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自主性育む「マイラボ」、多彩な刺激で先端科学担う人材

甲南大学フロンティアサイエンス学部

2009年7月16日

写真マイラボで自習する学生ら写真甲南大学ポートアイランドキャンパス写真キャンパス棟を貫くDNA模型写真杉本直己学部長

 文学部や法学部など文系学部の充実で知られる神戸の甲南大学が4月、理系の新学部を開設した。フロンティアサイエンス学部(FIRST)。40人の新入生が、神戸市が進める医療産業都市構想の拠点であるポートアイランドに完成した新キャンパスで勉学に励んでいる。

 バイオテクノロジーとナノテクノロジーを融合した「ナノバイオ」という先端科学を学び、一流の研究者、開発者を育成しようという壮大な狙いを持つ。そうした新学部の先頭に立つ、杉本直己学部長に話を聞いた。

 ――1期生40人が入学しました。様子はいかがですか。

 「予想以上に積極的な学生が集まりました。いまは主体性のない、指示待ちの若者が多いといわれますが、良い意味で“やんちゃな”学生が多いですね」

 「欧米流に大学に入っても勉強してもらう。だから、うちは宿題、課題が多いと思います。でも、学生らはよく勉強しています。期待していた以上です」

 ――滑り出しは順調のようですね。そもそも「フロンティアサイエンス」とは何ですか。

 「日本語に訳せば、先進科学という意味です。物理学や化学、生物学などの基盤分野を基に、その応用を目指す次世代の科学とでも表現しましょうか。たとえば、DNAと聞けば生物学の用語だというイメージが強いでしょう。しかし、ある病気を発現する情報をもったDNAを、病気を発現しないように薬で解決しようと考えれば、薬学のアプローチになります。また、コンピューターはいま固体ですが、液体コンピューターは作れないかなどと考え、研究することも面白いですね。実際のところこのテーマの実現性はかなり高くなってきています」

 「FIRSTには生命化学科しかありません。基盤分野の物理学や科学、生物学の良いところも悪いところも両方を学び、融合させ、生命というキーワードで『ナノバイオ』を研究します。『生命を科学する』『生命で科学する』の両方をたえず考えて勉強してもらいます」

 ――どんな学生を育てたいですか。

 「自分で問題を探せる人材です。日本の学生は受験勉強の影響でしょうか、与えられた問題を解く能力は最たるものだと思います。しかし、自分で問題を選ぶのはどうでしょう。いま学生に、できるだけ視野を広げて色々な分野に関心を持ち考えて欲しい、4年間でテーマを絞らず、いろいろなことを考え、深く幅広いバックボーンを築こうと呼びかけています。だから、学部生と接する機会の多い准教授や大学院生に、学生の発表に対しても、こういう見方や考え方があるというような別の角度やアプローチも併せて指導するようにいっています」

 「例えば、いま就職難といわれていますね。それなら、就職をやめて、会社を起こしてもいいですよね。そういうテーマが見つかれば、4年間でそのテーマに関してあらゆる面から準備すればいい。もっといえば、会社を起こすというテーマ自体も変えていい。自分の人生をいかに生きるかという面から、いろんな問題を探せるようになって欲しい」

 「君たちのスタートは決めてあげるが、それがマラソンのスタートなのか、100メートル競走のスタートなのかは自分で決めてください、ゴールは自分で決めろ、というのが、FIRSTの立脚点です」

 ――それを実現するために具体的にはどんな教育をするのですか。

 「特長が4つあります。まずご紹介したいのが、マイラボです。学生一人ひとりに入学時から、学習・研究ができるスペースを確保しています。大学構内に自分の居場所があります。大学といえば、講義ごとに教室を移動するのが普通です。自分の居場所はサークルに入るなどして見つけるものでした。マイラボでは、専用机があり、インターネット環境が整っているので、パソコンで予・復習やリポート作成の検索もできます。私物を収納できる専用ロッカーもあります。マイラボはまさに学生のスタートを具現化したものです」

 「新キャンパスの7階建ての建物の3階から6階にマイラボがあります。いま10人ずつグループになり、各階に1期生がいます。このグループはアトランダムに組み合わせ、半年ごとに組み替えます。いろいろな仲間と刺激し合って勉強して欲しいと思っています。マイラボがある階には、実験室やゼミ室が併設されており、ガラス張りなので、気軽に教員や大院生と接することができます。分からないことや疑問点もすぐ聞くことができます。加えて、教員は15人ですから、教員1人が2、3人の学生を担当する少人数の教育態勢になっていることも学生の質問がしやすい環境を助けています。課題が多いので、学生は毎日、マイラボで自習しています。パソコンで検索したり、図書館で調べたり、大学院生や教員によく質問したりしています」

 ――恵まれていますね。2点目は何ですか。

 「フロントランナー講座です。甲南大学は幅広い分野で活躍するOBがたくさんいらっしゃいます。この一線で活躍する先輩、たとえばミズノの水野正人会長やUCCの上島達司会長らに授業を行っていただきます。ビジネスの生の声、経験を聞き、学生が刺激され『なりたい自分』を明確にしていってほしいと思っています」

