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国際基督教大学(ICU)

リベラルアーツのゆくえ

2009年9月18日

写真日比谷潤子・学務副学長

 ICUといえば、すぐにリベラルアーツ(教養教育)という言葉が出てくる。専門学部・学科に向けた教育ではなく、地球市民としての幅広い教養を教える。08年度からは、それまでの6学科をなくして、共通の教養学部(620人)だけの枠にして、米国型のリベラルアーツの色彩をより強めている。

 筆者が米国のリベラルアーツを取材したとき、大学側に何のための教育かを問うと、「よきシティズンを育成するために」という答えが何度も返ってきた。

 日比谷潤子・学務副学長にも、同じ質問をすると、「よき地球市民を育てるため。国や文化の壁を越えて責任をもって行動できる市民をつくりたい」と話した。専門知識の枠にとらわれずに、国際的な視点をもった幅広い教養のある人間づくりという視点だ。専門学部にとらわれずに、多くの分野の科目を学べば、自ら問題意識が深まっていく。実際、卒業生のうち、2割は他大学も含めて大学院に進むというが、一度社会に出て再び大学院に進む卒業生も含めると、ざっと「卒業生の4割程度が大学院に行く」と日比谷・副学長は推測している。

 08年度からICUが始めた改革は「メジャー」を軸に展開する。4年間の流れは以下のようになる。1、2年次は語学教育プログラム、一般教育科目、保健体育科目、32メジャーの基礎科目→2年次を終えるとメジャー決定→3、4年次は自分が選んだメジャーの専攻科目、選択科目の履修。

 メジャーは専修分野とも呼ばれるが、自分が選んだ専門分野のことだ。用意されているのは、32ある。「美術・考古学」「音楽」「文学」「哲学・宗教学」「経済学」「数学」「物理学」から「メディア・コミュニケーションと文化」「アメリカ研究」「アジア研究」「平和研究」「環境研究」などだ。ギリシャ時代からの伝統的なリベラルアーツ7科を意識して、音楽や数学、哲学なども入っている。

 専門領域から学際領域まで32のメジャーは多彩だが、特定の科目に学生の人気が集中すると、幅広いリベラルアーツは途端に崩壊するかもしれない。その点はどうなのか。

 日比谷・副学長によると、入学前に何を学びたいのかアンケートしたところ、最も多かったのが国際関係学で全体の3割をしめていた。実際、メジャーの基礎科目はどれも学生で教室があふれていたという。しかし、2年次の途中にメジャー希望を再びきくと、「メディア・コミュニケーションと文化」や「社会学」「心理学」「経済学」「歴史学」が人気だった。「国際関係学」は中位の位置で安定していたという。2年が終わったときにはメジャーが決まっているが、この傾向だとかなり学生が分散している状態で、学生全体が幅広い領域を学んでいくことになるはずだ。

 学生が進路を決めていく過程でなくてはならないものに、開学以来続いているアドバイザー制度がある。教員1人が学生30人程度を受け持ち、学習や生活の相談に乗る仕組み。学生は好きなときに教員の研究室を訪れ、アドバイスを受けられる。ある教員にきくと、週のうち2日間は研究室にいて学生に助言するが、人によっては20分の場合もあれば1時間を超える人もいる。行列をつくる研究室もあるという。相談内容も、学習する際の疑問点やメジャーの選び方、生活上の悩みなどさまざま。とくに、ICUは3学期制をとるので試験が3回ある。学生はそのたびごとにGPA(成績評価の指標、全体のなかでどの位置にいるか数値で表す)の成績表を教員から受け取ることになっているので、教員は学生の学習状況がわかる。

 32のメジャーを設けてからは、学生が自分で進路を決めるといってもどう選んでいいのかわからない場合もある。そういうときには、アドバイザーの教員と相談しながら決まる場合もある。国際関係学に人気が集中した状態が分散化したのも、アドバイザー制度が有効に機能したとみることができる。メジャーの決定も教員のサインが必要なので、学生の選択に教員がかかわり助言することができ、きめこまかになっている。

 大西直樹教授(アメリカ文学)は「ふだんから学生が教員の研究室に行くことは、ほかの大学ではほとんどないはず。アドバイザーの相談がないと、科目履修やメジャーなどの登録ができない。しかも、学期ごとに研究室で教員から成績表を受け取るので、学生がどのレベルにいるかわかる。留学や大学院への進学も相談に乗る」と話している。

 4年生で他大学の大学院を目指している天野由莉さんに入学以来の学びの経歴をたずねた。典型的なリベラルアーツを学んだ軌跡がわかって興味深い。天野さんの話では、入学当時はやはり人気だった国際関係に興味があったが、学ぶうちに西洋古典がおもしろくなり、なかでも古代ギリシャのデモクラシーを中心に学び始めた。そのたびに、アドバイザーの教員に相談したのはいうまでもない。

 そのうち4年1学期後半になって、卒論のテーマを選ぶ際には、デモクラシーという視点からアメリカ研究を取り上げることになった。表面的には国際関係学→西洋古典・ギリシャのデモクラシー→アメリカの研究という流れだが、リベラルアーツで学びながら自分の考えを深めていったことがうかがえる。

 最終的に、卒論のテーマは「1800年、ジェファーソンとアダムズの選挙、政教分離が争点」という趣旨だった。英文で30〜40枚という。

 天野さんは「どんな分野でも勉強するのは好きだが、何をすればいいのかわからない場合がある。そういうときには先生に相談してきた。ICUは教養教育なので英語や音楽もふだんから勉強できる。就職も考えたが、勉強を続けてアメリカ学にたどりついた。このまま修士まで勉強したい」と話している。

 単純計算すると、教員1人当たりの学生数は18人になる。しかし、サバティカル・リーブの教員や非常勤の教員などを差し引くと、アドバイザー制度の教員1人対学生30人という数字が出てくる。伝統的に英語教育に力を入れることで知られているが、1年の英語教育課程は、1クラス学生20人で学ぶ。

 教養教育の幅広さと少人数学級、それをつなぐアドバイザー制度が機能的に結びついている。

 10年度の初年度納入額は約160万円。少人数教育にはコストがかかる。

 多様なメジャーの一つ一つの使命や学習目標がどういう形で徹底されて、学生の身になっていくのか。大学院への進学者が多いだけに、ICUにとって、長い目で卒業生を追う必要が出てくるだろう。

プロフィール

山上浩二郎

山上浩二郎(やまがみ・こうじろう)/朝日新聞編集委員

 愛媛県生まれ。1984年、朝日新聞社入社、横浜、青森支局に勤務。90年から東京社会部。教育班・文部省担当を4年間、2000年から大阪社会部次長、企画報道部次長、論説委員(教育担当)などを経て2005年に東京社会部次長。「子どもを守る」やいじめ問題などのキャンペーンを手がける。2008年4月から編集委員(同)。

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