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2013年度中学入試特集
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つくられたばかりの米国の飛行機で今年、飛行中に火が出るトラブルが起きました。火が出たバッテリーに使われていたのは「リチウムイオン電池(でんち)」。同じタイプの電池は携帯(けいたい)電話やノートパソコンなど、身近な機械にも多く使われています。一体、どんな電池なのでしょうか。
■小さく長持ち 宇宙でも活躍
まず、電池の基本的(きほんてき)なしくみをみてみよう。
電池には正(せい、プラス)極(きょく)と負(ふ、マイナス)極があり、それぞれが金属(きんぞく)などでできている。二つの極を、電気を通しやすくした液体(電解液〈でんかいえき〉)に浸(ひた)すと、マイナス側からイオンと呼ばれる粒子(りゅうし)がとけ出して、電子というマイナス電気のもとが金属に残る。この電子が導線(どうせん)を通ってプラス側に移り、電流が生じる。
電気を使っていると、マイナス側はとけていって最後は電気の材料がなくなってしまう。電池が切れる、というのはこの状態(じょうたい)のことだ。
そこで、外から電気を流すことでさっきの逆(ぎゃく)の流れをつくり出し、イオンをマイナス側に戻(もど)せば元の状態になってまた電気を生み出せるようになる。それを実現(じつげん)したのが、くり返し使える充電池(じゅうでんち)だ。電池の材料によって反応(はんのう)の仕方は変わるが、基本的には同じしくみだ。
リチウムイオン電池は充電池の一つで、1985年、化学(かがく)メーカー・旭化成(あさひかせい)の研究者だった吉野彰(よしのあきら)さんが開発した。充電池の性能(せいのう)をよくするために、いろいろな材料をためした結果、プラス側(がわ)の材料にコバルト酸(さん)リチウムを、マイナス側には炭素(たんそ)を使えばいいことを見つけた。
それまでの充電池よりも2〜3倍の電力が得られ、長持ちもし、小さくすることもできた。くり返し充電しても電力が落ちにくい特徴(とくちょう)も、使える回数を増やす効果(こうか)を生んだ。
91年にはソニーが、初めてリチウムイオン電池を携帯電話に使った。デジタルカメラやスマートフォンなど、多くの電力が必要な製品が生まれるたびに、リチウムイオン電池の使い道は広がっていった。
今では、リチウムイオン電池の活躍(かつやく)の場は地球上だけではない。人工衛星(じんこうえいせい)はおもに太陽の光で電気をつくって動かしているが、地球の陰(かげ)に隠(かく)れて発電できない時がある。そこで、電気をためておくためにリチウムイオン電池を積(つ)むようになった。
■回収騒ぎ 安全が課題
ただ、問題も残っている。
1月、新型飛行機・ボーイング787のバッテリーから火が出る事故が日本や米国で続き、787は対策を取るまで運航が禁(きん)じられた。使われていたのは日本製リチウムイオン電池だ。
事故の原因が電池そのものか、電池につけられた装置(そうち)だったか、まだわかっていない。
2006年には、米国製のノートパソコンで、ソニー製のリチウムイオン電池が急に熱くなったり、火が出たりするおそれがあるとして、世界中で回収(かいしゅう)騒(さわ)ぎになった。原因は、電池の中に入り込んでしまったごく小さなホコリのせいで、予想しない電気の流れ道ができて、急に大量(たいりょう)の電気が流れたことだった。
リチウムイオン電池は、電気を通さない「絶縁(ぜつえん)シート」をはさんでプラス極とマイナス極を何層(そう)も重ねてあり、作りが繊細(せんさい)だ。電解液には灯油(とうゆ)に似た材料も使っている。ちょっとした手違(てちが)いで燃(も)えたり、爆発(ばくはつ)したりする危険(きけん)もある。
もちろん、電池メーカーは事故が起きないように何重もの安全テストをしている。たとえば天ぷら油の中に放りこんだり、大きなコンクリートのかたまりが上から落ちてきたりしても大丈夫(だいじょうぶ)か、確かめている。
地球環境(かんきょう)を守る切り札の一つと期待される電気自動車も、リチウムイオン電池の活躍の場になりそうだ。走れる距離(きょり)を長くしようと、電池の性能をよくする競争は激(はげ)しさを増している。
飛行機も車も、事故になれば多くの人の命が失われる恐れがある。リチウムイオン電池の安全性を高める面での競争も求められている。(高木真也)