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死別の悲しみとケア:3(坂口准教授)

2008年5月24日

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 それぞれのペースでいい。

 気持ちを抑え込まないで、表現することも大切です。

     *

 親しい人を失った悲しみは、現れる反応も必要なケアも人によってさまざまです。あなたの体験はどのようなものでしたか。坂口准教授からの問いかけに、多くの読者から「答案」をいただきました。何年たっても気持ちを整理できない方、後悔や責任を感じている方、書くことでようやく自分の心をみつめることができたという方。坂口准教授が選んだ2点を講評とともに紹介します。

 【宿題】喪失体験はどのようなものでしたか。また喪失体験をした人にどう接しましたか。印象に残った言葉や態度など、500字程度で。

 ○元気を出してと言われても

 堀口優美さん(51)=歯科医師、大阪府泉大津市

 06年10月1日に、弟が48歳でがんで亡くなりました。

 ほとんどの方が、元気を出してね、と言ってくれました。でも、仕事もして、普通に生活をしている私が、これ以上元気を出せと言われても、どうしていいかわかりませんでした。

 弟の友人で、きょうだいを亡くされている方が、悲しむだけ悲しんだあとは、ゆっくり少しずつ顔を上げて前へ進んでいってくださいと言ってくれました。

 また、弟の話を聞いて一緒に泣いてくださる方がいると、力づけられました。黙って抱きしめてくれる方もいました。

 「弟さんはいつもあなたと一緒にいる。あなたの人生が豊かでありますように」と言ってくださった方もいました。

 喪が明けても、おめでとうございますが言えなくて、年賀状も出せませんでしたが、穏やかな年になりますようにと言ってくださった方には感謝しています。

 時間が過ぎると、だんだん弟のことを話しにくくなって、かえってつらいです。

 ○外では普通に、家では涙も

 真崎加代子さん(53)=会社員、岡山県総社市

 長女いづみが亡くなったのは07年8月、30歳でした。悪性の子宮肉腫でした。亡くなる1カ月半前、先生から病名を告げられたとき、娘は取り乱すこともなく返事をしていました。

 一番つらかったのは本人だったのに、その時は娘に何もしてやることができませんでした。ずっと抱きしめてあげたらよかったのに。娘はいつも笑顔で、「お母さん大丈夫?」と私の心配ばかりしていました。最後まで強い娘でした。

 亡くなってから数カ月は、現実を受け入れ難く、悪い夢を見ているようでした。でも、私がつらい顔をしていたら周りの人がどう接していいか困るでしょうから、外ではあえて普通に振る舞ってきました。娘の好きだった音楽を聴きながら、時には涙を流し、仏壇に語りかけています。

 いまは娘の残したものすべてが愛(いと)しくて愛しくてなりません。今後、私たち夫婦は以前のような心の底からの幸福を感じることはないでしょう。娘がこの世に生存していたことを知っていただきたく、ペンをとりました。

 ◇講評

 《堀口さん》 悲しみの深い時期には、善意からの励ましであっても当惑させられることがあります。死別の悲しみには時間が必要だということを、本人も周りの人も知ってほしいと思います。弟さんの友人が言われた通りです。それぞれのペースでいいと思います。死別後まもなくだけでなく、継続して自分を気遣ってくれる人の存在は遺族にとって何よりの支えになるでしょう。

 《真崎さん》 子どもを亡くすことのつらさや苦しみが、文面からひしひしと伝わってきます。感情を抑え込まず、表現するのはとても大切なことです。思いきり泣くことで、心が少し軽くなるかもしれません。感情を文字にして表現するのも一つの方法です。今回の宿題が、真崎さんはじめ回答を寄せて下さった多くの遺族の方々にとって、気持ちを整理する手助けに少しでもなっていたならば、うれしく思います。

 ◆先生に質問!

 《記者からの質問》

 悲しみを和らげるためにできることは何がありますか。

 《坂口准教授の答え》

 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団(06・6375・7255)が発行した冊子「これからのとき」の内容を紹介します。

 (1)悲しみの体験について知りましょう(本を読むなどして大切な方を亡くした後に一般的にどのような変化を体験するのかを知ることで、少し安心することがあります)(2)気持ちを話してみましょう(心の痛みや感情を抑え込むことによって心や体や生活に問題が生じることがあります。悲しみや怒りなどのどうしようもできない気持ちを、うまく表現する方法を考えてみましょう)(3)遺族の会などの集まりに参加してみましょう(4)気持ちを書いてみましょう(5)体に良いことをするよう心がけましょう(6)必要な時には専門家に相談してみましょう(7)周りの人の助けを受け入れてみましょう

 ■もっと知りたい人へ

 「『悲しみ』の後遺症をケアする」(小西聖子、白井明美著、角川学芸出版)▽「死別の悲しみを癒すアドバイスブック」(キャサリン・M・サンダーズ著、筑摩書房)「ながれるままに涙をながしましょう」(宮林さちえ著、ソニー・マガジンズ)▽日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団のホームページ(http://www.hospat.org/)。

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