2009年3月12日
「あのさあ、英語で話してるのはなんとなくわかるんだけど、自分が英語で話そうと、すると、ぜーんぜん口から英語が出てこないの…」
彼女は困った顔をして言った(前回参照)。
そうなんだ、私もニューヨーク(NY)に住みだした当初はまったく彼女と同じ感じだった。
ま、たぶん、彼女の方が当時の私より英語の聞き取りができていると思うのだが、私もなかなか口から英語が出てこなかった。
ペラペラーっとカッコよく話そうと思っているわけではないのだが、頭の中は回転が止まったメリーゴーランドのようになってしまい、どうにもこうにも口が動かない。
「考えすぎるとよけいに英語が出てこなくなっちゃうから、ま、自然体でってことで。とりあえず自分の名前だけ言うってのでいいんじゃないの?」
横からうちの息子が小さな声で彼女に言う。
「わかった、私の名前は○○です、よろしく」
おー、全部日本語だー。
でも、いい、無理することはない。
今はみんなが注目しているし、学校で英語をやっているからといって、そうそうみんな英語が話せるわけではない。
現にこの私なんて、中学校や高校の頃、学校で英語の授業を週5時間くらいやっていたのにまったく英語なんて話せなかったし、聞き取れもしなかった。
でも、彼女は英語で話していることがなんとなくわかるというではないか。
それだけでもたいしたもんだ。
さて続いては、ここの家の近所に住んでいる兄弟の番。お兄ちゃんはうちの息子と同じ歳、弟君はその2つ下。
こちらも日本語での自己紹介だが、いい、それでいい。
ちゃんとアレックス、ジーン、ジョージにニッコリ微笑んで、はっきりした口調で自己紹介ができたのだからそれでいい、たいしたもんだ。
と感心していると、子どもたちは子どもたち同士で、何やら話しながらさっさと料理を食べ始めた。
“What do you wont?”
あれ? 今、英語で言った?
さっき、自己紹介で英語が口から出てこない、と困っていた彼女が、アレックスに料理を取ってあげようとお皿を手にして、なんと英語で話しているではないか。
しかしここで、あら、ちゃんと英語で話してる、と言ってしまうと、変に意識してしまうかもしれない。
大人たちは見て見ぬ振りをして、こっちはこっちで料理を食べ始めた。
とうは、英語と日本語がごちゃまぜになりながら、でも一生懸命話すので、ジーン、ジョージと会話が弾む。
そんなとうを見ながら、ほんとに彼はいい人だなと、あらためて思った。
食事がすむと、子どもたちはみんなで子ども部屋に入って行った。
しばらくすると中から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「何やってるの? 入っていい?」
と、子ども部屋をノックすると、
“Yes, come in !“
と、これまた英語で返事が返ってきた。
男の子の声だが、うちの息子の声ではない。
あれ、お兄ちゃんの声かな?
ドアを開けて中をのぞくと、やっぱりそうだ、お兄ちゃんが嬉しそうにこっちを見ていた。
子どもたちは全員ベッドの上に乗ってUNOをやっていた。
ときどき英語と日本語がごちゃまぜになりながら、こちらもなんだかんだと話が弾んでいる。
なんだか大人たちも子どもたちも、日本人だとかアメリカ人だとか、もうそんなことはどうでもいい感じでわいわいやっている。
そうやってさんざん遊んで、帰りに全員で記念写真を撮った。
お兄ちゃんは家に帰ってお母さんに、
「初めてアメリカ人の友だちができた」
と嬉しそうに報告したそうだ。(お母さんから電話をもらったのでね)
その話を息子にすると、
「それが僕は一番うれしいよ」
と感慨深げに言っていたのであった。
(次回に続く)
名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。
主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)、(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」
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