東大卒シングルファーザーの中学受験備忘録

9話 合格者数のからくり

2019.05.27

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堀 杜夫
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  • 多くの私立大学は出身高校別の合格者数を公表しているが、国公立大学の大半は非公表。合格者数調査は大変な作業
  • 「合格者ランキング」は単純に合格者数の多い順。分母の卒業生数を見て、何割がその大学に合格しているかを見る必要がある
  • 私立大学の延べ合格者数は「センター利用入試」で荒稼ぎが可能。各高校の本当の実力は「進学者数」でわかる

カタカナ名→漢字→番号のみ→掲示なし

ディスクロージャーへの姿勢の違いは、大学進学実績の数字にも表れます。

大学入試が終わる春、新聞社系ザラ紙週刊誌ザラ紙週刊誌再生紙などを使ったザラ紙でつくられた週刊誌。「パルプマガジン」とも。出版系の総合週刊誌では「週刊文春」「週刊新潮」など。新聞社系は「週刊朝日」「サンデー毎日」などがある。では「大学合格者ランキング」特集が毎週の誌面を飾ります。「個人情報」などという概念がなかった30年以上前は、東大合格者の氏名と出身高校が週刊誌に載り、その誌面を隅から隅まで映し出すテレビ番組がローカル局で放送されたものでした。当時の編集部は高校や予備校などから個人情報を入手して、合格者を特定していたと聞きます。予備校に通っていなかった私の氏名と出身校も、なぜか正確に誌面に載っていました。東大模試を受けた際の個人情報が使われたのだろうと、あとから聞きました。当時の東大の合格発表は、受験番号とカタカナの氏名が貼り出されたと記憶していますが、後年、氏名は漢字表記になり、個人情報保護のため受験番号だけになって、ついにはキャンパスの工事を理由に掲示自体が中止された年も続きました。

シングルファーザー9話①

そんなわけで、昨今の週刊誌の特集は、出身高校ごとの合格者数を掲載するにとどまっています。とはいえ、その調査にかかる手間は並大抵ではありません。多くの私立大学は出身高校別の合格者数を株式会社大学通信株式会社大学通信1965年創業の教育情報通信社。サンデー毎日や週刊朝日、読売新聞、朝日新聞など大手メディアに教育情報を提供しているほか、進学情報誌も発行している。 経由で公表していますが、国公立大学は一部を除き非公表です。例年、東大入試の合格発表がある310日には、編集部の別室にファクスが10台ほど並び、高校からの合格者数アンケートの回答をひっきりなしに受けるのです。これを次から次へとパソコンに打ち込み、その日の夜にはランキングに組版(くみはん)組版(くみはん)原稿に従って活字を拾って組み、罫線などを入れて印刷用の版をつくるまでの作業のこと。コンピューターによる紙面製作に代わった現代も使われして校了します。私は200507年の3年間にわたって、このお祭り騒ぎをデスク(副編集長)として仕切りました。通信技術が格段に進歩した現在も、基本的なやり方は変わっていません。

シングルファーザー9話③

数字のマジック

2018年の東大合格者数トップは例年どおり「御三家」の一つ開成高校で、浪人を含め175人でした。2位は筑波大学付属駒場高校で109人。ただし、両校の同年の卒業生はそれぞれ398人と162人ですから、合格者数を卒業生数で割って比較すると、開成より筑波大付属駒場のほうが東大に受かる率は高いことになります。合格者ランキングは単純に合格者数の多い順から掲載されますが、分母としての卒業生数を意識し、全体の何割ぐらいがその大学に合格しているかを見なければなりません。

基本的に1校しか受けられない国公立大学ですらそうなのですから、何校も何学部も併願できる私立大学に関しては、さらに注意が必要です。ランキングに掲載される合格者数は、通常は「延べ合格者数」です。たとえば、1人の受験生が東大文科1類に受かる一方、併願していた早稲田大学の政治経済学部と法学部、慶応義塾大学の法学部にも合格していたとすれば、合格者としては4人としてカウントされるのです。一部の難関を除く私立大学には、大学独自の入試を受けなくても、大学入試センター試験の点数で合格をもらえる「センター利用入試」が広がっており、受験料さえ払えばいくらでも出願し、合格を「荒稼ぎ」することができるわけです。

私がちょうどザラ紙週刊誌のデスクとして合格者ランキングの仕事をしていたころ、この制度の悪用が発覚しました。大阪の私立高校が受験料を負担して、1人の生徒に関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館の4大学)の計73学部・学科をセンター利用入試で受験させ、合格者数を水増ししていたのです。現役記者時代は企業の粉飾決算や隠れ債務などの問題を取材していた私に言わせれば、合格者数の「粉飾」でした。

シングルファーザー9話④

そこで、各校の本当の実力を知るために、延べ合格者数ではなく「進学者数」を調査しようと思い至ったのです。先ほどの例で言えば、東大、早稲田の2学部、慶応に受かり、延べ4人としてカウントされていた合格者が、実際には東大に進学したとすれば、東大にのみ進学者1人としてカウントされます。大阪の私立高校で延べ73人分の合格をもぎ取った生徒が他の国公立大学などに進んでいれば、関関同立の進学者としては、その73は一気にゼロになってしまうのです。

こうした実態を客観的に示す指標はないものか――そこで思いついたのが「本命率」でした。(つづく)

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