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嘉悦大学

居場所を設けて、学びの基礎体力をつくろう

2009年11月20日

写真嘉悦大学の学生ら

写真加藤寛学長

 嘉悦大学(東京都小平市)が、慶応大学の初代総合政策学部長などを務めた加藤寛学長を招き、本格的な教育改革に乗り出して2年目を迎えた。経営経済学部(1学年約300人)のみの小規模大学(短大も併設)で、4年間の基本となる学生生活の充実と初年次教育に力を入れている。

 小平市の住宅街を通り抜けると、白い建物とキャンパスが現れる。夕方も学生が出入りする。2年ほど前までは、午後3時ごろになると、学生はアルバイトなどに出かけるせいか、大げさに言えばキャンパスから人影が消えていた。しかし、いまは夜になっても勉強や各種イベントの準備をする学生が残る。昼夜通して活動する場も用意され、大学は「24時間キャンパス」と呼んでいる。

 学生が孤独にならずにお互いに顔を合わせながら協力するように、とくに1年生のときに、学生、教員、先輩後輩の関係を深めるように方向づけをすることが、4年間を左右する。そんなねらいで学びの基礎体力をつくるための仕掛けがさまざまな手法で取り入れられた。退学率は減ったが、「数字は大学活性化の結果であり、それを目標にしたわけではありません」と、杉田一真キャリアセンター長は冷静に話す。

 加藤学長が就任すると、同時に慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)での教え子や関係者ら約20人がスタッフとして嘉悦大学に入り、活性化の知恵を出していった。その中心となった杉田さんや木幡敬史専任講師らは30代だ。ただ、ミニSFCを目指したのではないと、加藤学長や杉田さんらは話す。改革を始める前に、徹底的に嘉悦学園の教育の理念などを分析して、嘉悦の独自性を損なわないようにしたという。

 活性化の柱は、学生が主体的に行動するように場所と役割を設定していることだ。第一歩となる入学式前3日間のガイダンスでは、新入生がクラブの紹介ブースを回り先輩から情報収集するほか、同様に教員のブースを回り学生生活のアドバイスを受ける。キャンパスをめぐるスタンプラリーもあり、座学で終わらないようにしている。これらは同期や先輩、職員、教員、キャンパスになじんでもらう意味がある。

 初年次教育では、人との語り合いなど他人との関係性、キャリアデザインを深めることに力を入れる。その中心に基礎ゼミがある。9人の若手担当教員がそれぞれ1年生を受け持つ。授業は毎週28回ある。目標達成のための手段は主に二つある。

 一つはNPO「カタリバ」との4回の授業だ。カタリバは大学生や専門学校生が高校の授業に出張して「語る場」を提供することで、コミュニケーション能力の向上を目指す組織。嘉悦大学と開発したプログラムをもとに、クラス討論を続ける。授業では20人を超える大学生が参加し、座談会のようになって、趣味や恋愛、学生生活の満足度などを話し合う。さらに、授業が進むと、学生生活の楽しみ方を考えることを目的に、イベント企画やアルバイト、留学などをカタリバの学生から聞く。そのあとは、それまでの話をもとにゼミ生がこれからの学生生活をどう豊かにするか自ら発表する場になっていくという。実は、これは将来の目標や仕事を考えることにもつなげることになっている。カタリバの学生と話し合ったことで見えてきた目標を、ゼミ生が一人ひとりの「未来履歴書」に書く仕組みだ。この未来履歴書は就職活動が本格化する3年秋の自分を思い浮かべながら、「学生時代に取り組んだこと」などを書き込んでいく。漫然とせずに具体的な目標をためるねらいがある。キャリアデザインの具体化といえる。

 もう一つは、学園祭で出店する模擬店の計画・運営である。現実の店舗経営を意識してももらうために、出店のグループごとに4万円を借りて、事業計画や収支計算などの計画書を書いたうえで、店長や副店長、会計、営業、広報などに分かれて、実際に運営する。模擬店は石狩鍋や焼き鳥などさまざま。計画から最後まで通して実行することで、経営の一端やコミュニケーション、組織のなかでの人の動きを学ぶことにつながっていく。

 授業システム以外の仕掛けも多彩にある。学生組織による取り組みもその一つ。企画班が月見や七夕などのイベントをほぼ毎月開催するほか、広報班はフリーペーパーの発行やポスター、チラシなどを考えて啓発活動をする。

 また、学生が運営する学内人材バンクという仕組み「ヒューマンリソースセンター」も始めた。学生の希望者があらかじめ人材として登録しておくと、学内の業務で一時的に必要なアルバイトがあれば紹介してもらえる。もちろん報酬がもらえるので、キャリア経験にもなる。運営はセンター長の2年の女子学生が担当している。学長オフィスアワーという試みも年に2〜3回実施されている。学長が直接学生と話し合う場である。学生からの要望があれば、それを聞いた学長が判断して後ろに控える教員に実現するよう指示する場合もある。1時間半程度、50人くらいの学生と話し合っている。学内では学生の相談相手をする「ヘルプデスク」制度もある。上級生が後輩の相談相手になる。福沢諭吉の言った「半学半教」で、「一日先に学んだ者は師となる。一日遅れた者は弟子となる。師弟に差はなし」ということの具現化である。基礎ゼミなどでは、上級生が相談相手になる姿がみられる。

 学生は大学の教育や生活をどうみているのだろう。

 3年の川戸隆一さんは「以前は授業が終わると帰る人ばかりだったが、いまは残ってお互いに課題をするなど活気がある。学生と教員の距離がかなり近い」と話す。1年の川俣菖平さんは「基礎ゼミの模擬店では50ページの事業報告書をつくった。学生が主体になって計画をたてるので勉強になった。小さい大学だからこそ活発な交流ができる」。イベント執行部に属している1年の山本拓弥さんは「学内のイベントでは人をどうすれば動かすことができるかを学んだ。これからは、英語が好きなので積極的に学びたい」と話す。また、1年の西村綾子さんは人との関係が深まったことを強調する。「人と協力する機会が多く、一人になることがない。先輩の話を聞く機会も設けられ参考になる」。1年の藤川幸子さんは「何かあれば先生も協力してくれる。個人の目標としては、簿記2級の資格をとろうと思っています」と話した。

 人とのつながりを深める場を大学側が設定して、学生が主役になるように後押ししていることがうかがえる。

 加藤学長は「公共のために役立つ、楽しい大学をつくる。嘉悦のもつ家族主義を追求したい。とくに、中小企業が発展する地盤づくりを進め、そのための人材を育てる」と話している。

 小規模な大学を生かすために知恵を絞り、学生のコミュニティーを自然に発展させる仕組みが嘉悦大学には芽生えつつある。

プロフィール

山上浩二郎

山上浩二郎(やまがみ・こうじろう)/朝日新聞編集委員

 愛媛県生まれ。1984年、朝日新聞社入社、横浜、青森支局に勤務。90年から東京社会部。教育班・文部省担当を4年間、2000年から大阪社会部次長、企画報道部次長、論説委員(教育担当)などを経て2005年に東京社会部次長。「子どもを守る」やいじめ問題などのキャンペーンを手がける。2008年4月から編集委員(同)。

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