大学でパソコンに向かう藤川洋子教授=京都市左京区、上田潤撮影
人の内面世界を読み取る箱庭療法のセット
追いつめてはだめ。寄り添い、導き続ければ必ず落ち着きます。
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藤川教授は2回にわたる講義で、発達障害への社会の理解の大切さを訴えました。宿題には、広汎性発達障害のあるお子さんがいる方を中心に、多く答案が届きました。人には言えない悩み、苦しみを抱え、障害に対する理解を切々と求めるものが目立ちました。藤川教授が選んだ2点を講評とともに紹介します。
【宿題】子どもが人間関係のトラブルを起こしたとき、親の責任はどこまで問われると思いますか。また親として悩んだことは?
●理解どころか偏見も。悔しい
主婦(40代)=兵庫県
発達障害の傾向がある小学生の息子の母です。
人間関係のトラブルは数え切れないほどあります。何かトラブルを起こすたびに頭を下げることも数え切れないほどです。
あるとき、どうしてもおわびを受け入れてもらえず、息子の特性について相手の親に伝えました。それで大目に見てもらおうとは思いません。ただ、明日から直せということが難しいことをわかってほしいために伝えたのです。
しかし、発達障害というのはいまや差別の対象になっているのです。「発達障害=犯罪予備軍」なのです。それは誤解であるという説明には全く聞く耳を持ってもらえません。みな自分の子どもを守ることに必死なのです。
周囲の理解があるのとないのとでは、本人の将来に雲泥の差が出るのです。親への支援も非常に大切だと思います。トラブルがあるたびに、うつになるか、子どもに手をかけてしまうか。現状では、そんな親が多くなるのは当たり前です。私も、いつも「悔しい」という気持ちになってしまいます。
●「あなたは大器晩成型」と励ました
中学校非常勤講師、女性(52)=広島県
現在27歳の次男は、幼いころから、ひとり遊びが好きで、友だちは本でした。小学校ではよくトラブルを起こし、家族に対し感情を爆発させることもよくありました。
自分の好きな事柄は事細かに記憶しており、知的な遅れはないと感じていましたが、友だちとの会話に入っていけず、いきなり自分のことを話してはその場の雰囲気を壊すことが多くありました。
この子が社会人としてちゃんとやっていけるのだろうかと悩みました。しかし、非常に素直なところがありましたし、読書に夢中になると周囲の騒音を全く気にせず没頭していました。
私は「あなたは大器晩成型だよ」と励ましました。この子の真の理解者になることを決意してからは、否定的な言葉をかけなくなりました。
私の心配をよそに、次男は社会人として仕事をこなしています。自分の悩みを今でも素直に打ち明けてくれます。彼自身が自分の特性に気づき、周囲の人を理解しようとする努力に親の私が励まされています。
<講評>
《主婦の方》 発達障害の子の非行を取りあげた私の講義が偏見を助長する面がないか、心配になられたのかもしれませんね。非行はごく少数です。ただ、理解と支援がないと社会適応が難しいのも事実です。だからこそ法律がつくられ、「大事に育てよう」と社会が猛スピードで理解を深めようとしているのです。小学生時代はトラブルが多くても、周囲が連携して根気強く対処していれば必ず落ちつきます。苦しいときは「親の会」などに出席して経験を共有されるのもいいですね。
《中学校講師の方》 トラブルメーカーだったご次男が社会人になられ、今ではお母さんの方が励まされているというのはすばらしいですね。ご次男をよく観察し、追いつめずに信頼関係をつくろうとされた努力が実を結んでいます。人が成長するには「安全感」が必要です。寄り添い、導く、そのことを今後も続けてください。
(京都ノートルダム女子大教授 藤川洋子)
◆先生に質問!
《記者からの質問》
発達障害の人を手助けするポイントを教えてください。
《藤川教授の答え》
まず、話しかけるときは穏やかに、わかりやすく話すことです。「こんなやり方はダメ」というのではなくて、「こうすればうまくいくよ」と教えてあげましょう。初めて経験することには不安を感じることが多いので、予測情報や全体像を示しておくことが大切です。
記憶力がとてもよいので、過去の特定の事柄にこだわって、前に進めなくなることがあります。しかりつけるのではなくて、他のことに気持ちが切り替わるよう、周囲が配慮しましょう。
できたことはきちんと評価して、自信を持ってもらいます。逆に、人に迷惑をかけたときは、障害があるからと大目に見ることはせず、何が迷惑だったのか、クールに手短に説明しましょう。感情的になるのはいけません。
《記者から》
ある小学校の先生に聞くと、子どもの発達障害の有無を専門の医師に診てもらうよう勧めても、断る親が少なくないそうです。早期発見、早期支援がその子のためだけど、発達障害に対する世間の目を考えると踏み出せないのだろうと言います。いただいた答案の中に「発達障害=犯罪予備軍」の誤解を広げたのはマスコミの責任だ、という親の方からの指摘がありました。広まった誤解を解くのも、マスコミの責任だと思っています。次回は、関西学院大の藤井美和准教授が「死生学」について語ります。(大出公二)
○もっと知りたい人へ
「発達障害の子どもたち」(杉山登志郎、講談社現代新書)▽「ふしぎだね!? アスペルガー症候群[高機能自閉症]のおともだち」(内山登紀夫監修、ミネルヴァ書房)▽「脳科学と発達障害 ここまでわかった そのメカニズム」(榊原洋一、中央法規)▽「少年犯罪の深層――家裁調査官の視点から」(藤川洋子、ちくま新書)
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