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いじめられている君へ

人生は学校の外にも

アルピニスト・野口健さん

野口健さん
 いじめはいつの時代にもあります。けっしてなくならないでしょう。なぜいじめられるのかを考えても、なっとくできる理由が見つからない。いじめとは、そういうものだと思います。

 私は小学校低学年のころ、いじめられました。母親が外国人なので、見た目がほかの子と違う。きっかけは、それだけでした。苦しい、つらい気持ちは、ずっと続きました。このままではだめだ。人生を変えたい。そう思っていました。

 私が変わったのは、山に出会ってからです。登山家の本を読んであこがれ、あぶないからと反対する父親を説得(せっとく)して、高校生から始めました。

 山は本当に危険です。19歳のとき、先輩(せんぱい)が300メートル落下し、亡くなりました。これまでに19人の仲間を失っています。私もヒマラヤで雪崩(なだれ)にあうなどしました。死をとてもみぢかに感じました。でも死に近づけば近づくほど、生きたいと思う自分に気づいた。生き物はみんな、生きることにせいいっぱいです。山に登ると、人間も同じだとわかって、それまでのなやみが、とても小さなことのように思えました。

 私はみなさんにも山に登れと言っているのではありません。人生は学校の中だけではないということをわかってほしかったのです。私にとって山がそうであったように、みなさんにも自分を変えるきっかけになるものが必ずあります。

 まず、なやみをだれかに話してみることです。友だちでも大人でも。けっして一人でなやむだけでは解決しません。いじめのように人間は人間を傷つけることがあります。でも人間を助けてくれるのもまた、人間しかいない。それも登山で学んだ大切なことです。

(朝日新聞2006年12月3日掲載)

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