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幼稚園教員・保育士採用全国トップ 聖徳大学の「実践力」
2019.07.17

多くの卒業生が全国の幼稚園や保育園で「先生」として活躍する。その姿が園長や保護者から信頼され、出身校に多くの求人が寄せられる。そして、今度は後輩たちが幼児教育の現場を担う。幼稚園教員と保育士の採用で、毎年高い実績を上げる聖徳大(千葉県松戸市)には、そんな好循環ができあがっている。(撮影/朝日新聞出版写真部・小山幸佑)
優れた芸術で人間性を育む
幼稚園教員や保育士などをめざす学生が集まる聖徳大。キャンパスには、彫刻家のオブジェや、画家の手による壁画が各所に配置されている。学内では、交響楽など国内外の芸術を鑑賞する「聖徳学園シリーズコンサート」が年間約30回開催される。学生自らが豊かな人間性を育むことができるよう、優れた芸術に日常的に触れられるようにしている。こうした環境で行われる独自の人間教育が、幼稚園教員と保育士の採用数で全国トップの実績を上げる大きな要因だ。

児童学部長の大成哲雄教授はこう話す。
「児童学など幼児教育の理論を学ぶだけでなく、ピアノ、創作ダンス、人形劇、折り紙、造形といった幅広い表現教育で実践力を身につけるのが、本学の教育の伝統です」
児童学部児童学科に2018年度、特別な支援を必要とする子どもへの理解と支援を学ぶ特別支援教育コースを、19年度には運動遊びやスポーツ指導を専門的に学ぶスポーツ健康コースを新たに開設した。「常に時代に応じた新しい教育内容も取り入れるようにしています」(大成教授)
聖徳大の卒業生で幼稚園教員の免許を持つ人は約4万人。保育士資格を有する人は約3万2000人(19年3月末現在、短期大学部も含む)。多くの卒業生が全国各地の幼稚園や保育園などで活躍する。その姿を見て、「聖徳大の学生を採用したい」と毎年多数の求人が寄せられる。卒業生が園長を務める施設からの求人も多い。2018年度は、幼稚園教員・保育士志望の学生約520人に対し、23倍の約1万2000人もの求人があったという。

「『ようこそ先輩』と題した幼児教育経験者懇談会も企画し、卒業生から就職希望の学生に直接アドバイスしてもらう機会も設けています」(短期大学部保育科〈第一部〉長の阿部真美子教授)
小さいころに出会った先生に憧れ、「こんな先生になりたい」と理想を持ち続ける学生。「その夢をかなえてあげたい」という教職員の思いも採用実績を底上げしているようだ。
卒業生が実感する大学での「伝承遊び」
東條舞さんは、2015年、聖徳大の児童学部児童学科児童文化コースを卒業した。千葉県内の保育園に勤務して4年目。いまは0歳児クラスの担任を務める。幼稚園教員の免許と保育士の資格を持つ東條さんは、もともと幼稚園教員になるつもりで聖徳大に入学した。東條さん自身、幼稚園を出ていて、母親が幼稚園教員だったことも影響した。ただ、大学で実習を続けるなかで保育士に魅力を感じるようになった。

「幼稚園では、先生と子どもの立場がはっきり分かれているような気がしました。それに比べて保育園は、子どもと一緒に自分も成長できるように感じ、自分に合っていると思ったんです」
保育士の道を選んだ東條さんは、大学での学びがいまの仕事にいかに役立っているかを実感する毎日だという。その一つが折り紙だ。大学の授業で作った折り紙は、重ねると厚さ30センチほどにもなる。「なぜ、こんなにたくさん折り紙を作るんだろう」と疑問に思っていた。いま、その折り紙の一枚一枚を見返して、「明日はこの折り紙を子どもたちに教えてあげよう」と考える。
児童文化コースでは折り紙のほかに、けん玉、たこ揚げ、こま回し、竹とんぼといった「伝承遊び」が必修科目となっている。けん玉では実技試験まである。このけん玉も保育園でのコミュニケーションツールとしてとても役立っていると東條さんは話す。
「保育園では地域の方との交流を図っています。高齢の方が園に来られたとき、『私、けん玉ができるんですよ』と言うと、そこから会話が弾むんです」
「いつも笑顔の先生でいるのが目標」と話す東條さん。
「子どもたちを叱らないといけない場面もあります。でも、私が笑顔だったら、子どもたちも笑顔になれるんじゃないかと思うんです。延長保育を入れると、子どもは12時間も保護者から離れます。そんな子どもたちに、笑顔で落ち着ける場所をつくってあげたいですね」
学びのフィールドは地域社会に広がる
聖徳大がある千葉県松戸市は、「共働き子育てしやすい街ランキング2017」全国編(東京を除く)で1位を受賞するなど、子育て支援に力を入れている。このランキングは共働き・子育て家庭向け情報サイトである日経DUALと日本経済新聞社による独自の調査結果に基づく。

聖徳大でも、子育てに関して、地域や行政と連携してさまざまな取り組みを行っている。その一つが、大学のすぐ近くにある松戸中央公園で毎年7月に開催している「アートパーク」だ。2008年に始まり、18年には過去最多の約2000人の親子が参加。学生と一緒に段ボール箱で恐竜を作ったり、楽器を作ってパレードしたりするワークショップを楽しんだ。
「松戸中央公園はあまり子どもが遊んでいない公園でした。なんとか子どもが遊びに来る公園にできないかというのがアートパーク企画の発端でした」(大成教授)
いまでは、学生の社会参画力の育成や公園の新たな活用法、外遊びの重要性を提案するイベントとして、地域に密着したものになっているという。
短期大学部でも、地域と連携した子育て支援活動を授業として行っている。大学のなかにある子育て広場や松戸市内各所の子育て広場がフィールドだ。学生と教員のボランティア活動も活発で、学生がさまざまなイベントを企画し、子どもや保護者と積極的に触れ合っている。
「学生にとって、子育て中の若い保護者の生の声を聞くことは、学びの大きなエネルギーになっています」(阿部教授)
学びの場はキャンパスにとどまらず、地域社会に広がっている。
メモ
聖徳大学 1933年、現在の東京都大田区に設立された聖徳家政学院と新井宿幼稚園を起源とする。65年、聖徳学園短期大学を開設(90年、聖徳大学短期大学部に改称)。90年、4年制の女子大として聖徳大学を開学。本部所在地は千葉県松戸市。学部学生数は3182人(2019年5月1日現在)。建学の精神である「和の精神」に基づき、心を成長させていく人間教育プログラムを実践している。

<コラム> 幼稚園教員、保育士としてOB・OGが多く活躍している大学は、各地域の幼稚園や保育施設にたくさんのネットワークを持っている。地元の幼稚園から「○○大学出身者ならば、ぜひ採用したい」と求人が寄せられるのは、大学と幼稚園が長年培ってきた信頼関係のたまものだろう。上位校には新設の大学が多い。聖徳大(千葉県)、十文字学園女子大(埼玉県)などは1990年以降の開学だが、前身の短期大学、専門学校時代のネットワークがしっかり生きている。