2020教育改革

教育ジャーナリスト おおたとしまさ氏「2020改革がもたらした『思わぬ果実』」

2019.03.14

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EduA編集部
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  • 文章を速く正確に読み取る「読解力」「速読力」「情報処理力」の勝負になるおそれも
  • 大学入試改革が中学の入試と授業に影響。「思わぬ果実」に
  • 成績上位層ほど、入試改革の影響は小さい。中学受験経験者は「問題なし」

話を伺った人

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

(おおた・としまさ)1973年、東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、育児・教育関係の記事を多く手がける。著書は『ルポ塾歴社会』『名門校とは何か?』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』など50冊以上。

センター試験に代わり、2020年度から導入される大学入学共通テスト(新テスト)。これまで2回の試行調査が行われましたが、受験者からは戸惑いの声も聞かれます。

英語、国語、数学、地理の4教科を受けた中国地方の公立進学校の高3男子生徒(18)は、朝日新聞エデュアの取材に「図を見て、その場で考えるようなものが多かった。センター試験に比べると対応力が問われる」と話しました。特に数学は「写真などを読ませて記述させる。いままで解いてきた問題とは違っていてびっくりした」といいます。一方、「全体的に文字数は増えていたが、そこまで気にならなかった」とも答えています。

大学入試改革に詳しい、教育ジャーナリストのおおたとしまささんは「従来のセンター試験では短く書かれていた問題文を、新テストではわざわざ会話形式にしたり、図を多用したりして読み込ませる作りにしている」と指摘しています。そして、「文章を速く正確に読み取る『読解力』『速読力』、あるいは『情報処理力』の勝負となり、文字の情報処理力が高い子が有利になる可能性がある。テストで測りたい教科の能力が正しく測定できなくなるおそれがある」と危惧しています。

その半面、「難関国立大学は以前から2次試験で数百字の記述式があり、80字程度の問題が導入されたとしても、学力上位層には影響はほとんどない。この中国地方の生徒は、文字を読むのが速い子ではないか」と話しています。

新テスト、公立一貫校の適性検査に“そっくり”

おおたさんによると、新テストは公立中高一貫校の入試にあたる「適性検査」によく似ているといいます。そして、適性検査は当初、難関私立中学の入試を徹底的に研究してつくられたそうです。

教科ごとの能力をみるのではなく、教科を超えた総合的な能力を測る思考力型の中学入試は広がりをみせています。首都圏に約300ある私立中のうち、2019年入試では約半数で行われました。

元々は適性検査向けの勉強をしてきた子の併願を狙った動きでしたが、入学してくる子の学力は従来と変わりがなく、むしろ偏差値では測れない、様々なタイプの子が入るようになったそうです。

さらに、こうした中学では通常の授業にも良い影響が出ているといいます。大学入試改革における新たな「学力観」を念頭に、思考力や表現力、主体性を鍛える授業づくりに取り組んだところ、能力が埋もれていた生徒が、輝きをみせるようになった事例も耳にしたそうです。

おおたさんは「大学入試改革の構想が打ち出された結果、中学の入試と授業でそれぞれ大胆な改革が進んだ。これは今回の改革で得られた『思わぬ果実』です」と指摘しています。そして、「そもそも、その場で図表を見てヒントを見つけたり、長い問題文を読ませてそのなかにある情報を用いて自分の考えを述べさせたりする問題は、中学入試では定番。12歳の時点でしっかり中学受験の勉強をした子供たちなら、新テストへの対応はまったく問題ない」と断言しています。

受験と進学の新常識―いま変わりつつある12の現実―
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