◇ののちゃん 先生は、目を開(あ)けたとき二重まぶたになるでしょう。私は一重。友だちには、片目(かため)が二重でもう片方が一重の子もいるよ。二重と一重のまぶたは、どう違うの?
◆藤原先生 上まぶたの内部には、下側の縁(ふち)に沿(そ)って「瞼板(けんばん)」という軟骨(なんこつ)みたいな細くて硬(かた)い板(いた)が入っているの。瞼板には、まぶたの上の方から筋肉が伸(の)びていて、目を開けるときはこれが瞼板を引き上げるの。こうして単純(たんじゅん)に開くのが一重まぶたよ(図上)。
◇ののちゃん ふ〜ん。じゃ二重は?
◆先生 瞼板に付いている筋肉の一部が枝分(えだわ)かれして、瞼板の少し上の位置(いち)で上まぶたの皮膚(ひふ)にもくっついているの(図下)。この状態(じょうたい)で筋肉がまぶたを引き上げると、瞼板の部分(ぶぶん)だけでなく、筋肉がくっついている皮膚も引っ張り上げられて、ヒダができるの。これが二重まぶたよ。
◇ののちゃん どうして二重と一重があるのかな。
◆先生 日本人は、半数近くが一重のようね。白色人種(じんしゅ)や黒色人種では、ほとんどが二重よ。こうしたことから見て、遺伝的な要素(ようそ)が一因としてからんでいるかもね。
◇ののちゃん ふ〜ん。
◆先生 白人の顔は日本人などより彫(ほ)りが深い、つまり、額(ひたい)と鼻(はな)がT字形にほおからせり出しているでしょう。ということは、眉毛(まゆげ)部分に対して目が奥(おく)に引っ込んでいるの。この状態でまぶたが引き上げられると、自然(しぜん)にまぶたにくぼみができやすい、という事情(じじょう)もあるそうよ。ところで、「目は口ほどにものを言う」って知ってる?
◇ののちゃん お兄ちゃんがこっそりお菓子(かし)を独(ひと)り占(じ)めしようとするときなんか、目がキョトキョトしてすぐバレるんだ。「口以上に」ものを言うかもね。
◆先生 そうね、目は、眼球(がんきゅう)の向きと、まぶたの動きだけで豊(ゆた)かな表情(ひょうじょう)をつくるわね。まぶたには、ほかにも大事(だいじ)な役目(やくめ)があるよ。
◇ののちゃん 目の前に突然(とつぜん)なにかが出てくると、反射的(はんしゃてき)に閉(と)じて目を守るよ。
◆先生 そうね。それに、水中から陸に進出した両生類(りょうせいるい)以降の脊椎(せきつい)動物がまぶたを持つことからうかがえるように、目の乾燥(かんそう)を防(ふせ)いでいるわ。
◇ののちゃん そういうまぶたとしての働きには何にも問題がないのに、整形手術(せいけいしゅじゅつ)で一重まぶたを二重にする人って少なくないんでしょう?
◆先生 二重は目にアクセントができて目が大きく見えるから、二重を望(のぞ)む人たちもいるのね。ただ、例(たと)えば、江戸時代(えどじだい)の美人画(びじんが)には一重も多いわ。何を美しいと感じるのか、その基準(きじゅん)はずっと同じものではないわね。
(取材協力=塩谷信幸・北里大名誉教授、構成=武居克明)
(朝日新聞社発行 11月06日付be)
◇調べてみよう
(1)一重まぶたと二重まぶたの割合(わりあい)を、家族(かぞく)やクラスで調べてみよう。
(2)百科事典(ひゃっかじてん)や美術書(びじゅつしょ)で、美人画や役者絵(やくしゃえ)、理想化(りそうか)された肖像画(しょうぞうが)、仏像(ぶつぞう)などのまぶたがどう描(えが)かれてきたか、調べてみよう。