東大卒シングルファーザーの中学受験備忘録

6話 塾の実情と「塾弁」

2019.05.07

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堀 杜夫
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  • 1学年上の合格実績や、先生との相性を理由に塾を替える生徒もいる。判断は難しいが、命運を分けることも?
  • 新6年からは塾の勉強も忙しくなる。土日にも模試や演習、ゼミが行われるため週に3~4日通う
  • 夜遅くなる場合は「塾弁」と呼ばれる夕食を持たせるが、働く親には結構な負担

1学年上の戦果、先生との相性

数列という高校レベルの数学を小学生が理解するのは容易なことではありません。娘は「塾で教わったけどわからない」と言って、私に質問してきました。どうして塾の先生に聞かないのと尋ねると、「わかるまで丁寧に教えてくれない」と言います。これはまずいなと思いました。

塾も人手不足が深刻らしく、算数を教えている男性の先生は「本当は私、文科系なんですが……」と保護者会で言い訳していたことも思い出しました。ほかに算数を受け持っていた若い女性の先生は、じつはアルバイトの大学生でした。共通の知人がいたために、娘と私はその先生がまだ学生だということを偶然に知ってしまったのです。もっとも、その女性講師は授業がわかりやすいと人気で、あまつさえ大学卒業と同時にその塾に就職したくらいですから、学生アルバイトが一概にダメとも言えないのですが。

5年生の3学期、受験本番まであと1年と迫ったころ、一つ上の学年の戦果が出ました。娘が通う教室では、公立一貫校合格者はゼロという残念な結果に終わりました。人気のあった女性アルバイト講師が、入社とともに別の教室に移ることも知りました。ちょうどそのころです。ほぼ同時に入塾した同級生の男子が「塾をやめたい」と言い出したのは。受験・受検をあきらめたわけではなく、「塾の先生とそりが合わないので、ほかの塾に移りたい」とのことでした。

一方、うちの娘は、算数の授業には不満を抱えていたものの、適性検査の作文を指導してくれる国語の先生とは相性がいいようでした。本人に確かめたところ、6年生になっても同じ塾に通いたいと言います。親としては一瞬迷いましたが、同級生の転塾をきっかけに先生も少しは反省し、授業の質が向上することを期待して、娘の転塾は見送りました。しかし、あとになってみれば、その判断が間違っていたのかもしれません。

画像 HT

夜まで続く勉強と「塾弁」

中学受験塾の新年度は2月に始まります。1~3日に6年生が東京と神奈川の入試本番をほぼ終えると、5年生は新6年生として、新たなテキストで授業を受けることになるのです。娘が通う塾の公立一貫校コースでは、5年生は午後5時から7時半ごろまでの授業が週2日でしたが、受験に備えた実戦的な「演習」が加わり、夜9時過ぎまで机に向かうことになりました。

さすがにその時間まで空腹で勉強させるわけにはいきません。週2日の弁当づくりが始まりました。いわゆる「塾弁」です。夜遅くまで授業はせず家で食卓を囲むよう促す塾もあるようですが、多くの中学受験塾では塾弁づくりが保護者の大事なミッションとみなされています。子どもが塾に出かけるのは夕方ですから、専業主婦(夫)なら直前につくって温かい弁当を渡せるのですが、共働きやうちのようなシングル親の場合、朝つくり置きするしかありません。それを冷蔵庫に入れておき、塾に行く前に電子レンジで温めて持っていくという作戦をとりました。夜7時過ぎに弁当箱のふたを開ける頃には、まだほんのりと温かいのだそうです。

出勤前、週2回の弁当づくり

シングルファーザー6話・後半

妻が病床にあったころから、弁当づくりは学校の運動会や遠足などで時々経験していましたが、週2日となると重荷でした。いつもは朝6時に起床して、まず洗濯物を干し、次に朝ご飯をつくるのですが、塾弁をつくる日は、揚げ物でもしようものなら朝5時半起き。眠い目をこすりながら、娘の好きな鶏肉の唐揚げや一口カツを揚げました。同時に朝ご飯も用意しなければなりません。ご飯やおかずを食卓に並べて娘に食べさせ、仏壇のお水やご飯を替えて線香をあげ、ようやくテーブルについたら10分で朝ご飯をかき込み、娘を7時50分に学校に送り出す。冷めた油を鍋から容器に移し替える頃には、ひと仕事終えたような疲労感に包まれていました。それからシャワーを浴び、あたふたと家を出て会社に向かいます。

もっとも、こういう生活にも次第に慣れてくるものです。手抜きも上手になり、スーパーの総菜やレトルト食品、冷凍食品などをうまく使って、一品ごまかす技を覚えました。娘が塾弁を食べ夜遅くまで勉強している火曜と木曜は、塾の迎えの時間までちょっと一杯飲む時間が生まれます。早起きはつらいですが、少しだけ自分の時間が平日夜にも持てるようになりました。

4月からは、月2回ほどのペースで、日曜日の朝から夕方まで公立一貫校の適性検査に備える塾の「ゼミ」も始まりました。娘は土曜日、亡妻の実家に泊まるので、ゼミの日の塾弁づくりはおばあちゃん(私の義母)にお願いしました。土曜日には模試が入ることも少なくありません。6年生になってにわかに週末が忙しくなりました。(つづく)

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