医者志望者必見! 「天皇陛下の執刀医」天野医師に聞く

外科医への憧れは小6 受験勉強は医師の資質を鍛える

2019.04.24

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庄村 敦子
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  • 2012年に天皇陛下の心臓手術を執刀し、道徳の教科書でも紹介されている天野篤医師
  • 手術の成功率は98%以上で、手術中に何が起こっても「想定内」と対応できる
  • テレビドラマの「白い巨塔」に憧れ、小学校6年生のときに外科医を目指す
  • 時間に対する勉強量を確立できれば、90%以上の確率で合格する
  • 医療界のリーダーとなる人材の育成にも力を入れるため、「早期医療体験プログラム」を始める

手術の成功率は98%以上! 医師になっても努力と工夫を続ける

天野笑顔
天野篤医師=撮影・小山幸祐(いずれも)

2012年に天皇陛下の心臓手術を執刀した天野篤医師は、小学校3・4年生の道徳の教科書の「働くすがたが、かがやいている人たち」でも紹介された。
心臓外科医になって最初の7~8年の年間手術数は多くても50件ぐらいだったが、「患者の身体に負担をかけないよう、早く、無駄なく、上手に手術をする」という評判がたつにつれて手術件数が増え、毎日1~4件の手術経験を積んだ。

63歳になった今も、年間350件ほど執刀し、手術件数は8千例を超えた。手術の成功率は98%で、予定された手術なら99.5%と驚異的。このように高い成功率なのは、ベテラン医師になってからもおごることなく、真摯に努力と工夫を続けているからだ。
「外科医のなかには、『想定外のことが起こった』という人もいますが、ほとんどの場合、なんらかの形で予想できる段階があります。それに気づけるかどうかです。私は手術の前に、手術の様子を細かく思い浮かべ、いかなる場合にも対応できるようにしています。ですから、手術中に何か起こっても『想定内』ですから、落ち着いて対処することができます」

30歳頃からずっと書き続けている「手術記録」

手術前の準備だけではなく、手術後の振り返りも欠かさない。30歳頃から今日までずっと続けているのが、手術の直後から翌朝までにすべての手術記録を書くことだ。
「うまくいって当たり前だから、思うようにいかなかった手術のほうが記憶に残っています。手術の内容を分析し、反省と工夫を見いだし、絶対に同じ過ちをしないことが次の進歩につながります」
新しい工夫を加えることによって、患者の身体の負担が少なくなることも外科医のやりがいのひとつだという。
「天皇陛下のバイパス手術のときには、当時の先進的な手技として、脳梗塞(のう・こう・そく)にならないための工夫もしました。心臓の手術が成功すると、血液がきちんと流れ、臓器が生き生きとしてくるのがわかります。これまでにも、術前には一度あきらめたゴルフを再びプレーできるようになるなど、患者さんの病状が劇的に改善し、元気になった姿を見るたびに、心臓外科医になって本当によかったと思います」

こう語る天野医師が、最初に外科医に憧れたのは小6のときだ。
「テレビドラマ『白い巨塔』を見て、手術で次々と患者を治す外科医の格好良さに目を奪われ、憧れました。中2のとき、母が胃潰瘍(い・かい・よう)の手術で快復したときには、『治療=手術』だと強く感じ、外科医への憧れがさらに強くなりましたね」
同じ頃、世界初の心臓移植が南アフリカで行われ、『心臓外科は、歴史を変える医療だ』と感動した。
「高2のときに父が心臓弁膜症と診断されたことが、心臓外科医を志した大きな理由です」

受験生のころにプレッシャーを乗り越えた人が戦力になる

天野医師(手のアップ)
たくさんの患者を救った手。「大学浪人時代、パチンコを人一倍やった。当時は手動だったから、パチンコで微妙な力加減を学んだ。それが結果として、手術に生きている」

天野医師によると、医学生が医師を志した理由の約9割が自分や家族、親せきの医療体験で、約1割が医療を扱った映画やテレビドラマ、漫画の影響だという。
「受験勉強中の自分を励ますために、医師は『人の役に立つ』『親に楽をさせられる』『人から尊敬される』『もうかる』などの理由もあると思いますが、やっぱりきっかけは医療体験が大きい。医療体験はいわば小さな芽。その芽を医学部に入って蕾(つぼみ)にし、医師になっていかに開花させていくかです」
 
受験勉強は、医師として必要な資質を鍛える機会になる。
「医師のなかでも、外科医は特にプレッシャーやストレスを感じることが多い。受験生のときからうまく管理する訓練を積み、プレッシャーやストレスを乗り越えた人が、医療現場で戦力となります
勉強するときには、この時間内にこのぐらいのことをやろうと計画し、進捗がほぼ一致することも大切だと話す。
「持ち時間に対するワークを確立できれば、90%以上の確率で合格します。机に向ったら、すぐに勉強にとりかかることです」
受験生のときに、計画を立て、時間を意識しながら勉強することは、医師や研究者になってからも役に立つ。天野医師は医学部に入学後は、「自分が父の心臓病を治す!」という強い思いで、誰よりも勉強した。
「私たちの時代と比べると、現在は勉強量が増えて、入学後の進級のハードルが高くなっています」

