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山形大学

「エリアキャンパスもがみ」で地域貢献と地元活性化

2009年10月20日

写真餡をこねる学生、山形大学提供

写真授業風景

写真拡大「エリアキャンパスもがみ」地図

 山形県東部の新庄市を中心とする最上地方8市町村には、高等教育機関が一つもない。山形大学は、この地域全体をキャンパスに見立てて地域貢献を展開する「エリアキャンパスもがみ」を05年度に始めた。「大地連携」をテーマに、地域の住民が講師になり、山形大学生は現地に泊まりがけで出かけて、講義を受ける。現在、年間通して約300人が参加している。大学の地域貢献と地元の活性化。一石二鳥の効果をあげている。

 04年、法人化で大学が若手職員を対象に仕事の改善活動を進める研修「スタッフ・ディベロップメント」(SD)を始めたのがきっかけになった。法人化で国立大学に問われたのは社会貢献や地域連携。職員は地元出身者が大半。それに目をつけて、大学が「大学活性化プロジェクト 地域に飛び出してみよう」を実施した。県内の各地に散って役所などとプロジェクトの相談を始めた職員に呼応して、最上広域市町村圏事務組合教育センターの樋口勝也所長が最上地区に山形大学の新たなキャンパスをつくるよう提案した。大学側の窓口は小田隆治教授。

 最終的に8市町村がまとまって誘致する形になり、何度も打ち合わせをして、協定をまとめ、05年度から新キャンパスを立ち上げた。

 8市町村とは、新庄市のほか、最上、舟形、金山、真室川の4町と戸沢、大蔵、鮭川の3村である。このうち6町村が過疎地域自立促進特別措置法に基づく過疎地域に指定されている。この地域にとっては、大学の誘致は活性化の起爆剤という位置づけだ。

 山形大学の教育のなかで、「エリアキャンパスもがみ」の位置づけはどうなっているのか。地域の自然や歴史、文化、それを支える地元の人と協力して、地域をそのまま教育の材料として活用することを考えている。

 授業計画によると、授業科目は前期、後期に分かれて、各2単位。教養教育の選択科目として、「フィールドワーク共生の森もがみ」という名前がついている。たとえば、09年度は前期が14プログラム、後期が10プログラムある。学生はオリエンテーションと事前指導を受けたあと、本番の1泊2日のフィールドワークに2回参加して、最後はリポート提出と活動報告会をすることになる。

 内容は個々のプログラムの名前を見れば、性格がよくわかる。

 後期は、体験「民話のふるさと新庄」〜その原風景を探訪する(新庄市)▽体験「ごまかしのない食品づくりに挑戦!」(同)▽山間地の文化を考えよう(金山町)▽交流 地域の活力にふれよう(最上町)▽子ども達の自然体験等支援講座(真室川町)などが設けられている。

 それぞれ、地元の住民が特別に講師になり、学生を教えるという形をとっている。講師といっても素人には変わりないが、大学側が教えるための後方支援をしているため、かなり充実している。現地では講師や協力者を含めると200人程度に膨らむ。いまでは、山形大学と協力協定を結んでいる立命館大学や海外からの留学生、単位互換の協定を結んでいる近くの大学の学生も少数だが含まれる。

 この授業は一歩間違えば、ただの学生と地域の交流に終わってしまう。そのため、リポートや活動報告会ではかなりの充実度が求められている。イベントではなく、あくまでも単位をとる授業である。

 特に、課題発見能力や課題探求能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、行動力、社会性を身につけてもらうのがねらい。小田教授は「学生にとって考える場を与えることが重要になる。問題発見応力をつけることを目指したい。たとえば、過疎地域の現実を知ることや農業の現実を考えるきっかけになったという学生もいる。一方で、地域にとっては大学が身近に感じられることが活性化にもつながる。この地域の子どもが山形市に社会見学に来たときは大学見学にも普通に参加するようになった」と手応えを感じている。

