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「ゆりかご」揺れて産声 赤ちゃんポスト、許可 熊本

2007年04月20日

写真記者会見する蓮田太二理事長(中央)と田尻由貴子看護部長、蓮田晶一院長=5日午後、熊本市で、阿部峻介撮影
図  

 熊本市は5日、慈恵病院(蓮田晶一院長)から出されていた「赤ちゃんポスト」の設置申請を許可した。「生活に困窮する保護者、命を失いそうな赤ちゃんを見過ごせない」という切実な声の一方、子どもを置いていく親に匿名を許す制度に疑問も意見もある。法的な問題が、すべて解決したとも言えない。全国初のポストは、親、そして子どもの幸福な将来につながるのだろうか。

■福祉現場 匿名で放棄広がる懸念

 児童福祉に携わる人々は、ポスト設置を複雑な思いで見守る。ポストに「匿名性」が残されたためだ。

 慈恵病院は先月20日、熊本市が照会していた、出自を知る手続きについて文書で回答した。病院側は、匿名性をできるだけ避けるため、事前に相談できる「新生児相談室」を設け、氏名を明かしてもらえるように働きかけると答えている。

 ただ、匿名で利用できることが救済の意義でもあるとして匿名性を排除していない。

 5年に一度行われる厚生労働省の調査によると、捨て子にあたる「棄児」は、87年131人、98年81人、最新調査の03年が67人だった。保護者が育てられなくなった乳児は多くの場合、児童相談所の調べに基づき、乳児院や里親などに養育を委託される。このため、親の氏名や養育できなくなった理由は、公的な記録として残っている。

 東京都内でも最も古い歴史を持つ麻布乳児院(港区)の柿山青谷・前院長には、こんな経験がある。

 数年前、かつて乳児院にいた10代の少年が、母親のことを知りたがり、生活が荒れた。当時入っていた児童養護施設から、「赤ん坊の時の話をしてほしい」と頼まれ、少年と、担当だった乳児院の元看護師、職員らが集まった。元看護師は、通ってきていた母親のこと、名前に込めた母親の願いなどを伝えた。その後、乳児院に「少年が自信を持ったようで、落ち着きました」という手紙が施設から届いた。

 柿山さんは「赤ん坊がもし話せるなら、なぜ親元から離されるのかきちんと説明してくれ、と言うでしょうね」。

 設置に賛成の専門家もいる。名古屋市で児童虐待から子どもを守る活動をするNPO代表の岩城正光弁護士は里親推進を条件に、「虐待などの危険にさらすより、親が速やかにSOSを出してくれた方が子には好ましいし、里親にもつなげやすい」と言う。

 岩城弁護士自身、母親と5歳の時に別れ、22年間会えなかった。「子どもが親を知りたいと思う気持ちは理解できるが、出生時の情報確保と、命を救うことは別問題だと思う」と話した。

■病院 「黙って見過ごせぬ」反論

 幸山政史市長は記者会見で、ポスト設置の判断を「非常に難しかった」と振り返った。現行法で想定されていない計画を、法令を順守すべき行政としてどう考えるか、悩んだという。ただ「施設が必要という個人的な思いもあった」と述べた。課題が残ることも認めた。市が保護責任者遺棄罪の幇助(ほうじょ)にあたる懸念について、「ケース・バイ・ケース」との認識を示した。

 一方、許可を受けて会見した蓮田太二理事長は「預ける前に赤ちゃんの幸せを考えて相談してもらえたら、と切に願う」と述べた。慎重論や批判には「捨てられた赤ちゃんを黙って見過ごすのは、虐待で亡くなる子をそのまま見ているのと変わりない」と反論した。

 ポストは今月中にも完成し、市保健所の許可を受け次第、運用される。

■厚労省 倫理強調、政治も意識

 国の対応も揺れた。育児放棄を助長するという指摘があるためだ。

 実際、計画が公になった昨年11月以降、病院に反響が相次いだ。今年3月末までに届いたメールは216件。当初、賛成と反対の意見はほぼ同数だったが、徐々に賛成が上回り、2倍近くになった。妊婦の相談も全国からあった。約20人が「赤ちゃんを預けたい」と電話をかけてきた。

 厚生労働省は、2月に幸山市長が上京して相談した際、「違法だとは言い切れない」と伝えた。しかし、政治家から疑問の声が上がる。安倍首相は「匿名で子どもを置いていけるものをつくるのがいいのかどうか、大変抵抗を感じる」。閣僚にも拒否反応を示す発言が続いた。このため、厚労省は「子どもの遺棄はあってはならないこと」と、倫理的な面をより強調するようになった。

 設置許可を受け、厚労省は5日、「保護者が子どもを置き去りにするのは、本来あってはならない行為」とする通知を都道府県などに出した。児童相談所や市町村の相談窓口の周知徹底、妊娠で悩む女性への援助の充実などを要請。今回は例外的措置であるとして、無責任にポストに子どもを預ける親が増えないよう、行政の取り組み強化を求めたものだ。妊婦対象の電話窓口を24時間態勢で開くようにした熊本市の対策も、こうした考えに沿っている。

 赤ちゃんをポストに置く行為が刑法の「保護責任者遺棄罪」に当たらないのかという点について、法務省刑事局は「具体的な事例をみなければわからない。証拠に基づき判断されるべきだ」としている。警察庁は、対応を熊本県警に任せており、県警も「個々の事案に応じて必要な捜査を行う」として、捜査の可能性を示唆している。

●首相「政府は認めない」

 安倍首相は5日夜、記者団に「お父さん、お母さんが匿名で赤ちゃんを置き去りにするのは私は許されないのではないかと思う。政府として、認めるということはありません」と述べた。

◆キーワード

 <赤ちゃんポスト> 12世紀にイタリアの養育施設でつくられたのが始まりとされる。その後、欧州各地で修道院や教会などが、乳児を入れる箱をつくり、捨てられた子どもの命を救った。

 20世紀初頭までに廃止されたものの、ドイツで2000年、母子救済の目的で託児所などを運営する団体が「ポスト」を設置。現在80カ所を超えている。イタリアなどでも設置の動きが広がっている。慈恵病院は「こうのとりのゆりかご」と呼んでいる。

(2007年4月6日付け朝刊 1社会)

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