医学部に進学した場合、必要不可欠なのは家族の協力

天野医師(アンニュイ)
医学部合格はゴールではない。医学生になってからも学び続け、医師になってからも新しい情報を収集し、勉強を続けていかなければならない。「医学部受験で大事なのは、他人との闘いではなく、自分との闘いだということ。スポーツと同じで、自分との闘いに持ち込めた人が、納得のいく結果を出せます」

せっかく医学部に入学しても、社会のさまざまな誘惑に負けてあまり勉強しないと、有名進学校出身の学生でも留年するそうだ。天野医師は、「医学部合格は医学を勉強する権利を得ただけで、スタートラインにすぎない」と話す。
「予習、復習、リサーチを続けられない学生は、進級は厳しい。テスト前の一夜漬けも1度ならまだいいのですが、普段から勉強しないで一夜漬けを続けていると脱落していきます」
一般家庭の子どもが医学部に進学した場合、家族の協力が必要不可欠だという。
「家族みんなで、6年間の勉強を支える必要があります。さらに、卒業後の2年間の研修医、その後の2年間は正念場です。この10年ぐらいを本人が頑張り、家族がサポートすれば、その後は医師として順調にやっていけるでしょう」
 医学生のときはもちろんのこと、医師になってからも、新しい情報を収集し、真摯に勉強しなくてはならない。天野医師は、心臓外科医になって間もない頃、悲しい出来事を経験した。
「父の心臓弁膜症の手術を先輩医師に託しましたが、残念ながら亡くしてしまいました。このとき、心臓外科医を究めようと心に決めました」

負担が少なく術後の回復も早い! 救える命は飛躍的に増えている

天野医師が1996年に『オフポンプ冠動脈バイパス手術』を始めたときには、日本ではまだこの手術はほとんど行われていなかった。心臓を動かしたまま手術するため、従来の人工心肺を使った手術よりも難易度は高くなるが、心臓をはじめ全身への負担が少なく、術後の回復が早いのがこの手術のメリットだ。
「今後はオフポンプ手術が主流になると確信し、その技術を学ぶために海外に行き、手術を見学しました。海外からビデオを入手し、何度も何度も練習して、独学で縫合の技術を身につけました」

このように、新たな手術方法や器具の登場によって、救える命は飛躍的に増えている。天野医師は、外科医の魅力を熱く語る。「技術、経験、知識のすべてを駆使して、自分の手によって目の前の患者さんの命を救うことができます。手術が成功し、患者さんやご家族に喜んでもらえることは、何物にも代え難い喜びです。多くの外科医はそこにやりがいを感じています。手術はテクニックだけではなくアートです。この感覚は、外科以外の診療科ではちょっと味わえないと思います」

天野医師は、「生まれ変わってもまた心臓外科医になりたい」と願うが、近年、外科医になりたい学生が減り、診療科の偏在が問題になっている。将来、外科医が不足し、患者が手術の順番待ちをしているうちに手遅れになることが危惧されている。
「以前は、チャレンジ精神が旺盛な学生が多かったのですが、最近は何かに挑戦することなく、『そこそこでいい。楽な方がいい』と考える学生が増えています。そのことも、外科医志望者が減っている理由のひとつだと考えられます」

夏休みに手術や診察を見学する、高校生を対象にした体験プログラム

天野篤医師
仙台や大阪、ベトナムなどの病院でも手術をし、心臓外科医の育成にも力を入れている。「環境が違う場所で手術をするのは、経験値をあげることになり、私自身、すごく勉強になります」

医療界のリーダーとなる人材の育成にも力を入れたいという思いで3年前から始めたのが、医師を目指す高校生を対象とした「早期医療体験プログラム」だ。夏休みに医療者の視点で、手術や診察などを見学する。
「高校生のときから医療現場を体験し、将来は医療界のリーダーになってほしい。20年間はプログラムを続け、参加した生徒たちが30代後半になったときに、実際にリーダーとして活躍している姿を見たいですね」
医師になる前の生徒や学生の育成だけではなく、心臓外科医の育成にも力を入れている。
「院長を務める順天堂医院だけではなく、仙台、大阪、ベトナムなどの病院でも手術をしています。さまざまな病院で手術をすることは、後輩のためだけではなく、私自身も勉強になります」
外科医は55歳までが現役と考えていたが、既にそこから8年が過ぎた現在も、日々、手術の腕は上達しているという。父親を亡くしたときの悲しみを忘れず、毎日、工夫や努力、反省を忘れないからだろう。医師を目指す人はもちろん、そうでない人たちも見習う点は多い。

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