。
「しゃ、しん、いいですか?」
よーし、うまく言えた。
女の子はそれを聞くと小さくうなずき、フルーツパフェをスプーンですくって、大きな口を開けて止まった。
どうやら、ジョージにこのポーズを撮って欲しいようなのだ。
ジョージもすぐにそれを察し、シャッターを押した。
「ありがとう」
ジョージは女の子とお母さんにお礼を言って、満足げな顔をしてまたテーブルに戻ってきた。良い写真が撮れたよ、ジョージの顔はそう言っているようだった。
食事が終わると、私たちは食品売り場に向かった。
「いらっしゃい、いらっしゃい〜、北海道から今朝入ってきたばかりのシャケだよ〜、安いよ、安いよ〜」
年末の買い出し客でごった返している店内に、店員さんたちの威勢のいい声が響き渡っている。
「すごいわねえ〜」
店の入り口で立ち止まってジーンは目をまん丸くしていた。
彼女たちが住んでいるニューヨーク(NY)のスーパーマーケットで、こんなふうに店員さんたちが威勢のいい声を上げて物を売ったりしているところを私は見たことがない。 この威勢のいい声は、日本で育った私にとっては普通のことに見受けられても、ジーンには初体験のこと。
「日本のスーパーマーケットはいつもこんなににぎわっているの?」
とびっくり顔で聞く彼女の気持ちもよくわかる。
年末の年越しそばや、お正月用のお節料理の買い出しなどで特にこの時期はにぎわっているのだと説明したが、店員さんたちが威勢のいい声を上げて物を売ったりするのは日常的に行われていると説明すると、
「なんだか声につられてたくさん買ってしまいそうね、さあ、私も買うぞー」
と、ジーンはまるで満員電車の中のように混み合っている店内に嬉しそうに突入して行った。
彼女がまず向かったのは飲み物売り場。
ジーンは豆乳が大好きなので、それが欲しいようなのだ。
アレックスとうちの息子はお菓子が欲しいというので、ジーンが豆乳を買ったあとでいい? と相談していると、あら? ジョージがいない。
確かにスーパーマーケットの入口には一緒にいた。
どこではぐれたのだろ。
見ると、ジーンや子どもたちはもうどんどんと先に行ってしまっている。
ジーン!
大声で呼んでも、店員さんたちの威勢のいい声にかき消されてしまう。
このままでは彼らまで見失ってしまいそうだ。
私は人混みをかき分け、必死でジーンたちの後を追った。
(次回に続く)
名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。
主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)、(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」
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