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適性探りながら学びのスキル 専修選択の「羅針盤」3科目

関西大学文学部

2009年7月2日

写真授業で議論する学生たち写真森部准教授写真村上准教授写真山本学部長写真「知のナヴィゲーター」(くろしお出版)と冊子「学びの扉」

 関西大学文学部では、2004年度から始まった学部改革のなかで、初年次教育に加え、専門への導入教育、入学する前の教育=プレ・ステューデント・プログラム(PSP)を大胆に採り入れ、学生の学びへの満足度を向上させている。

 高校までの学びと、専門の学問を学ぶ大学との違いに戸惑い、大学生活になじめず、不満を感じている学生が増えている。そんな学生への対応策として注目されている「初年次教育」。リポートの書き方に始まり、図書館の使い方、授業中のノートの取り方、ディベートの仕方にいたるまで、大学で学ぶうえでのスタディースキル、学習技術を教える教育だ。文部科学省の調査によると、大半の大学で何らかの形で導入している。関大文学部では、初年次教育や専門への導入教育などを通じて、学問を学ぶ姿勢を学生に植え付けている。

 「より深く、より広く」を合言葉に、来年度からさらに新カリキュラムを導入するという同学部。その先頭に立つ、山本幾生学部長と、実務を担う教学主任の森部豊准教授、村上康子准教授に話を聞いた。

 ――かなり思い切った改革をされたようですね。

 「2003年度まで1学部8学科で、入試を受ける際に学科まで選んでもらうやり方でした。しかし、高校生の段階で学科まで選ぶのは情報も十分ではなく、なかなか難しいものがありました。入学してから、別の学科に替わりたいという相談も目立ってきていたうえ、選んだ学科がなじめず大学を辞めてしまう例もありました」

 「そこで、2004年度から改革を断行し、8学科を総合人文学科として1学科に集約し、専修を『英米文化』『哲学倫理』『世界史』などの19に細分化しました。そのうえで、文学部一括入学にし、学生が大学に入ってから授業を通して十分な情報を得ながら、1年かけて自分の学びたい専修を選んでもらう仕組みに変えました」

 ――学生が自分で学びたい専修を選ぶことができるように十分な情報を提供し、さらに大学で自ら学ぶ姿勢をつくるために、初年次教育などを1年生で積極的に採り入れておられると思います。具体的にはどんな科目があるのですか。

 「初年次教育にあたるスタディースキルを学ぶ『知のナヴィゲーター』。専門への導入教育にあたる『知へのパスポート』『学びの扉』の3科目あります。学生はそれぞれを『チナビ』『チパス』『まなとび』と呼んでいるようです。選択科目なのですが、文学部は900人定員のうち、7、800人の学生から履修希望が出ています。少人数で教育しないと効果が上がりませんので、今年度は『チナビ』で1クラス25人、16クラスしか開講できていません。教室や教員の確保などに制約がありなかなか難しいのですが、来年度以降少しでも学生の希望にそえるように工夫していきたいと考えています」

 「『チナビ』はリポートの書き方やプレゼンテーションの仕方など、どの専修に進んでもというか、大学で学ぶために必要な技術、基礎能力を養います。2007年度には、それまで3年間の実践を基に、若手の先生方が中心になり、『知のナヴィゲーター』というテキストを出版しました。ワークシートがついているので、すぐ授業に使えるということで、他の大学にも広がっているようです」

 「『チパス』と『まなとび』は、学生が専修を選ぶための羅針盤のような科目です。『チパス』は各専修の研究テーマやアプローチの方法を学べるように、ゼミナール形式で実施しています。一方、『まなとび』は、それぞれの専修で何を学ぶことができるのかを知ってもらうための講義形式の授業です」

 ――初年次教育は1970年代に米国で始まったといわれていますが、その米国でも問題になっているのが、だれが教えるのか、という点だと思います。大学教員は例えば、哲学なら哲学の理論などを教えることはやってきたが、リポートの書き方など技術だけを取り出して教えるということについてはやったことがなく、抵抗感があるのではありませんか。

 「確かに、初年次教育の実践の専門家というのはまだいないかもしれません。スキルは高校まで学んでおくべきものだ、という考えもあり、積極的でない教員がいることも事実かもしれません」

 「私は、今年から学部長になったので、できなくなりましたが、始まった2004年度から昨年度まで受け持っていました。スタディースキルを改めて学生と学びあってみると新鮮で、私自身も気づかなかった点に目がいくようになり、勉強になりました。こうした声は私だけではありません。」

 「『チナビ』の授業はテキストを作ったからといって、そのテキスト通りやれ、という風にはしていません。それぞれの教員が力点を置くところは自由に考えてもらい、それに応じてテキストを使ってもらっています。教員の独自性は大切にしたいと思っています。ただ、あまりばらつきがあると学生が戸惑うので、いまは森部先生を中心に年3回程度、担当者会議を開き、お互いの実践例を紹介しあう形で調整しています」

