東大卒シングルファーザーの中学受験備忘録

8話 ディスクロージャー

2019.05.20

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堀 杜夫
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  • 学校ごとに校風の違いだけでなく、「情報開示」の姿勢にも違いがあり、学校選びの参考になる
  • 私立中高一貫校の共学化と適性検査型入試の導入は、生き残りをかけた動き
  • AIが人間の知能を超えるという「シンギュラリティー」の話題は、私立校で定番化

情報開示でわかる危険度

駆け出しの週刊誌記者だった1990年代後半の日本は、実体経済にはまだバブルバブル経済 1985年、主要国のプラザ合意後、円高が急進。日銀は86年から金融緩和を繰り返し、空前のカネ余りと、実態を超す資産価格の膨張(バブル)を招いた。銀行は系列企業を使って不動産がらみの融資を競う。投機は株や土地からゴルフ会員権、美術品にまで広がった。日銀は89年から5回の利上げ、90年には大蔵省が不動産向け融資を規制し、バブルは株、土地の順にはじけていく。官民とも不良債権の処理に追われ、大型倒産が相次いだ。の余韻が残る一方、金融業界では信用危機が底なしの様相を見せ始めていました。始まりは95年、不動産融資で多額の不良債権を抱え、取り付け騒ぎの末に破綻(はたん)した大阪市の木津信用組合でしょう。97年には、日産生命、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券が、相次いで経営に行き詰まり、倒れました。そして翌98年、ついに日本長期信用銀行、日本債券信用銀行も経営破綻に追い込まれます。いま思えば、これら一連の破綻劇は、いまなお出口が見つからない日本経済の長い長いトンネルの始まりでした。

週刊誌は「危ない銀行」「危ない生保」特集で売り上げを一気に伸ばしました。それまで事件取材で毎週のように地方を飛び回っていた私は、編集長から経済記事を書くよう命じられます。経済にはまるで詳しくありませんでしたが、解説書を大急ぎで読んでにわか勉強をしては、証券アナリストや格付け会社などを回る日々が続きました。

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当時のキーワードは「ディスクロージャー」。日本語でいえば情報開示です。90年代までは企業決算といっても単体決算だったため、不良資産を子会社などに切り離す「とばし」によって、決算を粉飾することが比較的容易にできました。株や土地などの資産も、現在のように時価で評価するのではなく、取得時の価格で帳簿に計上していました。バブル期に高値で仕入れた株や土地は大きな「含み損」を抱えていることが多く、帳簿価格と時価の乖離(かいり)が抜き差しならないところまで広がっていました。それらを糊塗(こと)するため、欧米系証券会社の口車に乗せられて決算対策のデリバティブ株や債券などを元につくられた金融派生商品。今後の値動きを見越して売買を約束する先物取引などがある。株価指数先物は現物株より早く値が動くことがあり、先行指標として注目される。(金融派生商品)に手を出し、損失がさらに膨らんで、いよいよ万事休すとなる金融機関や企業も少なからずありました。

私は、当時は開示義務のなかった様々な数字を各社に質問し、それをもとに実質的な経営状態を比較するという手法で、記事を書いていきました。ディスクロージャーの要諦(ようてい)は、いいところだけではなく、悪いところも隠さずに見せるというところにあります。取材を重ねていくと、情報開示にどれだけ積極的に取り組んでいるか否かで、その企業の「危険度」が透けて見えるようになった気がしました。

あれから、およそ20年――。小学校6年生になった娘とともに、様々な学校の説明会や見学会に訪れるなかで、金融危機時代の記憶がよみがえってきました。各校のディスクロージャーに対する姿勢の違いが、おぼろげながら浮かび上がってきたからです。

一方、併願先を見極めるための私立一貫校の学校説明会にも、4月から精力的に足を運びました。私が週刊誌の中学受験特集でデスクとして注力した記事の一つが「公立一貫校と併願できる私立」でした。公立一貫校の入学選考に使われる適性検査と似たような入試を行う私立校が増えつつあり、それらの中から魅力を感じた6校を、秋までに訪問したのです。

生き残りをかけた私立の共学化

前述したように、娘は下町の都立中高一貫校を第1志望としつつ、公立一貫校の選考と似た適性検査型入試を実施する私立一貫校を併願対象として考えていました。そこで、6年生の秋までに、本命とは別に計6校の私立の学校見学や説明会に足を運んだのです。1校を除きすべて共学で、うち4校は元女子校、残り1校は元男子校でした。私立中高一貫校の生き残りを賭けた共学化の動きは、10年以上前から徐々に広がっています。男子校だった千葉県の市川学園や、女子校だった港区の広尾学園(旧順心女子学園)のように、共学化を契機に中学入試偏差値も大学合格実績も大躍進した成功例が知られています。私立校が適性検査型入試を導入する狙いは、高倍率の公立一貫校の「受け皿」となって学力の高い生徒を引き込むことにあるわけで、共学化と同様にサバイバル戦略の一環とみることができるはずです。

実際、訪れた多くの学校の説明会では、「新しい教育」が掲げられていました。たとえば別の私立校で成功を収めた校長が移籍して注目を集める山の手のB校。学校説明会で壇上に立つ先生たちはヘッドセットマイクをつけ、現在の仕事の約半分がAI(人工知能)に取って代わられる時代に必要な学力のあり方を説きました。共働きと思われる夫婦が、話を聴きながら何度もうなずいています。B校は適性検査型入試こそ行っていませんが、通常の4科入試はよく練られた記述問題が多く、また2018年から作文とプレゼンテーションとグループワークを課す新しい入試の導入をアナウンスしていたため、娘も私も受験してみたいと思っていました。

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「開けっぴろげ」な校風に好感

AIが人間の知能を超えるという「シンギュラリティー」の話題は、「新しい教育」を掲げる私立一貫校では定番化していたようです。いずれも下町にある元男子校のC校、元女子校のD校でも、似たような話を冒頭に聞きました。B校とD校は、帰国生や外国人生徒の受け入れや、海外留学を視野に入れた国際教育に力を入れているという共通点もありました。これらB~Dの3校はおおよそ、その沿革から実業系の私学と位置づけることができます。説明会では、産業界への「有用な人材」の輩出といった言葉がごく普通に語られていましたが、私はそこにかすかな違和感を覚えていました。

対照的だったのが、山の手のカトリック系女子校のE校でした。流行にとらわれない骨太の教育という印象がむしろ新鮮に感じられましたが、「お嬢様をお預かりする」といった先生方の言葉遣いに、下町の住民としては「べらんめえ」と言いだしそうになりました。食堂がなく毎日の弁当持参が前提となるうえ、通学時間がかかりすぎるという問題もありました。

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一方のA校は、開けっぴろげで気取らない校風が、私だけでなく娘の肌にも合ったようです。学校説明会に行くたびに、現役の生徒が壇上で自分の言葉で自校のよさをアピールします。司会役の生徒に促されて登壇した校長は「本校では生徒が主役」「生徒の自己肯定感を高めたい」が口癖で、生徒の自主性を重んじていることが伝わってきました。娘が通う区立小では、運動会などの学校行事は先生たちがもっぱら決め、児童に押し付けているといいますから、大違いです。ときには緊張のためか、壇上で固まってしまった生徒が参加者の失笑をかう場面もありましたが、学校側は気にしていないようです。他校では、いかにも優等生といった生徒が英語でプレゼンテーションをして参加者を感嘆させる場面もありましたが、生徒の自主性に任せ、ダメな面も隠さずに見せてしまうA校の方針に、かえって好感を抱きました。(つづく)

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