 実際の授業はどうだろう。10月17日に新庄市で開かれた「ごまかしのない食品づくりに挑戦!」を見てみた。

 同日、午前8時に、学生と付き添いの教員約15人で山形大学をバスで出発した。午前9時半すぎに、授業の場となる新庄市の佐藤製餡(あん)所に着いた。

 講義は座学で午前10時すぎから始まった。店内の大きな机に学生8人が並んで座り、社長の佐藤勝也さんが講師をする。

 講義のタイトルは「大量生産時代の食品」。現代の食品問題に切り込んだ「食品を見わける」(磯部晶策著、岩波新書)をテキストに、学生が輪読しては、途中で佐藤さんが解説する。「食品添加物がいろんな食品で利用されている。みなさんが知っている食品の味が昔とでは変わってきた。昔の味がわかっていれば、添加物が入っているかどうか分かるが、いまはそれが当たり前になって本当の味がわからない。みなさんは“ベロ”で確かめることができない」と解説する。さらに、なぜ食品添加物が入ってくるのか、その背景には価格競争の激化や食品の流通が深くかかわり、戦後米国からの輸入品が入ってきたことも大きく影響している点を指摘した。

 輪読の形なので、活発な議論は少なかったが、専門的で具体的な話に学生らは聴き入った。そのあと、製餡所で製造工程を観察するなど、多彩なメニューをこなした。

 当日は、新庄市内に宿泊し、18日は、講義「つくる側の責任」「食品表示の表と裏」「食品添加物の安全性」のあと、「ごまかしのない食品づくり」という体験授業があり、学生らは家庭でできる餡づくりに実際に取り組んでみた。

 プログラムは翌週も1泊2日の予定で、同じ佐藤製餡所でより専門的な講義と体験授業をする。

 授業を教えている佐藤さんは「キャンパスもがみ」について、「学生が来てくれると、地元もがんばらないといけないという気になる。若者には自分たちにはない発想があり教えられることもある。たとえば、製品のいいキャッチコピーのヒントをもらった」と話す。さらに、担当している授業については、「いまの価格競争の時代では、どうしても添加物を使ってしまい、食品は添加物浸けという状態になっている。しかし、それを若者に教えることで何が本物かわかってもらう。無関心にならないようにするにはまだ間に合う年齢」と話す。

 参加した学生のうち1年の佐藤公亮さんは「ふだんと違う文化や生活が『もがみ』にはある。前期に参加した友人もためになったと言っていた。交流を深めたい。医学部生なので頭の片隅には過疎の医療という問題意識もあります」と言う。同じ医学部1年の桜井健介さんは「ふだん体験できないことを学ぶことができるのでこの授業を選んだ。地元の人とのふれあいも楽しみだった。実際に、授業を受けると、食品の知らないことばかり教えてもらいおもしろかった。家庭がつくる食品とメーカーがつくる食品の品質の違いは、メーカーなどの価格競争などが背景にあるということがわかる。これまで意識したことがなかった」と話した。2人が餡(あん)づくりの授業を選んだ共通項は「つくることに興味がある」ということだった。

 担当の杉原真晃准教授は「県内の広域地域をそのまま大学の授業の場としているところはほかにみられないはず。交流に終わらせずに授業としていかに深めていくか、学生にとっての問題解決能力をいかに育むか、これからも地元と協力していきたい」と話している。

 大学の地域貢献は、とくに地方の国立大学にとっては存在の根幹にかかわる問題となっている。山形大学の取り組みは、大学の教養教育の充実と過疎に悩む地元の活性化を再生する互恵関係にある。他の大学にとって参考になるはずだ。

プロフィール

山上浩二郎

山上浩二郎(やまがみ・こうじろう)/朝日新聞編集委員

 愛媛県生まれ。1984年、朝日新聞社入社、横浜、青森支局に勤務。90年から東京社会部。教育班・文部省担当を4年間、2000年から大阪社会部次長、企画報道部次長、論説委員(教育担当)などを経て2005年に東京社会部次長。「子どもを守る」やいじめ問題などのキャンペーンを手がける。2008年4月から編集委員(同)。

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