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紙上特別講義

チンパンジーとヒト:3(松沢教授)

2007年06月30日

 寿命に違いがあっても、世代を超えて末永く付き合えるといいですね。

     *

 チンパンジーとヒトは、DNAレベルでは1.23%しか違わないという。そのわずかな違いは何なのか。松沢教授は講義で、ヒトの特性を「他者の心を深く読み取ることができる点」と指摘しました。

 今回も「宿題」に多数の「答案」をいただきました。その中から、松沢教授が「優」に選んだ2点を講評とともに紹介します。

 【宿題】ヒト以外の動物と気持ちが通じ合ったと思った経験はありますか。ご自身の体験を教えてください。

 ○赤ちゃんと犬、大きな違いない。

 勝部仁恵さん(33)=学習塾経営、大阪府枚方市

 高3の夏、私の実家に仲間入りしたメスのパグ犬「ウーロン」。私が出産し、里帰りした日、ベビーベッドで寝ている息子の顔を、ウーロンはさっそくのぞき込んだ。フガフガとにおいをかいだ後、ペロリとほおをなめた。息子が泣くと私が駆け寄り、乳をやったりおむつを替えたりするのを、ウーロンは神妙な表情で眺めていた。

 3日ほどすると、息子が泣き出すと、ウーロンは必死にほえて、別の部屋で家事をしている私に知らせてくれるようになった。

 まるでいつも息子のそばにいて番をしてくれているようだった。ほえ方から、「ちっちゃい人が泣いてるで。はよ来て!」と言っていることが伝わってきた。

 犬の感情分析ができる機械が発売されて話題になったが、ふだんから家族として相手をよく見てさえいれば、飼い主は、泣き声や表情、しぐさなどから、彼らが何を伝えたがっているのか簡単に察することができるようになる。

 相手が、言葉を未獲得のヒトの赤ちゃんでも、言葉を使わない犬でも、大きな違いはない気がする。

 ○長生きのゾウ、気持ち通じたのかも。

 池本智子さん(37)=主婦、神戸市北区

 神戸市の王子動物園には、「すわ子さん」という長寿の象がいる。この象を見ながら、どんな時代を見てきたのだろうと思いめぐらせるのが好きだ。

 今春、花見に訪れた時も、すわ子さんに会いにいった。すると、さくの外にニンジンが1本転がっていた。何げなく、すわ子さんに「ここにニンジンがあるよ」と声をかけてみた。奥の方にいるすわ子さんには伝わらないかもしれない、と思いながら何度も声をかけた。

 そのうち、大きな体をユラユラさせながら、少しずつ前へ進んできた。前へ前へ、時には後ろに戻りながら、とうとうすわ子さんは私の前に来た。

 しかし、ニンジンは私とすわ子さんの間ではなく、少し離れた場所にあった。

 「何の用?」といった様子のすわ子さんに、「そこだよ、そこ!」とニンジンを指し示した。理解してくれたのか、鼻を伸ばして口に放り込んだ。

 夫は「偶然だろう」という顔で笑っていた。でも、長生きのすわ子さんだからこそ、人間の気持ちが通じたのかも、と思った。

 ◆講評

 《勝部さん》コンラート・ローレンツは、動物行動学という学問の父です。「ソロモンの指環(ゆびわ)」や「人イヌにあう」といったすばらしい作品を残しました。ローレンツは犬が大好きで、たくさん飼いましたが、犬を飼うことの唯一の不幸を指摘しています。それは人間と犬の寿命が釣り合わないことです。お便りから察するに、ウーロンは15歳くらいですね。長寿です。世代を超えて末永く付き合っていけるといいですね。

 《池本さん》人間は動物分類学上「サル目ヒト科ヒト属」です。ヒト科にはチンパンジーとゴリラ、オランウータンが含まれます。「種の保存法」「動物愛護法」という日本の法令上でもそうです。ヒト以外の3属を最近は「類人」と呼びます。類人と象には共通点が多い。寿命が長く、知能が高い。長い緊密な親子関係もある。果実を多く食べて排泄(はいせつ)するので、種を遠くに運び、熱帯の森を豊かにします。次は、そんなことも考えながら象を見てください。

 ◇先生に質問!

 《記者からの質問》

 チンパンジーと勉強を進める時に心がけていることは何ですか。

 《松沢教授の答え》

 チンパンジーにお手本を示すだけでは、人間が使う文字や数字を覚えることはできません。そこで、人間の社会でも通用するような教育をしています。

 大切なのは、ほめることです。私は常に「よくやった。素晴らしい」と言ってやることにしています。チンパンジーもほめられるとうれしいのです。さらに、大事なのはタイミング。後になって、「さっきのは良かったね」ではダメです。同じことをしているのに、昨日はほめて今日はほめない、と基準がふらつくのもいけません。

 しかるだけでも学習はできるはずです。しかし、5年や10年と長期間にわたって学習する場合には、しかる方法は賢明ではありません。やる気を失わせてしまうからです。

 ◆もっと知りたい人へ

 【参考文献】

 おかあさんになったアイ(松沢哲郎、講談社学術文庫)▽進化の隣人 ヒトとチンパンジー(同、岩波新書)▽チンパンジーはちんぱんじん(同、岩波ジュニア新書)▽森の隣人(ジェーン・グドール、朝日選書)▽霊長類進化の科学(京都大霊長類研究所編、京都大学術出版会)

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