 (森部)「関大に移ってきた当初、4年生の卒業論文指導などを受け持っていたのですが、十分に書けていないな、と感じていました。それで、『チナビ』の授業に参加しました。いま私はディベートができることを目標に置いて指導しています。そうすれば、論理的に議論しなければいけないので、それを裏付ける資料を集めないといけないし、まとめるために文章を書かないといけない、人前で発表するのでプレゼンテーションについて考えなくてはならない、など専門を学ぶためのすべての要素が入ってきます」

 ――PSPはどうなっていますか。

 「一般入試は2、3月ですが、さまざまな入試形態をとっていますので、推薦入試などで早い学生は11月に入学が決まります。4月まで時間がありますので、大学生活へスムーズに移行してもらえるようにPSPにも力を注いでいます。eラーニングを活用した文学部共通の課題のほか、専修ごとの課題もあります。12月から月に1回、スクーリングも実施しています。スクーリングでは専修ごとに工夫を凝らしたプログラムを組んで、大学での学びのイメージを具体化してもらおうと思っています」

 「入学が決まるとほっとすると同時に、不安も大きくなるようです。友だちができるか心配している学生が意外に目立ちます。スクーリングで、大阪府吹田市のキャンパスに集まってもらうことを通じて、友人ができて良かった、という声もありますね」

 ――来年度にはさらにカリキュラムを新しくするそうですね。

 「1年次のカリキュラムは軌道に乗ってきたと思うので、2年次から専門へさらに学びを深めていけるように、2年生から専修ゼミと専修研究という必修科目を設けます。さらに選択科目として、専修関連科目と総合人文学科目を開講します」

 「2年生からいよいよ専修を選択してもらいます。その専修教育の中心となるのが専修ゼミ。少人数によるゼミ形式の演習科目です。また、専修研究では専門の高い講義・研究を進めます。さらに、専修関連科目には、自分の専修を超えて履修できる、19それぞれの専修の特色を出した独自科目が並びます。総合人文学科目では、さらに幅広い学びを実現するために学際的な知識の習得を目指します」

 「『既存の枠を超えて、より深く、より広く、人間を、文化を豊かに学ぶ』をうたい文句に、専修ゼミから総合人文学科目を重ねていくにつれて、人の輪が広がる仕組みにします。私は学生に対して、大いに研究してください、と折に触れて呼びかけています。その研究、『研ぎ究める』仕組みをより充実させた形が今回の新しいカリキュラムだと思っています」

 ――「研究してください」というのは、大学生に呼びかけるにふさわしい言葉かもしれませんね。

 「異なる世代を通じて共通の話題になるのが教養だと思います。それはまた異世代のコミュニケーションを円滑にする最もベーシックなものだとも思っています。総合人文学の多彩な分野は、私たちの人生の多様さそのものを反映しています。学生には、文学部でぜひその多彩な分野を研究し、豊かな教養を身につけてほしいと願っています」

関西大学文学部(大阪府吹田市山手町3丁目3−35、千里山キャンパス)
ホームページ http://www.kansai-u.ac.jp/Fc_let/

取材してみて一言

上島誠司

幅広い学びから深い教養 異世代ともコミュニケーションを
 様々な大学を回るようになって、取材の前後でよくやるようになったのが、学生同士の何げない会話を“盗み聞き”することだ。ある時は学生食堂で、ある時は談話室で、さらにある時は、芝生のうえで。こっそり耳をそばだてている。

 そんなことをしていて気になるのは、ボキャブラリー(語彙)の乏しさと、知的な会話の少なさだ。「うざい」などの俗に言う若者言葉は頻繁に出てくるのだが、大学生らしい知識に裏打ちされた言葉が極端に少ない。話題も身の回りの限られた仲間内の話が多いように思う。

 私自身は30年前の大学生だ。授業にもあまり出席しなかった不良学生なので、あまりえらそうなことはいえないが、友だちと談話室などにたむろし「おまえの話には哲学がない」とか「おまえのレゾンデートルとは」などと延々と放談し合う。友が知らない言葉を発すればとこっそりと調べ、自分が読んでいない本の話をすれば、慌てて本屋に走る。こんな議論をよくやり、お互いを知らず知らずのうちに刺激しあい、気づくと夜が更けていた、という経験をしたものだった。

 今回の取材で、山本学部長が指摘された「教養」の話は胸にすとんと落ちた。我々は授業には出なかったが、大学のキャンパス自体に教養を育む雰囲気があり、自然と学ぶ姿勢を培い、読書をしたり、たまに授業に出席し、教授を論破してやろうと意気込んだりしたものだった。

 最近の学生は、大学側の厳しい指導などもあり、授業の出席率は高い。関大文学部のカリキュラム改革もこうした出席率の高さを生かし、学生の教養を高め、ひいては自立した大人に育てたい、という教員らの思いがこもっているように思う。山本学部長は「学生の自主性に任せることも大切かもしれないが、授業を通じてやるほうが効率的だ」と指摘する。

 さらに、山本学部長はインタビューのなかで「教養を身につけるには幅広く学ぶ必要がある。そんな広さを確保したい」と述べる一方で、「学生には異なる世代とコミュニケーションが取れるように、30歳代、40歳代、50歳代、60歳代それぞれの教員から積極的に学んでほしい」とも語っていた。同世代とばかり群れている今の若者は、肝に銘じてほしい言葉だ。(アサヒ・コム教育チーム 上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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