現在位置:asahi.com>教育>小中学校>花まる先生公開授業> 記事 描いて実感、水墨画 岩手県奥州市立水沢小学校・佐藤正寿さん2007年07月16日 子どもたちが持っている紙には墨で何かが描かれている。習字ではない。山あいの風景か、まだら模様か。できばえは様々。墨の濃淡を生かし、山の起伏や木の枝葉まで表現している力作もある。机の列ごとに見せ合うと、思わず「うまーい」と声があがった。
図画の時間ではない。6年生の歴史。前の授業で室町の画家・雪舟の水墨画の模写に挑戦していた。 「濃さの調節が難しかった。墨一つで表現した雪舟はすごい」 「細かいところがうまく描けなかったけど、雪舟はうまい」 子どもたちの感想を、佐藤先生が丁寧に繰り返したり、相づちを打ったりしながら、みんなで共有するように導く。 「雪舟はすごいと思った人?」先生の問いかけに、ほぼ全員が手を挙げた。 * 子どもたちには、日本文化の良さを知って、日本を好きになって欲しいと考えている。水墨画の体験はそのための仕掛けの一つだ。「みな、墨の濃淡や細部の描写に苦労しました。だからこそ、作品の良さがよくわかるんです」 黒板にはったスクリーンに、雪舟の水墨画を写し出す。ここからがこの日の授業の本題だ。 「この作品のすばらしさをノートにたくさん書いてください」 子どもたちは思い思いに書いてから4人組になり、互いに情報交換。一番いいものを発表する。 「遠くの木は薄く、近くの木は濃く描いてある」と男の子。「重要なこと言ったね。特にどこ?」。スクリーンの前で絵を指さしながら説明させ、濃淡で距離感を表していることを確認した。 別の男の子が「細かい」というと、先生は「どのあたり?」と尋ねる。「木の先の葉が細かい。ここやここやここ、全部です」。出てきた言葉に、今度は「なるほどねぇ」とうなずいた。 大事なことは決して自分からは言わない。子どもの言葉を拾いながら授業を進めるのが佐藤先生のやり方だ。「たくさん気付いて、考えてほしい。体験も発表も映像も、すべてそのための手段です」 * 雪舟が水墨画を学ぶため明に渡ったこと、六つの作品が国宝になったことを説明した後、国宝のうちの二つ、「秋冬山水図」と「天橋立図」をスクリーンに映し出した。「おー」と歓声があがる。 たたみかけるように、「もっと有名な作品があります。それが四季山水図。長さ16メートルあります」。 「でけー」と教室がどよめいた。大きさを実感してもらおうと、先生は廊下側の壁沿いを歩き出した。「これが1メートル、2メートル……9メートルありますね。これだけじゃ足りません。ずーっとあそこまで」。窓際の壁を指した。 続いて、四季山水図の動画をスクリーンに映し出す。絵巻物を開くように映像が流れていく。「これ夏かな」「遠近法使ってる」。1分50秒ほどの映像に、子どもたちはくぎ付けになった。 「雪舟のこのような作品が残っていることをどう思いますか」 子どもたちは少し沈黙してから語り始めた。「それだけ大切にされてきたんだ」「誇りだと思う」「これからも大切にしたい」 先生がこの日、伝えたかったことはすべて、子どもたちの言葉になった。 |