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全国学力調査、活用を模索 結果発表から半年2008年04月28日 全国学力調査の結果発表から半年近く。各地の小中学校や教育委員会では授業改善に生かす動きが出てきた。だが、その試みはまだ一部。予算確保に暗雲の漂う自治体もある。調査は今年も今月22日に行われる。 (根本理香、葉山梢 編集委員・氏岡真弓) ●表現練習や勉強合宿 学校 岩手県奥州市立衣川小学校。調査の実施直後の昨年5月、答案のコピーから3人分を選び、全教員13人がそれぞれ模擬採点をした。いかに指導していなかったか。困惑が広がった。 例えば国語で「二つの感想文を読み比べて、共通する良い書き方を2点記述しなさい」。子どもたちの回答は「思ったことが書かれていてよかった」「いっぱい書いてあってよかった」など答えになっていなかった。 自分で解釈して表現させる問題は、問題文を正しく読むことを求める従来型とは大きく異なる。「目からウロコだった」と藤川ひとみ校長は振り返る。 国語は、月1回程度開かれる研究授業で調査の結果分析に基づいた改善指導を盛り込んだ。算数は冬休みに、問題ごとに担当教員を決めて誤答分析と今後の対策を考えた。さらに3学期からはすべての授業で、その時間に分かったことや分からなかったことを振り返り、自分の考えをノートに表現させた。いずれも全校挙げての取り組みだ。 学力調査より生活習慣や学習環境などを尋ねた学習状況調査の結果を重視した学校もある。静岡市立美和中学校は、学校外の学習時間が全国平均より短かった。生活リズムの改善をしようと冬休みに2泊3日の勉強合宿を近くの公共施設で行った。 3年生100人のうち希望者は42人いたが、勉強が苦手な生徒を優先に30人限定とした。6人ずつのグループに分かれ、それぞれが持参した問題集などで自習。市から派遣された講師らがついた。「分からないことがあるとすぐ質問できる」と生徒からは好評だった。 京都府長岡京市立長岡四中の松宮功校長は、昨年10月に国から送られてきた膨大な調査結果資料を1人で分析した。学習状況調査101問の中で全国平均より10ポイント以上開きのある項目をまとめ、学力調査の正答数と学習状況調査結果の相関関係の有無などを調べた。また、記述式問題に注目すると、同校の生徒の正答率は全国平均よりも高く、無回答数が少なかった。 ただ、松宮校長は話す。「全国値との比較は説得力があるし貴重だが、新発見は特になかった。これまでやってきた指導の裏付けの一つで、新しいことを期待しすぎるのもいけない」 ●30人学級増やす・授業ヒント集配布 自治体 都道府県や指定市は、大学の研究者や校長ら教育関係者による検証改善委員会をつくり、改善策を探っている。特に結果が低迷した県は動きが急だ。 中学で全国平均を大きく下回った高知県。結果が出る前から検討委員会をスタートさせ、1月にはトップクラスの秋田県教委に赴いて聞き取り調査。新年度は中学校で30人学級を3校から18校に増やす予算を組んだ。 小中とも全国平均を大きく下回った沖縄県は、県の教育推進計画で11年度に学力調査の平均正答率を70%に引き上げる数値目標を掲げた。「わかる授業をつくるためのヒント集」を各校に配布し、家庭学習の手引も作った。 やはり振るわなかった大阪府。「学校改善のためのガイドライン」をまとめ、58項目のチェックシートを作成、各校に配った。だが、応用力に重点を置いた府独自の学力テストなどの新施策が、橋下徹知事の緊縮財政方針で当初予算に軒並み盛り込まれなかった。テストについてはゼロ予算でできる問題作成に限り、4月から作業を始めている。「できることから始めるしかない」と府教委は話す。 一方、全国平均以上でも改善に力を入れた自治体もある。 香川県は自前の学力調査を見直し、今年度、新たに小6と中3の社会のテストを希望した161校で実施する。検証改善委員会で、全国学力調査のB問題のような「活用」の力をつけるには理科や社会が重要と指摘された。同県は02年から小6で国語、算数、理科、中3で英語、数学、理科を調査している。「社会だけは国や県の調査にない。指導法を研究したい」と県教委。 福岡市は06年と07年に実施した独自調査を新年度は取りやめる。全国調査と合わせ、課題の分析は済んだという判断からだ。かわりに、全校に授業改善計画を提出してもらい、それぞれに予算をつける。 ■調査結果の骨子 ・「知識」を問う問題の平均正答率に対し、知識の「活用」を問う問題の平均正答率は10〜20ポイント低かった ・都道府県間の差は大きくないが、一部に高い県と低い県も ・就学援助を受けている子どもが多い学校は、平均正答率が低い傾向 ・1960年代の調査と同一の問題では、正答率が上がったものが多い ◆キーワード <全国学力調査> 文部科学省が昨年4月、原則全員参加の一斉テストとしては43年ぶりに実施した。小6が国語と算数、中3が国語と数学の各2教科で、問題は「知識」(A)と「活用」(B)に分かれる。学習環境などに関する質問紙調査もある。昨年は愛知県犬山市の14校以外の全国公立校と、約6割の私立校が参加、225万人が受け、結果は同10月に公表された。 教育委員会は学校ごとの結果を公表できない。しかし、教委の指導で全校がホームページに同形式で結果を掲載し、序列化が懸念される区や市もある。
(4月16日付け朝刊3ページ 3総合)
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