吹奏楽
2010年8月19日
真夏の太陽が照りつける奄美大島。13日、観客のいない奄美市の奄美文化センター大ホールに楽器の音が鳴り響いていた。大島高校吹奏楽部による朝からの猛練習だ。
「練習をさぼってる音がするなあ」「もっとワイルドにいかないと印象に残らないよ」。顧問の立石純也教諭(40)が2階席からマイクで冷やかしまじりに指導する。コンクールの課題曲の練習だが、少し演奏しては止め、音の出し方を確認。納得のいく音が出るまで部員たちに繰り返させた。
「先生は口の悪い時もある」と部長の伊藤緑さん(3年)。そして続けた。「でも私たちのことをちゃんと考えて指導してくれる。言われた通りにやれば間違いないと信頼しきっています」
大島高校は7月にあった県吹奏楽コンクールで29年ぶりに県代表に選ばれた。松陽高校(鹿児島市)の吹奏楽部顧問時代に5回、全国に導いた実績を持つ立石教諭。その指導力をたたえる声もあるが、立石教諭は「数々の試練を65人の部員全員で乗り越えるチームワークの良さが好結果につながった」と信じている。
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離島の高校ならではの悩みを乗り越えての栄冠だった。
島では吹奏楽の「強豪校」との交流やプロの演奏に触れる機会が少ないといった離島のハンディがある。立石教諭は大編成の魅力を共有する機会になればと、2008年12月、奄美、大島北、古仁屋、大島の4高校合同バンドを結成。強豪校との合同練習や著名な演奏家を招いた講習会などを開き、部員を絶えず刺激してきた。
生(せい)優樹さん(3年)は「合同練習を通じて『同じ高校生なんだからできないことはない』って思えるようになり、気持ちの面で本土の高校との差は前ほど感じなくなった」と話す。
努力すれば夢はかなう――。立石教諭の思いは子どもたちの心に確実に根付いた。
島だからこそ気付いたこともある。岩下真子さん(3年)は「親や学校、地域の人々に支えられて舞台に立てるんだって。良い演奏で恩返ししたい気持ちが、上達へのモチベーションの一つになっている」。
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メンバーは大の仲良し。だが時に、緩さや甘えという形で何度も部を苦しめてきた。
昨夏の新チーム発足以降、何かにつけて昨年の先輩たちと比較し、演奏に自信が持てない日々が続いた。弱気が部内に伝染。ミーティングを重ねても答えが出なかった。次第に豊かな表現力が奪われ、単調な音しか出せない時期もあった。
そんな時も、部員たちは元気になる「おまじない」で乗り切ってきた。現メンバーのテーマソング「スタートライン」(馬場俊英作詞・作曲)だ。
練習の最後に全員が輪になって手をつないで歌う。歌詞を一部前向きにアレンジし、自分たちの応援歌としてチームの結束を強めてきた。副部長の春野早苗さん(3年)は「演奏がうまくいかなかった時でも、お互いの顔を見ながら歌うと、次も頑張ろうって思えるんです」。
22日に福岡市で開かれる九州大会ではトップバッターで舞台に立つ。「自分たちの演奏がどこまで通用するか楽しみ。みんなで完全燃焼し、大高サウンドを会場に響かせたい」と伊藤部長。
県コンクールを乗り越えた部員たちの夏の第二幕がまもなく上がる。
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県吹奏楽コンクールで県代表となった16校・団体が全国大会への切符をかけ、21日から始まる第55回九州吹奏楽コンクールに挑む。高校野球に負けないくらい、吹奏楽も夏が一番熱い。夏音を響かせる小中学校、高校の代表校の話題を紹介する。