山梨・作文倶楽部トトロ・岩崎美紀さん
2009年8月10日
読書感想文の課題の2冊を見せる岩崎先生=甲府市、松本敏之撮影
3、4年生のクラスで、岩崎先生は読書感想文の教材に2冊の本を選んだ。少年2人が海を目指してマウンテンバイクで走る「風をおいかけて、海へ!」(高森千穂作)と、6匹の子犬の出産に立ち会い、飼い主選びをする少女と祖母の物語「しあわせの子犬たち」(メアリー・ラバット作)。男の子3人はマウンテンバイク、女の子2人は子犬の物語を選んだ。
「読書感想文では、みんなの体験も入れるといいよ」。先生はあらかじめ、「自転車に乗る」「犬とのふれ合い体験を思い出す」という宿題を出していた。
まず、男の子たちに聞く。「サイクリングで何が見えた? 音やにおいはどうだった?」
「枯れ葉があって、カラスが鳴いていた。風が気持ちよかった」
「3時間ぐらい走った。車やバイクの音、せみの声も聞いた。花のにおいもしたよ」
みんなは普段から、五感を生かして書くことを心がけている。全身を目や耳のようにして自転車で走った様子が伝わってきた。
ある女の子は「ペットショップの犬は笑っているような感じで、触ってみるとフワフワだった」。
「まるで何みたい?」と先生。
「毛糸みたい」
「かわいかったしぐさは?」
「なめるところ」
たとえを使ったり、具体的な場面を思い出したりすることで、目に見えるような表現になる。
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先生が自宅で開いている作文教室には、幼児から高校生まで64人が通う。物語文や描写文、「もし自分がライオンだったら」といった「なりきり作文」など、さまざまな文章づくりに挑戦している。
パン屋やスーパーなどにインタビューに行き、短い時間で必要な情報をどう伝えるかを考え、ビデオを使ってCM製作も。公園に出かけて、「甘いにおい」や「ざらざらするもの」などを感じて夏や春を探し、詩や俳句で表現する活動にも取り組む。先生は「『書きたい』と思えることを自分で見つける過程を大切にしています」。
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体験を発表したあと、みんなはそれを原稿用紙にまとめてみることに。「ヒュー。風がきもちいいサイクリングロード」――思い思いに出だしを工夫した。続いて、物語のあらすじや心に残った場面をまとめながら、自分の体験と関連づける作業へと進んだ。
マウンテンバイクの物語では、「友達未満」だった少年2人が40キロの道のりを走り、友情を深めていく。「この後、2人はどう過ごすのかな?」と先生。男の子は自分の友人のことを考えながら「二人はけんかもしたりするけどいつまでも友達でまた自転車でぼうけんすると思います」と加えた。
女の子には「もし子犬が生まれたらどんな人に飼って欲しい?」と質問。女の子は、しばらく考えて書き足した。「子犬がたくさんいたら、ひとりぼっちの人、心が傷ついている人にあげたい」
この日は2時間半の授業で、順序にはこだわらず、書きたいことを次々に加えるかたちで感想文の下書きを作った。次回、構成や順序を練り直して仕上げる。
体験談を織り込み、命が吹き込まれた文章になるだろうな、そんな気がした。(山根由起子)
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