 「すべての講師の方に、私が直接お目にかかり、理系の学生だから関連した話などと考えてもらう必要はありません、と念押ししました。また、みなさんは甲南の語り部になって欲しいともお願いしました。いまの学生は世代の違う人と話す機会が本当に少ないですね。本物から違う分野の話、ビジネスの生の体験談を聞くことが、学生にとって大きな刺激になります。OBの皆さんには、夜、布団に入っても恥ずかしくて眠れなかった体験、失敗談もぜひ話して欲しい、そのくらい自分をさらけ出して講義を、ともお願いしました」

 ――私も聞いてみたい興味深い講義ですね。3点目はなんでしょうか。

 「サイエンスライブチケットです。学生自らが学会に参加できる制度です。一線の研究者の発表を生で聞かせたい。まだ1年生だから分からなくてもいいのです。分からないけれど、一流の研究者が熱く語る研究成果の発表を体感させたいのです。この刺激も学生自らが学ぶ姿勢に大きな良い影響を与えると思っています」

 ――なるほど。でも学会に学生を参加させるのは難しそうですね。

 「そうかもしれません。私自身のハードルも高く上げすぎたかな、といま必死に交渉しています。先日、学部開設記念シンポと銘打って、一線の研究者に発表してもらいました。質疑応答も行いましたが、最初、そうでもなかったのですが、一人が質問をすると相次いで質問が出て盛り上がりました。私が進行役をしていたのですが、講師の帰る時間もあり、はらはらしました。終わってから、もっと早く盛り上がってくれよ、と学生にいいましたが、とてもいい刺激になったようです」

 「次は、DNA研究の権威であるケンブリッジ大学の研究者に来てもらいます。名前を言っても最初は知らなかった学生も、インターネットで調べて、すごい人が来ると分かったようで、楽しみにしています」

 ――これでもか、これでもか、という感じで学生に刺激を与えていますね。4点目は何でしょう。

 「アイランドシップ教育連携です。新キャンパスがあるポートアイランドは、神戸市の医療産業都市構想の中心地です。周辺には様々な研究所や、100社を超える企業が集まっています。こうした企業や研究機関と連携を図り、社会に生かすことのできる実践的な学びを学生に体験させる計画です」

「研究室から居間へ、実験台から食卓へ―。学生には、暮らしの中にこそナノバイオのニーズがある、といっていますが、この教育連携を通じて、そのことを学生に実感してもらいたいと考えています」

 ――最後になりますが、FIRSTをどんな学部にしたいですか。

 「誤解を恐れず言うと、旧制中学・高校のような学部にしたいですね。4年間を通して、教員や大学院生、学生がものすごく仲の良い関係をつくりたい。いまはサークル活動、クラブ活動では実現されているようですが、学問を通じて、そうした関係を築きたい」

 「FIRSTで『知の系譜』を創造したい。学部生時代に前後10年間の人は知っているというような知で結ばれた濃密なきずなをつくりたいですね」

甲南大学フロンティアサイエンス学部(神戸市中央区港島南町7丁目1−20、ポートアイランドキャンパス)
ホームページ http://www.konan-first.jp/

取材してみて一言

上島誠司

学生の育成「熱く」「おせっかい」意外に重要
 杉本直己学部長は一言でいうと、とてもエネルギッシュで熱い人だ。インタビューした時には、2メートルほど離れていたと思うが、身ぶり手ぶりはもちろん声も大きく、目の前に迫ってくるような迫力があった。

 こんなことがあったという。学生から質問されたことが気になり一晩考え抜き、いい答えを思いついたので、朝一番に大学へ。その質問をした学生を待ち、登校して来たところをつかまえ、答えを一気に披露したそうだ。「でも、大学院生らからは、今の学生には暑苦しいと嫌われますよ、と注意されました」と、頭をかいた。

 学校関係者に取材をしていて、最近の学生は素直で淡泊だとよく聞く。そんな現状から、大学院生も杉本学部長にこうしたアドバイスをしたのだろう。しかし、私の考えは違う。私も最近、学校で講演をしたり、授業を頼まれたりする機会が増えている。そうしたなかで感じるのが、案外いまの学生はこんな「熱い」「おせっかいな」大人と接することを願っているように見える。学生のために本気で迫ってきてくれる大人を待っているのだ。最初は戸惑うかもしれないが、しっかりつかまえて接すると学生は変わる。こう実感する熱血教員の声があることも事実だ。

 授業を終え、マイラボで自習していた学生に話を聞いてみた。

 「課題が多く大変だが、楽しい」「同級生の名前もすぐ覚えた」「先生にすぐ質問できるのが良い」「院生や先生が気軽に声をかけてくれて助かる」

 文学部や法学部などがある神戸市東灘区内のキャンパスから離れており、先輩もまだいない関係から、1期生40人の結束は固いようだが、教員らとの距離の近さに満足している学生も多い。

 杉本学部長は「私は教員や大学院生のなかで『one of them』でありたい。学部生に選択権を与えたい」と言う。いろんな人の話を聞くことは大切なので、その考え自体には共感する。しかし、新しい学部のリーダーとして熱く、時にはおせっかいなぐらいに一人ひとりの学生に語り続けることも、同じぐらい大切なことだと感じる。杉本学部長が目指す「知の系譜」を創造するには、学部長の個性そのもの、その熱さそのものが欠かせないのではないか。(アサヒ・コム教育チーム 上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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