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多彩なOB招き職業観 生徒の「自立」「自律」促す

甲南高等学校・中学校

2009年6月18日

写真創立者の平生釟三郎氏像の前で

写真橋本昌洋・入試広報部長(左)と中原敦・教育研究部長

写真OBワークショップの授業風景。後輩を前に熱の入った話が続く

写真教師と生徒がともに考えぶつけ合うE−Study

 今年創立90周年を迎えた甲南高等学校・中学校。富裕層が多く住む兵庫県芦屋市の山手に位置し、歴史の長さを物語る落ち着いた雰囲気だ。正門を入ってすぐ正面には甲南学園の創立者であり、実業家として有名なだけではなく文部大臣を務めるなど教育にも心血を注いだ、平生釟三郎氏の胸像が配置されている。

 歴史を重ねる中で、多方面で活躍する数々のOBを輩出したこの男子校は、そのOBに協力を求めた、同校ならではの授業を実践している。今回の「イチ押し」の取り組みは、中学3年生を対象とした「キャリアリサーチ」と、高校2年生を対象にした「E−Study」。その授業推進の中心的役割を担う、中原敦・教育研究部長(英語科教諭)と、橋本昌洋・入試広報部長(同)に話を聞いた。

 ――まずは「キャリアリサーチ」という授業は、どんな内容なのか、説明してください。

 「わが校は大学までつながるいわゆる一貫校です。勉強を続けるうえで将来を具体的に考えられた方が、生徒らの学びも深くなり、大学へ進む際の学部選びにも役に立つと考え、生徒らが就いてみたい仕事を探す授業を考えました。科目としては『情報活用』といい、専任の教師を1人置き、非常勤と合わせて3人で週1コマの授業を進めています」

 「この授業のメーンはなんといっても6月と11月の土曜日におのおの1回ずつ実施される『OBワークショップ』です。わが校は長い歴史のなかで、さまざまな分野で活躍しているOBがいます。そのOBに自分の仕事の内容について、母校で直接、後輩たちに語りかけてもらいます」

 ――どんな分野のOBらが講師として招かれるのですか。

 「本当にさまざまです。2006年度から始め、毎回10人から13人の講師に来てもらいます。昨年度でいいますと、弁護士や医者、小学校教師など。さらにホテルマンや銀行員、広告会社、外資系に勤務しているOBも招きました。30歳代から50歳代が中心です。みんな母校の後輩に熱心に語りかけてくれます」

 「80分の特別授業ですが、進行は生徒らが行い、教師は後ろで聞いています。OBから仕事の生の話を聞き、質疑応答を続けながら、そのOBの中学生時代の話も飛び出し、生徒らも興味深く聞いています」

 「180人の生徒らは、話を聞きたい先輩の仕事について第3希望まで出し、十数人のグループに分け、各教室で耳を傾けます」

 ――歴史の古い学校ならではのありがたいOBたちですね。

 「そうですね。やはり、母校に招かれるわけですから、彼らの思いも格別なようです。中には毎回来てくれるOBもいます。また、我々が探している別の職業のOBに連絡を取ってくれる者もいます。母校のために仕事が忙しいにもかかわらず、いろいろ協力してくれてありがたいと思っています」

 ――先生方にとっても立派になった教え子に会えるは、楽しみなのではありませんか。

 「感慨深いものがあります。中学生時代、部活動ばかりしていた生徒だったOBが、胸を張って後輩に自分の仕事のことを語る姿は、『しっかりして立派になったな』と実感します。成長の跡がうかがえ、まぶしいほどです。中学3年生らにも自分もあんな先輩になりたい、という具体的なモデルになっているようです」

 ――この「OBワークショップ」に向けてどんな準備をするのですか。

 「まず職業適性検査を受けてもらい、生徒自身の職業適性を把握させます。ワークショップで話を聞く先輩の職業について調べ、質問する内容を自分で具体的に考え、仕事に対する生徒の意識を深めていくように指導しています」

 ――この授業も4年目を迎えていますが、課題はありますか。

 「ワークショップの際、事前に用意していた質問はできるのですが、生の話を聞いた後、その事前質問以外の質問がなかなかできず、話を膨らませていけないのが残念です。このあたりを今後、うまく指導し、自由闊達(かったつ)に質疑ができるようにしていきたいですね」

 ――高校2年生向けの「E−Study」もおもしろそうな授業ですね。

 「生徒自らがテーマを見つけ、そのテーマについて1年かけて調べ、まとめていきます。テーマは何でもOKです。教師も毎年どんなテーマが飛び出すか予想がつきません。大変ですが、我々もたいへん勉強になります」

 「『E』は『Experience(体験)』『Exchange(交流)』『Expression(表現)』『Exploration(探求)』を意味しています。教科書はなく、生徒が自らの興味・関心を深め、教師とともに学びます。最終的にはA4サイズの紙1枚に横書きで1行40字、30行を設定し10枚以上のリポート(論文)と、その内容を紹介したパワーポイントを使った5分程度のプレゼンテーションをしてもらいます。優秀者3人には講堂で、後輩や関係者を前に発表もしてもらいます」

