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大分大学

ともに学び高める 高大接続教育「学問探検ゼミ」

2009年12月25日

写真大分大学の「学問探検ゼミ」

 大分大学は、大学生と高校生、大学教員と高校教員の4者が、十分に練られた授業計画に基づいて、同じ場所に集まり、「学問探検ゼミ」を続けている。高校と大学の接続事業をより緻密に計画的に、そして大学生と高校生の学びを高めることを意識した取り組みで、教える力と学ぶ力の基礎能力を育てる効果を上げている。ほかにも、不登校傾向の学生支援事業を進めるなど、学生の基礎を重視した取り組みが盛んだ。

 12月21日、経済学部の教室で開かれていた学問探検ゼミに参加した。学生12人、指導役の大学院生2人、近くの県立雄城台高校生5人のほかに、授業の進行役として大分大学の教授2人、雄城台高校の教員2人が加わっていた。

 学生と高校生が4〜5人ずつ4つの小グループに分かれて、調べるテーマを選んでリポートにまとめて、発表するという学習の流れになっている。10月からほぼ週に1回のペースで続けられ、この日はグループごとのリポートがほぼまとまり、他グループのリポートを評価しながら自らのリポートを見直す作業をしていた。

 ゼミの運営の核になっているのは経済学部だが、テーマ設定は広い。「企業が地域社会に与える影響について」「九州の方言について」「EUの発展とアジアの地域統合」「農村の発展と若者」。それぞれのグループがまとめたリポートはA4判で10ページを超える。大学生と高校生が分担して調査して書いたものをまとめている。

 ゼミでは、他のグループのリポートのいい点、参考になる点を用意したコメント用紙に書き込み、同時に自分のリポートに取り入れたい点や改善点も話し合ってまとめた。

 最終的には年明けの発表会で、全員でプレゼンテーションする。そのための打ち合わせも徐々に始めていた。

 実際にどんなことが役に立っているのだろうか。雄城台高校2年の橋本亮さんは「話し合ってまとめるところが楽しい。パソコンなどで企業のことを調べた」と話していた。経済学部2年の下川達也さんは「高校生に自分の考え方をわかりやすく説明しないといけない。コミュニケーション能力が問われます。高校生とまとめることで構成や論理性について深く考えるようになった」と話す。また、授業に参加していた雄城台高教員の三股憲基さんは「大学での学びにふれることで、高校での勉強のモチベーションが上がればいいと思う。本当のリポートの書き方も学ぶだけでなく発表会もある。そもそも調べたいことは何かなかなか確立されていないことにも気づく。違う年齢層で学ぶ意味は大きい」と話した。

 高校と大学の連携が進み始めたのはちょうど10年前の入試がきっかけとなった。

 担当の経済学部教授で学長補佐の宮町良広さんの話では、98年3月の一般入試後期日程で受験者が216人に対して合格者が177人、不合格者が39人と全入時代を予感させた状況が大きかったという。倍率が1.2倍。学生の学ぶ意欲の低下も気になり始めた時期だった。

 すぐに志願者を増やすための対策を考え始めたが、教員だけでなく学生を巻き込んで2年の学生を自分の出身高校に帰って、どんな学生生活を送っているかを報告する「キャンパス大使」を00年度から始めた。これが志願者という面だけではなく、学生が意欲をもってくることがわかった。このころから高校と大学との交流はいまの大学にとって不可欠だということがわかり、高校の教員との定期的な会合や教育内容の意見交換などが始まってきた。

 続いて踏み込んだのが入学前学習と接続授業だった。AO入試や推薦入試で合格した学生を対象に入学前の学習プログラムに参加させている。英語や数学、国語表現などの課題リポートの提出や学習スキルの習得も促す。

 さらに、経済学部を中心に、高校と大学での数学をすりあわせ、きちんと経済学部でも授業が受けられるように数学を教えるようにしている。宮町さんは「AOや推薦で入ってくる学生のなかには学力に自信をもてない人もいる。数学を大学と高校で教育内容をすりあわせて円滑に接続をしようと教え始めた」と話す。入学後も、高校で数学を教えていた元校長で特任教授の甲斐隆文さんを招き、微分積分も含む数IIIの授業を教える態勢をとっている。

 こうした高校と大学の接続を意識した取り組みのなかで、中核にすえているのが「学問探検ゼミ」という。

 高大接続は、これまで大学から高校への出前授業や高校生を招いて大学教員が教える授業、さらに高校と大学の教育内容と入試を円滑にする仕組みなどを指すことが少なくなかった。学問探検ゼミは高校と大学の教育を実質的に関係づけることで、両者の質を互いに高めようとする試みといえる。その意味では、高校生が大分大学に入学することを促すという表面的なとらえ方ではなく、大学の教育、学生の学び、大学教員の教えを高めるための手段と見た方がいい。

 大分大学には、ほかにも学生の基礎をフォローする取り組みがある。「ぴあROOM」という、学びの面での困難や学生生活で迷いがある学生に対して相談に応じるフリースペース(居場所)や学習支援の場を設けている。このスペースは保健管理センターに隣接する建物に設けられ、こたつが置かれた和室や面接室、パソコンを置いた学習机などがある。パステル調の壁など明るい雰囲気を出し、入るだけで気分が明るくなる。ふだんはカウンセラーやソーシャルワーカー、精神科医が相談に応じる態勢をとり、毎日、10人前後の学生が訪れている。

 高校生の2人に1人が大学に通う時代に入り、進路や人間関係での迷いを抱えたり進学後に数学などの学びにつまずいたりすることもある。何より、他人とつきあうことが苦手な学生もいて、大学も孤立した学生を放っておけない事情が背景にはある。ふだんはこの支援ルームで相談するものの、部屋にも顔を見せなくなる学生もいる。その場合、カウンセラーやソーシャルワーカーが直接学生のところに出向いて相談したり、保護者と連絡をとるなどしたりして、支援することにしている。この部屋には学習アドバイザーもいて数学・物理の高校退職教員が補習もしてくれる。

 開設して2年目になり、各大学からの訪問も相次いでいる。

 大学は学生を放っておく空間ではすでになくなっている。さまざまな手だてで学びの質を高めて、一人の人間として社会に送り出す装置でもある。きめ細かな対応をしながら潜在的なニーズを自ら探し当てて実行に移すことが必要な時代になってきた。大分大学はきめの細かさで社会の要請に応えようとしている。

プロフィール

山上浩二郎

山上浩二郎(やまがみ・こうじろう)/朝日新聞編集委員

 愛媛県生まれ。1984年、朝日新聞社入社、横浜、青森支局に勤務。90年から東京社会部。教育班・文部省担当を4年間、2000年から大阪社会部次長、企画報道部次長、論説委員(教育担当)などを経て2005年に東京社会部次長。「子どもを守る」やいじめ問題などのキャンペーンを手がける。2008年4月から編集委員(同)。

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