 ――なかなかハードな内容ですね。

 「教師も自分の担当科目を超えて3人組になり、週2コマの授業を進めていきます。リポートをまとめたり、プレゼンしたりする能力は大学ではもちろん、社会を生き抜いていくうえでも必要な力だと思います。1年間かけてじっくりその力を育てていきます。テーマ設定の仕方や、書籍や新聞、インターネットを利用しての情報収集の仕方、リポートの書き方はおろか、ワードやパワーポイントの使い方まで懇切丁寧に指導します」

 ――いま大学でも、この能力が育っていなくて困っています。ある大学教授が嘆いていましたが、4年生になって「卒業論文の書き方が分からない」と訴えてくる学生がいるそうです。

 「その話は我々も聞いています。この授業を始める時に、協力を得ようと甲南大学の先生に説明に行きましたが、非常に評価してもらいました」

 ――テーマは本当に何でもいいのですか。

 「公序良俗に反しなければ、何でもOKです。中学3年生の時にやったキャリアリサーチの仕事についてテーマを定め、さらに深めていく生徒も多いですね。昨年度の例をみると、地球温暖化や世界平和、ワーキングプアから、音楽業界の著作権、アウトレットまで。男はなぜはげるのか、というテーマを掲げた生徒もいました」

 ――なるほど多彩ですね。指導のポイントは何ですか。

 「リポートを書いていくには、地球温暖化といった大き過ぎるテーマのままでは漠然としたまとまりのないものになってしまうので、細分化し具体的なテーマに絞っていくように指導しています。具体化していくほど調べることがはっきりし、書くイメージがわいてきます」

 「昨年度の優秀者のなかで、自分でジーンズのブランドを創設し、そのブランド戦略から具体的なビジネスプランを考え、発表会で絶賛された生徒もいました」

 「教師は科目の違う3人組で1年間指導していきます。教師同士がお互いの教え方を自然と披露する形になりますので、我々にとってもお互いのいい刺激にもなっています」

 ――こうした作業のなかでフィールドワークも重視されていますね。

 「やはり、書物を調べるだけではなく、新聞記者が行う取材活動のような外へ出て話を聞くことは生きた知識を身につけていくうえで重要です。自動車のリポートを書くために、栃木県まで行った生徒もいます」

 ――生徒だけで“取材”にいくのですか。

 「もちろんです。取材の約束を取り付ける際も生徒自らが電話をするなどして行います。もし、相手の予定が平日しか取れない場合は1回に限り『公欠』を認めています」

 「教師の間で、やりすぎではないかとか、取材の行き帰りに事故があったらどうするのか、などいろいろ心配事が出てきて議論になりました。結局、生徒の自主性を信じようということになりました。2003年度から始めて以来、目立ったトラブルはありません」

 ――公欠を認めたり、生徒だけで行かせたり、かなり思い切ったやり方ですね。

 「高校生ですから、大人になっていくうえで必要なことだと思います。マナー面で取材先からお叱りがくるのではないか、などという懸念もありましたが、意外に生徒はちゃんとしているようで、実際そんなことはありません」

甲南高等学校・中学校(兵庫県芦屋市山手町31−3)
ホームページ http://www.konan.ed.jp/

取材してみて一言

上島誠司

芯の通ったキャリア教育で新たな「甲南らしさ」を
 甲南高校・中学校といえば、関西出身の私のイメージは「おぼっちゃん学校」。でも、今回の取材を通して、そのイメージが少し変わった。生徒を自立させようという先生方の努力の一端が見えたような気がした。「E−sutudy」での取材に「公欠」を認めるというのも私学だからできることかもしれないが、生徒の「自立」「自律」を促すには必要な措置だろう。

 もっとも、中原先生によると、最近の生徒はやっぱり昔に比べると幼くなっているそうだ。「中学生はまだ本当に子どもですね。昔なら部活動も生徒たち自身で運営していましたが、いまはトラブルが起きた時などになかなか自分たちだけで解決できるケースが少ないようです」。こうした傾向は全国的な話で、学校を取材するたびに同様の話を聞く。親離れができていない、というよりも、むしろ、少子化の影響なのか親のほうが子離れできていない例が多いようだ。

 「キャリアリサーチ」のように、大学でも職業を意識させるキャリアプランと称される教育を1年生、2年生の早い段階で実施している例が多い。なりたい職業を具体化することで勉学に取り組む意欲を促進する狙いだ。甲南高校の生徒の大半が甲南大学に進学する。もちろん甲南大学でもキャリア教育を実施している。中学で実施されている「キャリアリサーチ」から「E−study」を経て、大学のキャリア教育へとうまく連動させれば、生徒・学生の学びが深くなるうえ、多彩なOBの力をさらに借りれば、芯の通ったキャリア教育が完成するのではないか。その流れが甲南学園で学ぶ学生の中心的な存在を養成し、新たな「甲南らしさ」を創造していくきっかけになるように思う。

 「付属校から上がってきた学生は、外部受験で入学してきた学生より学力がいま一つだ」という指摘は、付属を抱える大学教員からよく聞く。しかし、このような甲南高校・中学校で実施している授業を大学教育とうまく連動させることこそが、単なる受験勉強では学べない「生きた学力」の育成につながると感じた。(アサヒ・コム教育チーム 上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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